第191話 情報量がキャパオーバー


聖都ダリアに到着し、大教会へとやって来たのだが、アークバルド陛下達イグノ王国の方々はソードドラゴンの錬金素材の納品に別室に向かい、俺達シルフィード王国組は大教会の奥にある本殿へと案内されていた。


俺は歴史ある神殿を見ながら、


「ここでお祈りを捧げれば、ひとまず聖人としての仕事が終わりかな?」


と呟くと、シーナさんが、


「ようやく、ますね」


と耳打ちしてくる。


本当に、落ち着いたら家族になろうとプロポーズして三年…ようやく結婚について考える余裕がでて来た。


実は俺が結婚しないとナッツも結婚をしないみたいな事を言っていたらしく、エリーさんの事を心配した母親のミリンダさんや、妹のシュガーちゃんにも軽く圧をかけられている現状なのだ。


「お姉ちゃんが、行き遅れる!」


と…


『俺、この旅が終わったら結婚するんだ!』


とか考えながら、


『これは死亡フラグでは無いよね?…』


と、自分に言い聞かせているとニンファの町にも来ていた巫女のチャチャ様が現れ、


「いらっしゃい、キース君、待ってたよ。

あと、婚約者さんも、呼ばれているからついてきてね…他の皆は、暫くここで待っててぇ~」


と言って、俺とシーナさんだけが本殿の更に奥の森へと、チャチャ様と数人のフードを深々と被った教会の方に案内されながら進む。


歩きながらチャチャ様は、


「二人は結婚式まだなの?」


と聞いてくるので、俺が、


「戦争とか、少しバタバタしていたので、落ち着いてから…なんて言ってたらタイミングがなかなか…」


と、答えると、チャチャ様は、


「駄目、駄目!

今から世界が変革するのに、落ち着くタイミングなんてなかなか来ないよ。

もう、今日ついでに式だけでも挙げて披露宴とかをそれこそ落ち着いてからやらなきゃ!」


と言って、シーナさんに、


「ねー、そうしなよ」


と、オススメしている。


いや、結婚のくだりはいいとして、その前に、なんだよ『世界が変革する』って、この異世界にもSDGsの波が来てるのか?

お風呂や台所を二酸化炭素がでちゃう薪から太陽光とかにするの?…などと、考えながら森の小道を進んだ先に何軒かの小さな集落と大きな洞窟がある場所に到着する。


俺が、アホみたいに口を開けて洞窟や集落を見回していると何処からか、


「キタカ、マッテイタ。」


とカタコトの言葉が聞こえた。


声の主を探すがその方向には洞窟しか無く、感じた事のない気配にシーナさんの前に立ち少し身構えていると洞窟の中から白くてバカデカい狼が現れた。


俺は、


「魔物か?!」


と、腰の剣に手をかけようとするとチャチャ様が、


「マモノ、チガウ!聖獣サマ!!」


とのお叱りが入る。


白い狼本人も、


「ソウ、マモノチガウ!」


と焦っている。


俺は、剣から手を離して、


「申し訳ありません聖獣様…」


と謝ると聖獣様は、


「イイ、キニスルナ」


と言った後で、ため息を一つ吐いて、


「あ~、喋り難い…こっちの言葉はしんどい…」


とボヤいているのだ…それも日本語で…俺は思わず。


「聖獣様、日本語上手ですね」


と、日本語で話すと、シーナさんはいきなり知らない言語を話す俺に驚き、チャチャ様は、


「私の解らない言葉で話して…ズルい!」


と拗ねている。


聖獣様は焦りながら、


「ムズカシイ、ハナシ、スル、」


と言ったかと思うと、俺に、


「込み入った話しするから、こっちの言葉では僕が伝えられないから日本語で暫くは話すって、チャチャに言ってよ…お願い」


と泣きつく聖獣様…

正直、俺はもうお腹一杯な状態であるがチャチャ様に暫く日本語で話し合う事を告げて、シーナさんには暫くチャチャ様のお相手をお願いし、ようやく巨大な狼の聖獣様との話し合いが始まった。


フードを被った人たちが、フードを取ると全員ケモミミな方々で、


「聖獣様、ご用の際はお呼び下さい」


とだけ告げて洞窟の周りの集落へと帰って行った。


聖獣様は、


「驚かないんだね」


と聞くので、俺は、


「正直驚き過ぎて一周回って、落ち着いてるパターンです。

まぁ、見るのは初めてですが、異世界だし居るかもなぁ?と少しは、思っていましたよ…獣人さん…」


と答えながら、ケモミミの持ち主達を目で追うと、聖獣様は、


「そんな風に思うのは、他所の世界の魂だからだよ…普通は、ほら…」


と、シーナさんの方に顎をクイっとすると、シーナさんが腰を抜かして、


「獣…?人…?」


と、うわ言のように言っている横でチャチャ様が、


「大丈夫、あの耳はモフモフだから悪い物ではないよ。

言ってごらん、あれは、良い、モフモフ…」


と、何やら暗示をかけている…聖獣様は、少し呆れながら、


「まぁ、チャチャに任せて、大丈夫…でしょう。

知らんけど…」


と心配しか残らないセリフの後で、


「こちらは、こちらの話をしますか」


と、俺の知らない色々な話をしてくれた。


まず、聖獣様ご本人の事からであるが、彼は他の世界の訳アリ神様のパパと、神獣のママの間に産まれた神様候補の〈マシロ〉様で、なぜ、日本語が話せて日本的な名前なのかと言うと、パパが他の世界へ転生した日本人であり、ママにもナイショのパパとの暗号感覚で使っていた日本語の方が、育ちきってからやって来たこの世界の言葉より上手に話せるのは当たり前らしい。


彼はその世界から、こちらの世界に派遣された獣人の守護神候補生なのだそうだ。


世界が少し成熟すると、他の世界と繋がり易くなり、新たな神様が増えたりして、新たな人種や新たな大陸が発見…というか、追加されたり、他の異世界と合流して混じり合ったりしながら成長するらしく、上の神様の会議の結果としてマシロ様と獣人族の方々がこの世界に引っ越しする事になったらしい。


もう、なにから手をつけて良いか解らない情報量に、俺は考えるのを止めたくなるがマシロ様は、


「でね、キース君で良いかな?!

君も、今回の変革の重要人物だから…この後で神界に意識を繋げてもらったら直接神様達から色々説明してくれると思うから、それと、あんまり仲良く話してると、チャチャが焼きもち焼くから、そろそろ、こっちの世界の言葉で話そうか…

パパが言語スキルをくれたら良かったのに、『ねだるな、勝ち取れ!』って言って追加のスキルくれなかったんだよ…嫌になっちゃう…」


と言った後で、マシロ様は、


「チャチャ、ハナシ、オワッタ。」


と言っていた。


俺は、あぁ、去年ニンファの教会でチャチャ様と自己紹介した時に、「ミコ、チガウ、チャチャ!」って言ってたのはマシロ様の真似だったんだ…

と、変なタイミングで、どうでもいい事実を知って、知恵熱出しそうな現実から一旦、目を反らそうかな?などと真剣に考えていたのだった。

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