第183話 あの日の約束の大切さ


バッツさんの助け出した女騎士ハーメリアさんは、自分の領地から住人を逃がして最後に逃げ出した領主の娘さんだったらしい…

とりあえず俺やカッパスさんが居ると込み入った話はし難いだろうと、


「あとは、若いお二人で、」


と言って席を外そうとすると、バッツさんが、


「キース様の方が若いでしょうに…」


と、要らないツッコミを入れるので俺は小声で、


「今は良いから、彼女に集中!」


とだけ伝えて、モニタリング会場へと移動して、投影クリスタルを皆で見ながら、『どうしたものか?』と悩んでいた。


女性陣が、一目惚れの相手の記憶すら無くした女性と、全てを鮮明に記憶しているが彼女からの猛アタックが有ったから気になったのでは?と、自問自答する男の微妙な恋愛ドキュメントを楽しんでいるが、俺とカッパスさんは部屋の端で、


「これ、大丈夫ですかね?」


との俺の問いに、カッパスさんは、


「バッツ殿も平民だし、ハーメリアさんも平民…いや、もしもザムドール王国の実家がまだ有るので有れば他国の貴族令嬢ですし、ザムドールに確認が要るかもしれませんが戦争中ですしね…」


と考え込むが、二人してしばらく唸った後で、


「私がアグアス王国の使者として、ザムドール王国へ乗り込んで、難民を受け入れている事を告げて、

〈皆、ウチの子にします。〉と宣言しますか?」


と提案してくれる。


しかし、第三国とはいえ戦争中の国に乗り込んで、市民が流れて来たから自分の国にもらうと言って何か有ったら大変だし、俺は、


「危ないから止めときません?

住民を返せとか難癖つけられたら嫌じゃないですか…」


と心配すると、


「何年も難民を保護させられた多額の迷惑料を吹っ掛けてやります。

何年も戦争しているから地味に予算も無いと思いますので払えなければ、正式にウチの領民にすれば、ただのアグアスの娘とシルフィードの男の恋の話しになります」


と、言ってくれるがバッツさんとハーメリア嬢の恋が始まるかもまだ不明であるので、とりあえず二人の恋の行方を見守る事にした。


投影クリスタルには、当たり障りのない会話をしようとしているバッツさんと、二人の出会いの真相に近付こうとするハーメリア嬢の映像が映っている。


「私達の出会った状況を教えていただけませんか?」


と問いかけるハーメリア嬢に、バッツさんは、


「折角忘れる事が出来たんだ、知らないままが一番ッスよ」


と寂しく答えるとハーメリア嬢は、


「秋に戦地となった町を脱出し、数名の護衛と冬の間にアグアスを目指して移動した後で、療養所で目覚めた時には夏の最中だった。」


と話しはじめ、探しても仲間が居ない事から、多分護衛は殺され自分だけ生き残り記憶が抜け落ちている上に療養所という状況証拠だけで大体の検討はついているから、


「自分にとって一番大事な場面だけでも詳しく教えてほしい」


と彼女は訴えるが、かといって、


『苗床の部屋から助け出した』


なんて伝えたら彼女が傷つくと考えたバッツさんの伝えたくない気持ちも良く解る。


俺も複雑な顔で映像を眺めていると、怖い顔で俺の前に立つシーナさんが、


「旦那様!ハーメリアさんとの約束を違えるつもりですか?」


と俺に詰め寄る。


多分、彼女が俺に託した、自分に宛てたメッセージの話をしているのだろう。


確かにメッセージを預ったが、あの時のハーメリア嬢と今のハーメリア嬢が同じ意見かも解らないし、おとぎ話の様に記憶を無くした二人なら出会ってすぐに引き寄せられると、若干お花畑な考えが有ったので可能ならば見せたく無い自分がいたのは確かだ。


しかし、シーナさんは、


「旦那様!どうせ、ハーメリアさんが傷つくのが心配で見せたく無いのでしょうが、それを見て真実を知る権利も、傷つく権利も彼女の物です。

男なら約束を守りなさいませ!!」


と叱られた。


「旦那様」とこんな大勢の前で呼ばれてドキッとしたが、ハニートラップの時もこんなに直接には怒らなかったシーナさんは、約束を違える事にはこれだけの怒りを表すと知り、俺は驚く反面、誠実さを大事にする性格だと感じて嬉しく思う自分もいた。


俺は、シーナさんを抱きしめて、


「ありがとう、危うく、女性との約束を破る男になる所だったよ…」


と感謝を伝えて、


「ベッキーさん、ゴメン、一旦投影クリスタルを貸して」


と空中にお願いをすると、


『了解です。』


と頭の中に返事が届き、バッツさんとハーメリア嬢の前に投影クリスタルが現れて、


「お二人のお邪魔を致しまして、申し訳ございません。」


とベッキーさんが二人に挨拶のあと、これから起こる事の説明をすると、バッツさんは、


「いや、やはりそれは!」


と中止を申し出るが、ハーメリア嬢は、


「いえ、見ます!見せて下さい…

ただ、怖いので…バッツ様…その…側に居てくれませんか?」


とモジモジしながらお願いするという映像をホールでモニタリングしている俺は、


『これは、もう、メッセージを見せなくても大丈夫かも…』


と安心していると、


「き、キース様…その…そろそろ皆の前ですので…少し恥ずかしいです」


と腕の中から聞こえ、シーナさんを抱きしめたままだと気が付き、俺はユックリと手を離して一歩下がると部屋の中から女性陣の、


「シーナ様、まだ早いです。」


とか、


「同時進行で、どっち見たらいいか?」


等々と勝手な意見が溢れ出す。


カッパスさんが、


「キースさんのところは何時もこんな感じですか?」


と、呆れてるのか感心してるのか解らない質問が投げ掛けられると、オシャマ女子に成長しているサーラちゃんが、


「おっちゃん、今日はラッキーデーだよ」


と親指を立てて、石鹸チームの三人娘達が「ウン、ウン、」と首を縦に振っている。


カッパスさんがその光景に、


「ほほぅ、ラッキーですか、ならば楽しみましょう」


と笑っている。


バッツさんとハーメリア嬢はクリスタルから放たれた光の中の映像を二人で見ながら、ハーメリアさんがハーメリアさんに熱く、熱く、バッツさんの事を語る姿を見ているのを別室で覗き見ている特殊な状況ではあるが、二人が映像を見終わり幾つか会話を交わした後で、優しく抱き合い晴れて恋人になれたのを見た観客達は、二人も知らない場所から歓声を上げて二人を祝福していた。


俺も喜ぶ反面、『俺の時にもやられてないか?』と少し不安になりつつも、シーナさんからの、


「私とした約束もそろそろ守って欲しいです…」


と耳打ちされて、彼女は左手の薬指の婚約指輪を見せてきた。


約束を違える男は許さないらしいから頑張らないとな…と、心に誓う俺だった。



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