第192話 俺が転生した理由
聖獣マシロ様の洞窟の奥に小さな祠が有り、そこに俺とシーナさんの二人が案内され、チャチャ様に、
「ここが神様とお話が出来る場所だよ」
と教えてもらったのだが、神様とお話しをした事がないので、どうやって神様と交信するのかすら解らない俺はチラリとシーナさんを見ると、シーナさんも空き時間でレクチャーされていた訳では無いようで、少し困った顔で首を横に振る…
「あのぅ、チャチャ様、これはどうすれば?」
と、俺が質問すると、チャチャ様は、
「目を瞑って祈れば大丈夫だよ。」
とだけ言って、「さぁ早く」と急かされる。
マシロ様も頷きながら、
「ダイジョブ、イタクナイ。」
と、なんか微妙に不安になる言葉をかけてくれた。
『痛くないらしいが、苦しいとかなら嫌だなぁ…』
などと思いながらも、シーナさんと祠に近寄り、二人並んで祈りを捧げてみる。
瞳を閉じて、『神様…』と祈ると、次の瞬間には、
「はぁ~い」
と、チャチャ様では無い女性の声がして驚きながらもそっと目を開けると、そこは、白い壁の建物の中で少し大きなテーブルがあり三人の仲が良さそうな家族がお茶を楽しむ居間だった。
俺は、
『あっ、神様の木像とソックリだ…あの像のクオリティはまさに、
などと、どうでも良い事を考えていると、少しガタイの良いお父さんが、
「久しぶり…と言っても覚えて無いよね。
そちらのお嬢さんと同じで、はじめましてで良いかな?…バルドだ。」
と、自己紹介してくれた。
俺は以前この神様と逢った事が有るらしいが、確かに覚えが無い…あえていうならそっくりな木像を見たことが有る程度である。
俺と、シーナさんは、それぞれ、
「キースです。」
「シーナと申します。」
と挨拶すると、バルド様は、
「知ってるよ。
見てたから…お風呂でお尻の治療をしてもらってからも、なかなか発展しない二人の関係に、もう、ヤキモキ…」
と、言いかけた時に、奥さまに、
「あなた、私達の紹介がまだなのですわ。」
と言われて、『しまった!』みたいな顔をしたバルド様が慌てながら、
「こちらが、愛しの妻の…」
と、紹介すると、奥さまは木像よりも大きくなったお腹で、
「座ったままで許してねメディカです。」
と、軽く頭をさげて下さった。
バルド様は続けて、
「そして、驚くと思うが君のスキルの管理をしていたのは、何を隠そう可愛い我が娘、」
と紹介された少女が、
「ルヴァンシュです。」
と自己紹介してくれたのだが…
『何も隠せてなかったよ?…あれかな?神様ジョークかな?!どうしよう、こんな時の返しはどうすれば…あぁ、神様教えて下さい!!』
とプチパニックになっている俺に、メディカさまが、
「どの神様に助けを求めたかは解りませんが、あれで隠せていると思っているのは、旦那と娘の二人だけですから…本当に…」
と、呆れながら教えてくれたのだが…
『あれ?俺、声に出したっけ?』
と考えていると、ルヴァンシュ様が少し落ち込みながら、
「キース君、神界に来た魂の思考なんか神には声に出さなくても解るわよ。
でも、だからこそ解るのよ…本当にバレていたのね…ショックだわ…」
と教えてくれた。
バルド様は、
「長くなるし、お嬢さんが驚き過ぎて気を失いそうになってるから、一旦お茶にしないかい?」
と誘ってくれて、俺とシーナさんもテーブルにつき、神様ファミリーとのティーパーティーがはじまったのだが、お茶会の話題としてはかなり難しい内容だった。
この世界は元々他の世界の主神様が、仲違いしていた奥さんや子供を追い出す為に世界の種を蒔いて作った、少し曰くつきの若い世界で、
「話すと長くなるから…」
と、はぐらかされたが、なんやかんや有って神様ファミリーが管理する事になり人間には気の遠くなりそうな時間を使って、何とかここまで来たのだそうだ。
神様ファミリーの開拓が実を結び、世界が成長したのだが良いことばかりでは無いみたいで、文明が進み人口が増えて生命力が漲る世界は、同時に住んでいる生き物達からの負のエネルギーも溜め込み、その清濁合わさった巨大なエネルギーを爆発させる可能性があるらしく、この世界の進む選択肢として、
ひとつは、マジカルな力を排除して科学の世界へと舵をきり、暴発する恐れのある地脈と呼ばれるエネルギーの流れ自体を小さくする方法…
しかし、これをすれば、魔法やスキルの力も無くなり、人は弱くなるが、同時に魔物も力を失い獣へと弱体化するという選択肢と、
もう一つは、〈ダンジョン〉と呼ばれる管理システムを構築し、地脈からエネルギーを吸い上げて、悪意や負のエネルギーを固めたダンジョンの魔物を人々に倒させ、地脈のエネルギーを活用可能な物に変えて制御する方法…
これをすれば、魔力が世界にもっと溢れて魔法が使える者が増え、スキルを後天的に取得出来る様にもなるが、勿論の事、魔法や特殊なスキルを使う強い魔物も増える事になるという選択肢である。
そして、バルド様達神様ファミリーは後者を選ぶ方針にしたらしい。
確かに、この世界は剣と魔法の世界であるがダンジョンなどお目にかかった事が無く、ケモミミすら先ほど初めましてをしたぐらいでドワーフにエルフもこの世界のお伽噺にすら出てこない…
ちなみにであるが、女神メディカ様の説明では、この世界は、現在人間だけの世界に見えるが元を辿れば2つの種族を元に出来ているらしく、バルド様の守護する人族は魔法を使う能力の無いが適応力に優れた種族で、この世界のどこでも生活が出来るのだそうだ。
メディカ様の守護する妖精族と呼ばれる種族は、魔力の濃い土地であれば、魔法も自由に扱え、若々しい見た目で長生きもする種族であったが、出来たばかりのこの世界では、魔力など十分に無く、世界に点在する小さな魔力溜まりの側でひっそりと暮らしをしていたらしい。
貴重な魔力溜まりに暮らしていた妖精族は『精霊』や『妖精』と呼ばれていたが、人族との交流が盛んになるにつれて魔力溜まりの村から魔力の薄い人族の国に移り住み交配が進み、少ない魔力環境でも魔法が使えるハイブリッドが産まれたのが魔力適性アリの方々ということなのだとか…
『シルフィード王国の初代国王も妖精族の奥さんを村から連れ出したから、精霊は人の世に来ると力を失うと言われていたのか!』
…と理解した俺だが、しかし、解らないのが、この一件と俺の関係性である。
そして、話を整理しつつ頭をひねり考えていると、じわじわと、
『あれ?俺の自宅警備スキルって…ダンジョン管理システムの試作スキルなんじゃない?』
という仮説にたどり着いた。
すると、ルヴァンシュ様が、
「あたり!凄いね、流石は異世界の助っ人に選ばれただけはあるわ」
と感心している。
あぁ、俺って地球の神様からの派遣社員的な人材だったのか…と、理解した俺は、驚くよりも顔も知らない地球の神様にただ感謝をしていた。
『チャンスをありがとう』
と…
バルド様が、
「キース君が前の人生で、大変な状態でも投げ出さず、最後まで頑張ったからだよ。
途中で投げたした魂にはチャンスは来ないからね。」
と微笑んでくれたので、
前世の俺は、あんなクソみたいな状況でも投げ出さずに、とりあえず天寿を全うしたらしい事だけは新たに理解することが出来たのだった。
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