第184話 パーティーで挨拶責め
今年の辺境伯派閥のパーティーは、去年よりも盛大に行われている…
なぜならば、あからさまにメンバーが増えたからである。
ナナムルの城のホールには、国王陛下をお招きしたパーティーほどの人数が集まり、食事やお酒を楽しみながら親睦を深める忘年会の様に楽しそうに話したり初の顔合わせとなる者は緊張しながらも派閥の貴族達に挨拶まわりをしている。
これは辺境伯派閥に、辺境伯領のある南部の貴族を中心に合流し一部中央の小規模派閥まで集まり、数ではシルフィード王国で一番大きな派閥となった様でユーノス辺境伯様の紹介で、新たに合流した貴族の方々に挨拶していると中央の財務卿派閥だったと言われる〈ベルタ子爵〉の率いる小規模な集団は、驚く事に国王陛下からの任務で合流したと話してくれた。
ベルタ子爵は今回、軍務卿絡みで奴隷に落とされた者や、当主を殺されて強制的に代替わりさせられたであろう貴族家を調査し、仲間に引き入れているらしくジャルダン村に住んでいる旧ゲインズ男爵家出身で、犯罪に加担した罪で奴隷に落ちた騎士達や、なんとウチの解放奴隷チームが元々所属していたシーバ子爵家まで彼らの派閥で保護しているそうだ。
もしかすると、ジャルダン村に住んでいる元ゲインズ男爵家の騎士団の子供達のパパも居るかもしれないのでこれは嬉しい報告である。
しかし、軍務卿の腰巾着だったシーバ子爵は、同じく腰巾着仲間だったゲインズ男爵が尻尾切りに使われ次は自分かも知れないと悟り、息子に
「自分に何か有れば、その年のうちに母を連れて財務卿の派閥を頼れ!」
と指示をされていたので、軍務卿が手をまわす前にシーバ子爵家の人々を保護する事に成功したらしい。
それにしても、戦争から無事に帰ってこれたシーバ子爵家の配下は全員、軍務卿の息がかかった騎士達で、シーバ子爵家の古参の配下は戦地にて何故か全員戦死したという不可解な状態だったそうだ。
『軍務卿やってんな!』
と思うと同時に俺の頭には弟のマイアの顔が頭を過る…
弟は、周りが軍務卿の手下どころか、母親は軍務卿の愛人で、自分の実の父親自体が軍務卿という八方塞がりな状態であり助ける事は叶わないのか?…と考えていると、国王陛下からの密命を受けたベルタ子爵が、
「国王陛下からの伝言でございます。
弟君の警護に腕利きを忍びこませたので、聖ジャルダン伯爵は安心して吉報を待たれよとの事でした。」
と、報告してくれた。
国王陛下も足場固めが上手く行っている様で、色々と手を回してくれているみたいだが、腕利きの護衛であろうとも軍務卿は数で無茶苦茶する可能性もあるので絶対に安全ではないだろうが、
ベルタ子爵の所属している財務卿の派閥は国王陛下に近い派閥であり、正式な発表はまだだがベッキーさんの事が正式に発表となれば、国王陛下の派閥に辺境伯派閥が合流し完全に国の主導権を奪える計算になる。
そうなれば、弟のマイアも腕利きの護衛さんごとこちら側に引き戻せるかもしれない…
しかし、まだ軍務卿の派閥は根強く下手に動けば罪をでっち上げて貴族家を潰す事も出来る為にまだ、注意が必要であろう。
そんな事を考えながらもパーティーが進むにつれて俺はシーナさんと二人でユーノス辺境伯様の隣に並ばされて次々にやって来る貴族の方々と挨拶をしている事に居心地の悪さを覚え、
「辺境伯様…俺ってこんな上座で、ずっと居るのは気まずいです」
とグズると、ユーノス辺境伯様は、
「馬鹿な事を…辺境伯派閥であるが、キース君も扱いは辺境伯だし、何より聖人様だよ?!
上座で挨拶責めに合うのが仕事だよ。」
と呆れている。
しかし、奥方のアリア様は、
「では、退屈な挨拶は男に任せて、シーナちゃんは私と美味しい料理を摘まみに行きましょう」
とシーナさんを連れて行ってしまう…
そして、辺境伯様がシーナさんが遠くなったのを確認すると、
「して、キース君、どんな感じ?」
と、漠然とした質問を投げ掛けてくるので、俺は、
「どんな、とは?」
と聞き返すと、辺境伯様は小声で、
「子供だよ、妻のアリアが早く親友の孫が見たいと…
しかもダイムラー伯爵家までも子供が無理でも、ニンファの町で結婚式なら明日にでも挙げられると言っているのだ」
と、少しうんざりしている。
俺は、
「落ち着いたら家族になろうとプロポーズしたのに落ち着く気配が無いからですよ…
戦争とか…聖人とか…ホントに勘弁して下さい」
と少し拗ねてみると、ユーノス辺境伯様は、
「まぁ、来年には落ち着くだろう…
戦争は、我が王国の北の地域からかなり押し込まれ軍務卿の守るラースト侯爵領の隣の町を占領されて、来年の初夏辺りまでは軍務卿達はザムドールと睨み合いをしておるので軍務卿派閥も大人しいだろうし、戦いが続いている状況で年をまたぎ来年の戦争ではシルフィード王国として大軍勢を出して、一気に相手を押し返して、そのままザムドールの軍部と会談まで持って行くつもりだ。
春先には、キース君は聖都に到着して、聖人としての任務も終わるだろうし…いゃぁ~、来年が楽しみだな!」
と、ご機嫌である。
しかし、何年も北部を取ったり、取り返したりしていたのに、今年に限って攻め込まれるとは…
しかも、軍務卿の領地をピンポイントで…狙ったのかなぁ?
解るよ、軍務卿を倒せば軍はガタガタになるって…ただ敵が戦上手で攻め込んだかもしれないが、いくら何でもアッサリ奥まで押し込まれてないか?!…
『軍務卿の企みだったら…』ってどうしても考えてしまう。
軍務卿派閥が力を弱めたから上手く立ち回れなかった可能性もあるが…
まぁ、国王陛下も力をつけてきたしユーノス辺境伯派閥が味方すれば、軍務卿と言えど抑え込めるぐらいになったから大丈夫とは思うけど、早く色々と終わらせて、俺はシーナさんとのんびりと暮らしたいよ…
と思いながらも、派閥の貴族家からの挨拶は続き、ダイムラー伯爵家の夫人達からの、
「結婚式はまだか?」
「子供はまだか?」
「浮気していないか?」
のジェットストリームアタックの後で、ダイムラーパパからの、
「シーナも二十代後半なのだ…」
という、少ないワードでえぐる様な攻撃に耐えながら何とかパーティーを乗り切り、翌日の派閥の会議に出席した後に、俺は聖人として他国への訪問の旅へと向かう準備に入るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます