第181話 ひと狩りいこうぜ


予定通り、午後からの大型魔物の討伐をはじめる。


マスタールームのモニターで見るソードドラゴンはとても大きいのだが、魔境を映すモニターには、異常な大きさの魔物がちらほら見切れるので遠近感が解らなくなる。


ソードドラゴンの近くに居る地竜のサイズは、なんとなく知っているので見比べると、地竜と大きさはあまり変わらないが、鋭い剣の様な追加パーツの分一回りは大きく見えて少しビビる俺がいる…

ソードドラゴンは、狩り場として敷地にした辺りを縄張りにしているらしく、たまに入って来た地竜や大型の蛇や、マンモスの様な象の群れと怪獣大戦争を時折繰り広げる以外はあまり動かないので、地竜のように転移の為のロックオンに麻痺ガスの罠を使わなくても何とかなりそうだし伝説でも溺死させられたらしいから泳ぎは苦手なのだろう。


もう手慣れたもので、ベッキーさんが、


「ターゲット捕捉、イケけます。」


というと、ヒッキーちゃんが、


「一名様、ごあんなぁぁぁい!」


と、流れるように、ソードドラゴンを、地竜が溺れ死んだ悲劇的泉の上空に転移させる。


いきなりの事に驚くソードドラゴンさんは着水と同時に大暴れをしているが、あのドラゴンさんはまだ知らない…暴れれば暴れるほどに、ぬかるみに沈んで行くことを…

激オコのソードドラゴンさんの、背中や尻尾に鋭利な刃物の様な鰭が逆立ち、エラなどにも剣状のたてがみが起き上がるのをモニターで眺めながら、


『あぁ、あんなの近接武器で殺せる訳が無いよ、少し身震いするだけで、みじん切りにされそうだ…』


と思いつつ、イチロー達に、


「雷撃バリスタ、ヨロシク!」


と、イチローとシローを射ち手として、ジローとサブローが助手として運用されるバリスタを配置して、雷撃の矢を射ち出してもらう。


ジャルダン村の皆はこの風景を投影クリスタルでパブリックビューイングで楽しむ形で、何故かニンファの町の町役場前でも放送されているらしく、マスタールームのメインモニターのワイプで酒を片手に「いけぇ!」「負けるなぁ!」と騒いでいる住民達の声援が聞こえる。


そんな声援がイチロー達にも届いたかの様に、10発ずつしか無いが、二台のバリスタから勢い良くマシンガンの様に射ち出された雷撃の矢は、既に全身濡れている上に金属製と思われる鰭が体を覆っているソードドラゴンに、直撃しようがカスろうが、雷撃が発動すると奴にダメージを入れる。


最初は大暴れして、ぬかるみに沈んでいくソードドラゴンだったが、

やはり背中の剣の様な鰭は背骨近くから生えているらしく、雷撃のダメージは奴の神経系に直撃し、吠える事も叶わずただカタカタと痙攣し終には気絶してしまった様に静かに水面下に沈んでゆく…

