第189話 サヨナラとおかえり


イグノ王国の廃業した鍛冶屋と武器屋と防具屋の三軒並びの土地と建物をアークバルド国王陛下からプレゼントしてもらった。


即日別荘指定を終わらせ午前中にもらったケニオスの街の土地の整備を行ったのだが、今ある三軒の建物は、鍛冶釜戸もしっかりしていたので鍛冶屋の建物はアグアス王国の旧市街の土地に飛ばし、


武器屋と防具屋の二軒はジャルダン村に飛ばして改装をして、新たなパン屋やジャルダン商会の店にする予定で、代わりにケニオスの街の更地には、既にジャルダン村で作ってあるパン屋と雑貨屋を移築していく…

建物が消えたり新たな建物が現れたりする異様な光景も、


「自分…聖人ですから…」


みたいな感じで流していると、聖地を守る騎士の末裔の国だからか、


「神の使徒様ならば、そんな事もあるんだぁ…」


ぐらいの反応であった。


そして、午後からはパン職人と、商会職員の引っ越し作業に合わせて、アークバルド国王陛下から派遣してもらったアイテムボックスのスキル持ちの職員さんと、イグノの騎士さんの二名をジャルダン村にご案内して、ソードドラゴンを渡しついでに石鹸や甘味などの撒き餌…いや、手土産に、酒やオツマミになる加工肉なども渡して、数日中にオープンするイグノ王国のジャルダン商会1号店の宣伝も兼ねてウチの商品をばらまく事にした。


来週のパーティーが終わる頃には、噂が噂を呼び、イグノ王国1号店の売り上げに繋がるだろう。


俺達はケニオスの街に敷地内転移で戻り、アイテムボックス持ちの職員さん達と別れた後は、俺や護衛騎士隊の数名は出店準備を手伝ってシーナさん達にはイグノ王家の方々にナイショの髪の毛の御手入れ方法や、蒸留酒の楽しみ方等をレクチャーする極秘任務に就いてもらっている。


明日か明後日には、パン屋の準備が整うので柔らかいパンもオススメする予定でいる。


来週のイグノ王国のパーティーには、艶々の髪や知らない酒、それに柔らかいパンなど話題で持ちきりにすればジャルダン商会のイグノ王国1号店も軌道に乗るだろうし、何より派遣されたメンバーもやる気に満ちているので、任せておいても上手くやってくれるだろう。


夕方頃まで店の事などで、商業ギルドなどを巡り、足りない物を購入したりしながら過ごし、従業員達の引っ越しと店の登録も終了したので、後は、任せてケニオスの城へと戻ると城の中庭ではソードドラゴンの解体が行われていた。


冒険者ギルドの解体職人さんの指示で、騎士達が手分けして皮や肉を解体し錬金ギルドから派遣されたらしい職員さんが、血や心臓、肝に目玉などの素材の処理をしていた。


中庭を進み城に向かうのだが、既に剣状の素材は先に解体されており、鍛治師ギルドの方々がソードドラゴン金属を宰相様の指示で、振り分けている。


たぶん、早急に剣や槍の製作を依頼しているのだろうが、鍛冶屋のおやっさん達が何人も素材を前に泣き崩れているという異様な風景だった。


それから数日間は、連日、国をあげてのお祭り騒ぎで、鮮度が命の素材はアイテムボックス持ちの方々に保管されて無理だったが、ケニオスの街の広場には解体されたドラゴンの骨が飾られ、町の方々にソードドラゴンを討伐した事を知らせていた。


そして、肉の一部はパーティーに出されるのは勿論、街の人々にも暖かいスープとして振る舞われる事になったので、ソードドラゴンの出所の噂が街に広がり、『龍殺しの聖人』との、2つ名が浸透し始めて、俺は内心、


「やったぜ!お昼寝の聖人よりは千倍ましだ!!」


と喜んでいる俺だったが、俺はすっかり忘れていたのだ。


この国の第一王子と、アグアスの第一王女が婚約中で、転移スキル持ちを使い度々交流している事を…

パーティーの影に隠れ、祭りの様に盛り上がるケニオスの街の教会には、アグアスの教会の職員も転移してきて王子と王女の結婚式の打ち合わせついでに、彼らは披露してしまったのだ…

アグアスの街で産声を上げたばかりの、影絵劇で…

演目は、昼寝をしていれば神と交信できて、様々な事が出来る男が、相棒の心優しい青年と、森の妖精と、湖の精霊と共に人々を助ける物語を…

パーティーが無事に終わる頃には、俺は再び『お昼寝の聖人様』に戻り、様々な理由で各所の方々に祈られる事になってしまっていた。


そんな事も知らないままの俺は、昨夜のパーティーも、なんだかんだ言ってもう連日お祭り騒ぎで、特別パーティーだった気もしないが、明後日辺りには聖都へ旅立つので、パン屋と雑貨屋の様子を見に、散歩がてらシーナさんとお出かけすると、住人に、「聖人さまぁ!」と手を降られ、娘さんからは、


「良い縁談が来ますようにっ!」


と祈られ、鍛冶屋のおっさんからは、


「良い作品が出来ますように…」


と願われる。


『何が起きている?』


と焦る俺に、とどめを刺す様に、小さな男の子が駆け寄り、俺のポケットに小銅貨をネジ込み、


「お昼寝の聖人様…おねしょが治りますように!」


とお願いされた。


俺は、「お昼寝…」との言葉をぶつぶつと呟きながら、頭をフル回転させて、何が起きているのかを改めて考える。


そして、ニンファの町の教会を見に来た教会関係者の存在にたどり着き、


「何をしやがった?!」


と、ケニオスの教会を訪ねると、雨戸の締め切られた礼拝堂の中に、子供達の笑い声と、スクリーンに写し出された色鮮やかな影絵人形が楽しそうに踊っていた。


劇が終わり雨戸が開かれると、


「お昼寝の聖人様だぁ!」


と、思わぬご本人登場に沸き立つ子供達に揉みくちゃにされた後、


「お昼寝の聖人様、奥方様!握手してください」


と言い出し、礼拝堂は不意な握手会会場へと変わってしまった。


劇を見せられてからの握手会…


『皆、ケニオスの教会に来て聖人と握手だ!!』


みたいなキャッチフレーズが聞こえて来そうな状況で握手をしながら、ニンファの町で見たことのある教会関係者の方々や、アグアスの教会の神官さんが居るのを横目で確認し、ここまでの道で祈られた事などを思い出しながら、


『サヨナラ龍殺し…お帰りお昼寝…』


と、心の中で呟く俺だった。

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