第185話 気が重い里帰り
12月頭のパーティーが終了し、シルフィード王国の城にて、イグノ王国に向けて出発する為の挨拶を済ませイグノ王国の大使の方とアグアスにも同行してくれた文官チームと西へと旅立ったのだが、少し違う所としては護衛騎士隊の十名に加えて、シーナさん担当の護衛騎士という名目でハーメリアさんが護衛騎士に参加してくれた事である。
正直、護衛対象のシーナさんよりかなり弱いだろうが、バッツさんと村に残して旅立つ訳にもいかずに苦肉の策であり、代わりと言ってはなんだがバーバラさんとサーラちゃんの魔法使い師弟が、ハーメリアさんのボディーガードとして同行してくれる事になったので万全である。
まぁ、アグアス王国みたいに難民が流れてもいないので、途中で壁生成などもしなくて良いはずだろう。
イグノ王国の1月末のパーティーに参加して、そこから北にある聖地に向けて移動して、聖都ダリアでお祈りをすれば終わる楽チンな旅の予定だが、ただ、少し気になるのは、西に向かう途中でナルガ子爵領を通る事になるのが悩みの種である。
シルフィード王国内では宿泊する町や村の有力者に軽い挨拶をするのが礼儀の一つであるが、町の間隔的に何をどうしようとナルガ子爵領の領都リリーで1泊する事になり、実家に訪問する流になってしまう。
迂回する手もあるが、不自然過ぎるし旅の予定が狂うので、こちらとしては堂々としてれば良いだけだがあの第二夫人に逢うのが一番苦痛なのだ。
しかし、こんな時ほど旅は順調に進み中央貴族の町を経由しながら二週間ほど…
ついに、そんなに懐かしさも感じない町並みのリリーの町に到着した。
友好的な貴族家ならば屋敷の客間にて1泊させて頂く事もあるが、ナルガ子爵家で泊めて貰う気はサラサラ無い…
むしろ寝ずに馬車を走らせて、この町をパスしたいが、聖人様がパスした町となれば後々面倒な事を言われる種になりそうなので宿屋にチェックインした後に追放されたあの日、トボトボ下った屋敷までの坂道を馬車で登り、屋敷の中庭に到着すると、やはり嫌悪感しか湧かないゴテゴテとした庭の彫像が出迎え、屋敷の中からはメイドに混じり殺気を放つ兵士が現れた後にヒステリックなあの声で、
「聖人などという訳の解らぬ名乗りを上げて、何をしに来た!この忌み子の出来損ないが!!」
と聞こえてきた。
あまりの予想通りの反応に俺は、「やれやれ」と思うと同時に、「あぁ、知っている感覚だ…」と、懐かしい感覚すら覚えていた。
すると、屋敷の中から、
「母上、何たる無礼を!…
ゼル!!あれ程母上をジャルダン伯爵様の前に出すなと申したであろう!!」
と、第二夫人の下僕とも言える現在の執事を叱りつけながら、弟のマイアが数名の騎士を連れて現れた。
「しかし、マイア様…」
と言い訳しようとする執事に、
「五月蝿い!お前の意見などは聞いていない!!」
と、ピシャりと黙らせマイアは俺の前に歩み出て、
「聖ジャルダン伯爵様、ようこそ我が領都リリーへお越しくださいました。
我が母が大変な失礼を…誠に申し訳御座いません。
何卒ご容赦を…」
と言って深々と頭を下げている。
ヒステリックな女は、
「そんな出来損ないにマイアちゃんが頭を下げるなんて!!」
と、キーキーと囀ずっているので、俺は、
「マイア…挨拶に来ただけだからもう帰るよ」
と伝えると、マイアは周りの人間を睨み、
「誰か、母上を離れに閉じ込めておけ!」
と指示すると、更にヒートアップするヒステリック女に、向けてマイアは、
「いい加減にしろ!この家を潰し、俺を殺したいのか!!
