第198話 幸せな一時とお邪魔虫
疲れた…何歳か老けた自信がある…
結果から言うと、無事に結婚の報告が終了した。
ユーノス辺境伯様の屋敷では奥方のアリア様が、
「親友のトリシアにも見せてあげたかったわ…」
と、俺もほとんど覚えていない母パトリシアの事を思いだしながら涙を流して喜んでくれて、辺境伯様は結婚の立ち会いが神様だったと伝えると、
「詳しく!」
と、興奮してしまい結局一晩お泊まりコースになってしまった。
翌朝、今年の国王陛下を招いたパーティーが中止になりのんびりとナナムルで弟子の指導をしていた料理人のロッソさんと合流してニンファの町へと戻り、
「披露宴の料理を考えるのが楽しみですな!」
と、ご機嫌のロッソさんをジャルダン村に転送した後に、俺達はダイムラー伯爵領の都、アガルトのジャルダン商会の敷地に転移する。
商会の皆に、久しぶりの挨拶と結婚の報告をすると従業員の皆はとても喜んでくれた。
「ダイムラー伯爵家に挨拶に行く」
と伝えると、元ユーノス辺境伯様の屋敷の料理人だったユーノスパンの職人さんが、
「ブレンダ師匠から新しいレシピのケーキ等も御座いますので手土産にどうぞ!」
と言ってくれて、
『あっ、手土産も無しで嫁の実家に行く所にだった!』
と思いだし、職人さんに、
「ありがとう、手ぶらで行っちゃう所だったよ」
と礼を言って、ケーキをゴッソリ買い込み、ついでにと、二階の雑貨屋で新作の石鹸の詰め合わせを購入して、妹達のご機嫌を取ろうとしたのだが二階に上がると、オルゴールの音が鳴っている…
「おっ、お洒落な感じだね。」
と俺が誉めると、雑貨屋の担当者が、
「ありがとうございます。
ヒッキー様の発案で錬金術師の方々が製作された店用のテーマソングらしいです」
と、教えてくれたが、
『この音楽…どこかで聞いた事が…』
と思いながら石鹸の棚を見ると、
『花の香り、豊かな泡立ち、精霊石鹸良い石鹸♪』
とポップが書かれているのを見て、流れている曲に何故か歌詞まで聞こえる現象に襲われた俺は思わず、
「丸々、牛乳の会社のパクりじゃねぇかよ!」
と呟く俺の頭の中に、
『バレた?』
とヒッキーちゃんの声が響いた。
まぁ、異世界まで牛乳の石鹸メーカーさんが文句を言って来るとは思わないが、ホドホドにしてほしい。
そんな事が有った後にダイムラー伯爵家に結婚の挨拶に向かうと、戦争の準備をはじめていたダイムラー伯爵が奥さま方と総出で出迎えてくれて、俺達が結婚の報告をすると、もう、祭りの様に大騒ぎであった。
ダイムラーパパは、
「なかなか、結婚しないからヒヤヒヤしたぞ!」
と、秘蔵の酒を引っ張り出して飲み始め、ダイムラーママ達は、
「もう、爵位で呼ぶとコロコロ変わるから今後はキース君で統一ね」
と、宣言されたり、
「本当に良かった…あまりに出世するから、我が家では不釣り合いになるかと…」
と、安堵されたり、
「ついでだから、もう一人か二人、娘を嫁にしない?」
と、とんでもない提案をされたりした。
ベントお兄ちゃんからの報告で、俺とシーナさんの結婚の立ち会いが神様本人で、シーナさんも『聖女』に認定されたと知らされたダイムラー伯爵家の方々は、
「我が家から聖女が出た!しかも、旦那はお昼寝の聖人様だ!!」
と盛り上がり、騎士団の練習も休みにしてドンチャン騒ぎが始まってしまったのだった。
昼過ぎにはかなり出来上がったダイムラー伯爵様に、
「町をあげての御披露目は、ザムドール王国を押し返して、軍務卿をキャンと鳴かせた後だな!
息子よ、パパと一緒に戦地で暴れようぞ!!」
と、ご機嫌である。
確かに、戦争を免除してもらっているが、今年の戦争は普段出陣しないユーノス辺境伯様も出るらしいし一度参戦しておくかな?
魔法もスキルも無い俺が出ても役には立たないかも知れないが、難民の避難誘導ぐらいは出来るだろうし、
『この戦争が終わったら披露宴をするんだ』
は、ギリギリ死亡フラグでは無い気がするので大丈夫だろう。
いざとなったらヒッキーちゃんが緊急強制転移してくれるし…
などと考えながら結局ダイムラー伯爵家でも1泊する事になり、現在やっとジャルダン村へと帰還して、マイホームの自室に入ると何故かベッドがダブルサイズに変わっていた。
どうも、ヒッキーちゃんのアイデアらしいが俺はツッコむ元気もなく(間違えないで欲しいのだがあくまでもヒッキーちゃんにである。)シーナさんと二人でクタクタになり、ロマンチックでも何でも無い状態で並んで寝る事になった。
お昼寝のつもりで休んだのに、相当気疲れしていたのかグッスリ寝てしまい、夕方に、
「旦那様、そろそろ起きませんか?」
とのシーナさんの声で目を覚ます。
目を開けると、目の前にシーナさんが横になったまま俺を見つめて、
「フフっ、何だか恥ずかしいですね…」
と微笑む。
『寝起きにこんなん反則やん!可愛いすぎやろ!!』
と心の中だけで大騒ぎして、俺が真っ赤な顔をしていると、シーナさんが、
「旦那様、真っ赤ですよ」
と、俺の頬っぺたをツンツンと指でつつき、暫しのあいだ恥ずかしさで赤くなった顔を互いに見つめ合ったあとで、大笑いした。
なんとも幸せな一時だった…
ヒッキーちゃんと、ベッキーさんが頭の中で、
『ベッキーちゃん、もうちょっと、今丁度良いところだからっ!』
『しかし、お姉様、ロッソさんが夕飯が出来たと…』
と話すのを聞くまでは…
俺は、シーナさんに、
「ロッソさんが、夕飯が出来たって呼んでるらしいよ」
と囁くと、シーナさんは、
「えっ、どうしてそれを?」
と驚くので、
「覗き見てる妖精と精霊の話し声からね。」
と教えると、シーナさんは、『あら!』と驚き、先ほどより真っ赤になり、
「イチャイチャするのも、全部見られてましたか?!」
と、今までの事を何やら思いだしていた様なので、
「敷地外のデートは覗かれてないですよ」
とだけ教えておいて、二人で食堂へと向かう為に起きる事にした。
頭の中にヒッキーちゃんの声で、
『マスターがまだ、楽しんでいるでしょうがぁ!』
と、どこかの北国の父親みたいな台詞をベッキーさんに言っているのを聞きながら…
『後で寝室の監視を出来ない設定に変えれないか調べてみよう!』
と心に誓う俺だった。
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