ヒッキーちゃんはこのチャンスを見逃さず、気絶したソードドラゴンに、


「はいオマケ、」


と言って前回の地竜の時の様に石造りの三角帽子を漬物石代わりに奴の頭に被せる。


ブクブクと泡が水面に浮き上がると、ベッキーさんが、


「あぁ、もう時間の問題ですね。」


と、言いながらモニターを眺めているのだが、確かに、あの吐き出された空気の分、奴の肺に水が満たされているはずであとは根比べみたいなものだ。


しかし、敵もドラゴンの名を冠する魔物、十分経っても水面に波紋が立ちモゾモゾと動いている。


ヒッキーちゃんが、


「なかなかしぶといね…」


とモニターを見つめながら呟く。


すると、急に水面の波が激しくなり石造りの三角帽子が粉砕され、ソードドラゴンが水面からガバリと顔を出し、

俺達が、「失敗した?!」と落胆しそうになるが、

既にソードドラゴンの瞳は光を失っており、

再びその首を水面に打ち付ける様に脱力して沈黙した。


ヒッキーちゃんの、


「パンパカパーン」


というファンファーレと共に、討伐の終了が告げられ、投影クリスタル前の観客の歓声が響くマスタールームで、俺は、


「脅かしやがって…駄目かと思ったぞ!」


と胸を撫で下ろしていた。


ソードドラゴンを討伐したと聞いて、昼過ぎというのに、ジャルダン村でもニンファの町でも、酒盛りは最高潮になり、俺は、


「ソードドラゴンの保管の為に、少し保管倉庫の片付けも兼ねて、各地に肉を振る舞うか!」


とマスタールームでヒッキーちゃんと、ベッキーさんに話すと、投影クリスタルを使い、住人と相談して、炊き出しの準備が始まり、俺はマスタールームで大型保管倉庫に入っている獲物も可能な限り販売機能で売り払ったり、希少な部位のみ解体するようにしたりして、何とかソードドラゴンが収納出来た。


ソードドラゴンの使い道は未定だが、地竜よりも上位種なので、何かには使えるだろうから後日会議でもする予定である。


さて、レベル70を超えて、お祝いポイントの7000ポイントと、大型保管倉庫の在庫処分のポイントも合わせて、ベッキーさんの嫁化ポイントを借りていた分の返済を差し引いても8000ポイント程使えるヒッキーポイントが手に入り、そして、滞在ヒッキーポイントが1日35ポイントになり、

家族登録枠も35になり、一人当たり4ポイント貰える様に成ったので、

本人が35ポイントと家族枠が140ポイントとなり、

1日で175ヒッキーポイント入る計算になる。


デカイ!これはデカイ!!


だが、解放された能力が問題なのだ。


『◼️◼️◼️ 必要ポイント◼️◼️◼️』


と、伏せ字で全く解らない…


多分では有るが、俺の自宅警備スキルとしてはレベル70までの予定のスキルなのだろう。


確かに、敷地内では負け知らずな能力ではあるし、レベル70なんて、数値だけであればAランク冒険者ほどかもしれない…

ただ俺は、敷地外ではスキル無しと同じなので、魔法適性があったり、攻撃系のスキルを持つAランク冒険者には手も足も出ないだろうが一般人として考えればは十分な強さなのかも知れない。


とりあえず、伏せ字の機能も気になるし久々にメールを自称管理人の、多分神様の長女さんに送る事にした。


『便利なスキルで、大変助かっております。

お母様の体調はどうでしょうか?

さて、レベル70を迎え新たな機能が解放されましたが、伏せ字で内容が解りません。

現在の機能で十分助かっておりますが、少し気になりましたので質問のメールを出させていただきました。』


と書いて送信すると、

すぐに返事が帰ってきたメールには、


『サルテの城では大変でしたね。

別に変なイベントが発生するのは私達の仕業では有りませんので、その辺はご理解頂きたく思います。

こちらは、母のお腹も順調に大きくなり赤ちゃんに対面出来る日を楽しみにしております。

さて、解らない機能が解放されたと思いますが、これは聖都に来て頂いて初めて真の解放となる機能です。

ただ、折角のレベルアップで何も機能が解放しないのも悪いと思い、父と相談してガーディアンゴーレムの交換ポイントを半額にして、

低級ガーディアンゴーレムのレベルは30にアップグレードし、

上級ガーディアンゴーレムはレベル60にアップグレードすることにしました。

これを機にイチロー君からハチロー君までを上級の新しい高レベルのボディーにチェンジする事をオススメします。

上級から新型の上級ボディーへのアップグレードは無料で、

低級からは、250ヒッキーポイントで、新型の上級ガーディアンに変更できます。

では、各地の難民の方々をヨロシクお願いします。』


と書いて有った。


「なんか、催促したみたいでスミマセン…」


と、俺はマスタールームの天井にお詫びの祈りを捧げておいた。

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