母上の罵るあのお方は、昔のキース兄様では無いのだ。
侯爵と同等の力を持つ国内最大のユーノス辺境伯派閥の主要貴族、ジャルダン伯爵様なのだぞ!!」
と怒鳴って、初めてあの頭の悪い女も理解したのかシュンとなって連れて行かれた。
しかしマイアの怒りは、次なるターゲットに向かい、
「ゼル!お前は、母上一人止められ無かったのか!?
お前の様な無能も要らん、配下のメイドもまとめて出て行け!!
そこで、客人に殺気を放つ馬鹿な兵士も同罪だ。
兵士長も呼んでこい!まとめてこの家を追放してやる。
俺は、追放が得意だからな!!」
と怒りのままにクビ宣告をする弟の姿を心配しながらも、俺はこの状況を眺めている事しか出来なかった。
すると、ガタイの良い騎士が俺の前に歩み出て、
「どうぞこちらへ…」
と案内されて、まだ荒れているマイアは使用人や兵士に向かい、
「馬鹿野郎!今まで何とか上手くやって来たのに、お前らのせいで頭を下げて謝罪しなければならなくなったぞ!
目障りだ!一刻も早く出て行け!!」
と、肩を怒らせ、騎士に案内されている俺に追い付き、部屋に入り「パタリ」と扉が閉まり、一瞬の静寂の後ガタイの良い騎士さんが、
「プフフフっ、マイアちゃん、ガラにも無い大声出して…アタシ笑うの我慢するの大変だったのよ」
と、笑うし、マイアはマイアで、
「ガルバルドこそ、僕が頑張ってるのにちょっと笑ってたよね?」
と膨れているし、オネェ口調のガルバルドさんは、
「だってぇ、
と、楽しそうだ。
キョトンとするしかない俺に二人は顔を見合わせて笑い、マイアは、
「安心して下さい兄上、この部屋は防音の魔道具とガルバルドの配下に守られています」
と言ってくれたが、俺は益々解らず首を傾げて二人を見るとガルバルドさんが、
「マイアちゃんのお兄ちゃんってノリが悪いの?」
と聞くが、ノリノリの二人の状況が理解出来ていない俺は、何とか理解しようと努力を試みるが、結局は完全に考える事を放棄して、
「一から説明ヨロシク」
と二人にお願いするしか無かった。
その後、二人の説明では、マイアは現在ベルタ子爵の仲間で軍務卿派閥の情報を国王陛下に流す仕事をしているらしい。
「危ない事しちゃ駄目だよ」
と心配する俺にガルバルドさんは、
「あら、王家の影の私達が護衛してるから大丈夫よお兄ちゃん」
と言ってくれたが、違った意味で弟が心配になったのは秘密にしておく事にした。
そして今回は、どうせあの母の事だから必ずやらかすと信じたマイアの作戦で、ナルガ子爵家からあの女と軍務卿の影響を少しでも削ぐ計画だったらしい。
それからは暫く兄弟の語らいをした後にマイアが、
「兄上が滅茶苦茶怒っていて、僕は真剣に謝っているが許されないって事でヨロシク!」
とだけ告げられ、ガルバルドさんがバタンと扉を開けるとマイアが、
「そこを何卒、お許し下さい!」
と大袈裟に騒ぎながら、俺に目配せをする。
俺は、状況を理解して、
「あのような出迎えがナルガ子爵の流儀か?!
不愉快だ!町宿屋にて1泊し明日には旅立つ故、見送りもこれ以上の語らいも不要だ…帰る!!」
と外を目指す。
解雇を不服とした者がマイアにすがるが、
「邪魔だ!お前らのせいだ!!」
と、怒りちらしながら弟は俺を送り出してくれた。
外で待っていた文官さん達は、マイアだけでなく俺まで怒っている事で、何が中であったのかと凄く心配していたが、説明する訳にもいかずに俺は怒った演技のまま屋敷をあとにした。
前回、城で演技をさせた仕返しも入ってるのかなコレ?
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