第182話 君の名は


今年もバタバタだったが、年末の恒例行事の派閥のパーティーの時期がやってきた。


ソードドラゴン討伐の後は、ジャルダン村の広場の建設エリアでは、二棟の集合住宅と大型の風呂2つが完成し、一組みはジャルダン村の西のエリアに配置し、ニンファの町から希望者を受け入れる体制を整え、

もう一棟と風呂は、フォルの町の居住区画に移築し、続けて建設エリアで集合住宅と、ジャルダン商会の店やユーノスパンの店を建設中で完成すればアグアスの王都の完全に更地になってしまっている旧市街に移築する予定でいる。


ちなみにだが、サンチョさんにサルテへの派遣を打診したら、


「お側に置いては頂けないのでしょうか?」


と泣かれてしまったので、サンチョさんと、ニーニャさんの元ニンファの町の教育担当夫婦には、ジャルダン村でのジャルダン商会の職員の育成に励んで貰う事で落ち着いた。


現在はアグアス王国のフォルの町と王都サルテに派遣する職員の育成を頑張ってくれている。


サルテの街の旧市街には難民の魔法適性を持つ子供等が学校に通える様にする為の住宅等を整備して、派遣した職員さんに住宅の管理や、

風呂や食堂に清掃などのパートタイマーに難民の方々を雇用するなど、その方面の管理もお願いする予定である。


助けてくれる仲間が頑張ってくれているので、村や町の管理が徐々に俺の手から離れていくが安心して任せておける。


ガーディアンゴーレム達も順番にアップグレードを進めており、ガルさん親子が気合いを入れて色々な魔物素材の装備を整えてくれているので、春先にはハチローまでの全員がレベル60のニューボディーの上級ガーディアンへと変わるはずで、フォルの街とサルテの旧市街にも新たに二人ずつぐらい配置したいし、ポイントに余裕が有れば、皆に低級ガーディアンを部下につけてあげたいがそれはまだ先の話しだ。


さて、今年の派閥のパーティーが済めば、俺はすぐにイグノ王国へと出発する予定になっている。


なぜならイグノ王国で開かれる1月末のパーティーに招待されているからだ。


シルフィード王国の王都から西へ1ヶ月余りで、イグノ王国の王都ケニオスに到着出来る…

イグノ王国の王都はシルフィード王国寄りに有るので、アグアスの王都より行きやすいのだ。


それは何故かというと、イグノ王国とシルフィード王国の国境の北側に聖地と呼ばれる山と森が有り、その入り口に聖都ダリアがあり、イグノ王国は少しでも聖都ダリアの近くに国の中心を置こうとしていたからである。


イグノ王国でパーティーに参加して、聖人としての活動をした後に聖都ダリアを訪れて祈りを捧げれば、一旦俺の聖人活動は終了となる予定なので、そのまま帰り道に使者としてザムドール王国に停戦させる為に乗り込めれたら良いのだが、来年も戦争が行われる予定となり、理由は解らないが今年はシルフィード王国が劣勢だったようでかなり押し込まれたらしく難民が増えてしまっていた。


『現在の難民の支援がやっと落ち着いてきたのに…本当に勘弁して欲しいよ…』


しかし俺は今、3日後にはパーティーを済ませて旅立てる様に今日と明日でやらなければならない事が一つ有るのだ。


それは、ゴブリン討伐の時に助け出された女性の中で、足と腕の筋を断たれてなお心を折らなかった女騎士さんが、治癒師の魔法や各種ポーションを使い回復し、療養所から退所してカッパス子爵の町に戻って来たらしいく、

彼女は、辛い過去を消す為に忘却のポーションを何回かに分けて飲み半年程の記憶を失った後に、時間をかけて状況を把握しながら体と心の回復に務め、彼女の持つ自然治癒スキルも手伝いほかの女性よりも早く回復したのだそうだ…

しかし、彼女をここまで突き動かしたのは、忘却のポーションを飲む前に自分に宛てての手紙を治癒師の方に代筆してもらいその手紙を信じて頑張ったからであろう。


忘却のポーションを飲めば、その手紙すら信じる事が出来ないかも知れないが、彼女は、純粋にただ真っ直ぐにバッツさんに再び会うために辛い施術やリハビリを耐え抜いて、暗闇の世界から彼女を救い出したらしい未だ見ぬ一目惚れのヒーローであるバッツさんの到着をフォルの町で待っているそうなのだ。


こんな面白…いや、感動的なイベントは皆で参加するのが仲間ってもんだ!

色々と悩んだ末に、女騎士さんをジャルダン村に招待してバッツさんの再会?…いや、初顔合わせか?…をマイホームのホールでモニタリングするという悪い大人の娯楽が始まってしまったのだ…


『秘密結社覗き見隊がこれほどの規模になっていたとは…』


と、驚く俺をよそに、主にシーナさんとセラさんが中心となり、村の女性陣がもうワクワクしているのだが、当の本人達には気付かれない様にカッパスさんと俺が付き添って中庭に作ったお見合いスペースで、簡単な挨拶をした後に


「あとは若いお二人で…」


的な流れを考えているのだが、バッツさんの、


「お久しぶりです…立って歩ける様に戻ったんッス…ですね…良かった。

あぁ!自分は、聖人キース様の護衛騎士隊のバッツと申します。」


とのド緊張気味の自己紹介から、何と呼んで良いか解らない会がはじまった。


女性は、


「お久しぶりのはずですが、記憶が無いので申し訳有りません…

しかし、私を助けてくれたのがバッツさんという男性だという事だけは忘れたくないと書いてもらった手紙で知っております。

はじめまして、その節は有り難う御座いました…

って、変なセリフですね。」


と言って「フフフッ」と笑う。


バッツさんも、「そうッスね。」と笑い合った後に、彼女は、


「では、改めてまして、ザムドール王国の南方に領地を持ちますマール男爵が娘、ハーメリア・ド・マールと申します…が、多分今は、故郷は無く父や母もどうして居るのか…」


と少し暗い顔をする。


しかし、それ以上に何とも言えない顔になっているのは俺達の方で、戦争中の敵国の男爵令嬢を、第三国ならまだしも、がっつり敵国でお見合いまがいの顔合わせをしているからだ。


カッパスさんに、


「これ、大丈夫ですかね?」


と俺が聞くと、カッパスさんは、


「男女の間に国境は引けないですし、もう良いんじゃないですか?

駄目ならばウチの兵士を出しますから、ザムドールもシルフィードも黙らせましょう」


と、怖い提案をしてくる。


俺が、


「そんな事出来ませんよ…ただの名前だけ伯爵なのだから…」


と反論すると、カッパスさんは、


「アグアス王家は平和の使徒様の配下として動く為に準備を初めていますよ」


と首を傾げて俺に聞くが、それはきっとナッツ君の事である。


断じて俺では無いので、そこの所をヨロシクして欲しい…でも、アグアス王国も参戦したら世界戦争にならない?…大丈夫??と、悩み始める俺だった…


『もう、楽しいイベントだったのに話がブレちゃうから!本当に戦争なんてやめて欲しいよ。』


と、誰に宛てた文句か解らない事を思いつつ、あとは若い二人にお任せして、俺とカッパスさんはマイホームのホールで、我が家の監視機能をフル活用した覗き…いや、モニタリング画面を見ながら、2人の恋の行方と、それを見て興奮している村人達を眺めていた。

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