第187話 ホッとして、ひとっ風呂
『ふぇーん、怖かったよう!』
あんなに戦闘狂な雰囲気で試合を挑まれたら、もう、吐くほど強い戦闘民族の王様かと思うじゃん!!
もう怪我してポーションで水っ腹になるのを覚悟していたのだが、アークバルド国王陛下は大火力の魔法が打てるが、近接戦闘は〈頑強〉と〈鉄壁〉という防御特化のスキルを持った、ただの試合好きの王様だった。
本人が超打たれ強くて、大概の攻撃を受けても軽傷で済むからか剣は自然と大振りになり、あまり強く無いのでイグノ王国の宰相様や配下の方々にも、力量的にも国王陛下が簡単に相手に怪我をさせる事もスキル的に国王本人が大怪我をする心配も無く、本人の趣味だからと試合については結構自由にしているのだそうだ。
『それならそうと、早く言ってよ!』
とも思うが、迷惑な事に生死をかけたガチンコな雰囲気を国王陛下は大事に試合を楽しまれているらしく、種明かしは試合の後というルールらしい。
全くもって迷惑な話でなんとも厄介な趣味だよ…
魔法が使えないと言った俺に、
「ならば、私も本気を出そう」
という国王陛下のセリフは、
『久しぶりに、良い感じの相手と楽しく戦えるな』
みたいな意味合いだったらしい。
試合としては、黒光り合金の装備の力を借りて、〈当たらなければ、どうという事はない〉作戦で、機動力を生かして国王陛下を翻弄していると、あまりにブンブンとロングソードを振り回す国王陛下に、
『あれ?強く無いんじゃね?!』
と、俺が思いはじめたのと同時に、国王陛下が何やらゴニョゴニョと呟きはじめる…
すると、観客席の最前列の騎士達が防御魔法や盾を構えだしたので、俺は、
『ヤバイ!!』
と判断して、国王陛下の顔面目掛けてトップスピードのドロップキックを入れて、魔力を練り上げる作業を妨害し吹っ飛ばされたアークバルド国王陛下の首元に切っ先を向けて、
「ウチの文官や女性陣を巻き込むおつもりか?!」
と、問いただすと国王陛下はニコニコしながら楽しそうに、
「いやぁ、スマン、スマン。
こんなに楽しいのは久しぶりで、つい、我が最大火力の業炎魔法を…」
などと言い訳をしながら笑っていた。
大概の場合は、アッサリと国王陛下が打ちのめされるか、ひどい場合は無気力試合気味に接待されるらしく国王陛下は、
「あんなに心踊る試合は久々だった」
と足跡の残る顔面をメイドの差し出した濡れタオルで拭きながら満足そうにしていた。
イグノ王国の宰相様からは、
「国王の趣味にお付き合い頂き感謝致します。
汗をかかれたでしょうから、旅の疲れも癒して頂く為にお風呂を用意しております」
と、城の中へと再び案内されたのだった。
しかし、前回アグアス王国の事も有るので護衛騎士隊の皆と一緒に男風呂に入りながら、
「もう、冷や汗で風邪をひきそうだったから、お風呂は有難いよ…」
と呟く俺に、ナッツが、
「メイドが入ってくる気配もありませんし、皆さんがいるので安心です」
と、お湯に浸かりながら答えていると、護衛騎士隊の面々が、
「初めて護衛が必要とされた気がします」
と茶化すので俺は、
「いつも、護衛してくれて感謝していますよ」
などと皆にお礼を述べている最中、アークバルド国王陛下が肩にタオルを掛けたのみの姿で、
「皆様、寒かったでしょう。
我のわがままに付き合わせてしまい申し訳ない…到着早々、中庭で冷やした体を十分に暖めてくだされ」
と言いながら浴室に現れ、当たり前かの様に体を洗い始める。
ある意味メイドが乱入するよりも衝撃が走る俺達だったが、国王陛下は気にもしてない様に体を洗い終わりチャプンと湯船に浸かり、
「聖人様は、装備されている武器から型にハマった剣士みたいな攻撃かと思いましたが最後のあの体術は中々の威力でしたな」
と、ご機嫌に話しはじめるが、まだ誰一人この状況について来ていない。
国王陛下がアワアワしている俺達に、
「大丈夫ですかな?」
と声をかけてくれて、やっと、
「いや、国王陛下とお風呂をご一緒出来るとは思っておりませんので…少々驚いておりました…」
などと、何とか絞り出した俺に国王陛下は、
「何を今さら、剣を交え、お互いを解りあった友に何を包み隠す事など…
裸同士で向き合って話せる事こそ一番の信頼の証…」
などと、持論を語っている…
歓迎されているのは解るが、他の手段は無かったのだろうか?…試合といい、風呂といい…とも思う。
あと、頭の中でヒッキーちゃんの、
『男湯でツツミカクスとか、ムキアウとか、サウンドオンリーで監視しているマスタールームのモニター前に居るベッキーちゃんが真っ赤になってるよ!』
と、何を想像しているか知らないが、要らない報告をしてくれているので、あえて無視する事にした。
俺が、
「国王陛下と、腹を割ったお話が出来るのは嬉しいですが、会話が盛り上がっても湯あたりを起こしそうですので、風呂上がりにユックリとお話しいたしませんか?
大使の方からお酒が好きと聞いておりましたので、我が家の秘蔵の酒を数樽持参しておりますゆえ…」
と話すと、アークバルド国王陛下は俺の目の前でガバリと立ち上がり、
「それは、楽しみだ!
風呂などより暖まるかも知れぬ、何か夕食迄に摘まめる物を料理長に作らせよう」
とイソイソと風呂場から出て行かれた。
だがこの時、ガバリと立ち上がった国王陛下の立派な王子殿下が湯船の水面を弾き、ピチャリとお湯を俺の顔面へと飛ばしたが、俺は何事も無かったかの様に国王陛下を見送った。
何故かナッツが、無言で頷いたあとで、
「お背中流しましょうか?」
と優しく声をかけてくれて、少し…ほんの少しだけ切ない気持ちになったのは皆にはナイショにしておこうと思う。
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