第188話 お酒のあとはホッペにチュウ


イグノ王国に招待されたパーティーには数日の余裕を持って王都ケニオスに到着し、アークバルド陛下に試合を挑まれたり、一緒に風呂に浸かったりして、その後飲んだり食べたりと…

ある意味もう、パーティーに出席せずに旅立っても良いのではないかと思うほど酒盛りは盛り上がり、多くの蒸留酒好き達と酷い酔っぱらい達を誕生させる結果となった。


酒好きのダイムラー伯爵家の次男としての血が騒いだのか、護衛騎士隊長のベントお兄ちゃんも国王陛下達と飲み比べをして、イグノ王国の方々と肩を組みながら最後の方まで飲み続け、翌朝には何故か二日酔い気味のイグノ王国騎士達がベントお兄ちゃんに駆け寄り敬礼をするほどに尊敬されていた。


アークバルド国王陛下や宰相様からは、


「あの酒を来年のパーティーには振る舞いたいし、何よりもう葡萄酒やエールだけでは駄目な体になってしまったので何とか定期購入は出来ないだろうか?」


と、相談された俺は、


「来年とは言わずに、ある条件を満たせば来週のパーティーにも間に合いますよ。」


と告げると、国王陛下と宰相様は真剣な顔になり、


「その条件とは…」


と詰め寄るので、俺は慌てながら、


「怖い、怖い!別に変な条件では無いですよ」


というと、国王陛下は、


「我が国の宝物であるソードドラゴンの素材で作った武具でも差し出す。

ただ、イグノ王国の長い歴史で、初代様の討伐したソードドラゴンから作り出した武具を気前よく配ったので、人気のショートソードは既に無く、戦斧や大鎌などになってしまうが…」


と寂しそうに語る…

なんでも、ソードドラゴンのあの剣状の素材は、金属として、既に〈切れ味上昇〉と〈体力上昇〉が付与された状態で、更にイグノ王国で開発された、魔物の素材を練り込み金属に魔物の能力を付与する〈魔鋼〉の技術を使えば、追加の能力を持った武器が仕上がるらしく、数百を超える程有ったソードドラゴン金属の武器達も、イグノ王国の歴代の王が何代にも渡り、褒美等に配り捲って、現在は国王陛下と次期国王に代々受け継がれている、ソードドラゴンの角と牙を使った国宝の剣を除いては、使い手を選びそうな不人気武器しか残っていないらしい。


一度作ったソードドラゴン金属武器は壊れにくい強さが有るために、他の武器に鍛え直す事も出来ないらしく宰相様も、


「アグアス王国の姫様との婚礼の際に、アグアス王国に送る品物の一つとして槍か剣が有れば良いのですが…」


と、ガッカリしているので、あまりに可哀想になり俺は、


「別にそんなに、凄い条件では無いですよ。

ただ、私が自分の自由に出来る敷地でしか使えないスキルしかないので、この地でその土地が手に入れば、ウチの村から酒が取り寄せれる様になりますし…そうですね、アイテムボックス持ちを連れて来て頂けたら、倉庫に有るソードドラゴンもプレゼントしますよ。

アグアスの姫君との婚礼に、今からなら間に合うでしょ…」


と、しゃべっている途中で、国王陛下と宰相様に俺はガシッと掴まれて、


「今何と申した?」


と、言いながらユッサユッサと揺すられる。


俺は、


「えっ、ですから土地をですね…」


と再度答えると、アークバルド国王陛下が、


「えぇい!そうではない、ソードドラゴンとな?!」


と、真剣な目で俺を見つめている。


あぁ、ヤバイな…あれかな?

初代様が倒して、国を興したソードドラゴンさんは国のシンボル的なアレだったかな…

ポイント欲しさに倒したは良いが、使い所に困っていたので丁度良いと思ったがマズったかな?

錬金術師のチームからの助言で、聖都ダリアでならば、ドラゴンの心臓と血で、欠損部位は勿論、病や呪いまで治す〈エリクサー〉が作れるららしいから聖都へのお土産にでもと考えていたが…どうしよう。


と、俺が焦り散らかしていると宰相様までが、


「誠に、ソードドラゴンですか?…それを討伐されたので?!」


と、俺を覗き込むので、俺は観念して、


「申し訳ない!イグノ王国ではソードドラゴンを倒しては駄目でしたか…

イグノ王国の初代様の逸話に習い、たまたま見つけたソードドラゴンを水攻めにしまして…」


と、罪を白状していると改めて国王陛下が、


「倒したのだな」


と、念を押してくる。


俺は、「はい…」と、申し訳なさそうに返事をすると、アークバルド国王陛下は、


「神よ感謝致します!」


と言って、俺の頬にチュウをした後に俺を高い高いしながらクルクル回り、護衛の騎士さん達も集まり出して、

色々な意味で気持ち悪くなる俺は暫くイグノ王国のおっさん連中にワッショイワッショイと揉みくちゃにされていた。


落ち着いた後で話を聞けば、ソードドラゴンは別に倒しても良いらしく、それどころか何代か前に討伐隊を編成して南に向かったらしいが、壊滅状態となり、多くの騎士と、ソードドラゴン金属の武器を失い討伐を諦めた宿敵でもあるらしい。


国王陛下が、


「ソードドラゴンをくれるのならば、国の半分を差し出しても構わない!」


とか言い出すので、


『どこの魔王だよ…』


と思いながらも、俺は、


「解体もしていない状態ですので、心臓と血を聖都で使って貰おうかなと考えていただけなので、有効活用して貰えるのならばイグノ王国にプレゼントしますよ。

べつに、国の半分なんて大層な物は要りませんので仲良くしてくれたら嬉しいです。」


と告げると、アークバルド国王陛下は、


「勿論だ!

初代様が二千の配下と一万の信者と協力して、半年近くの時間を掛けて倒したソードドラゴンを、倒されたお方に「友」と呼ばれるなど、誉以外のなにものでも無い!!

土地をお探しとあらば早速用意させましょう」


と言ってくれた。


俺が、


「大袈裟ですよ。

まだ、現物も見ていないのに…

土地は、シルフィード王国金貨で悪いのですが、正規の価格で購入します。」


というと、国王陛下は、


「剣を交えた相手が、嘘を言う相手か否かぐらいは解ります。

聖人様から賜った酒のお礼としてだけでも土地を送らせて欲しい…」


と言ってくれ、宰相様は配下に指示を出して商業ギルド職員などを集めはじめていた。


俺は、ナッツに、


「ゴメン、皆に一緒に街ブラに行けなくったと伝えて」


と伝言を頼みまだ少し酒臭いおっさん達との会議を続けたのだった。

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