第180話 久しぶりに大物を狩ってみよう


ヒッキーちゃんの刑期が終わった11月の初め、

模範囚の頑張りによりかなりのポイントが手に入った…

そして、そのポイントを使いジャルダン村に新たな施設が誕生する事となる…

それは、牧場と小麦畑の更に南の草原エリアを敷地に指定し、低めの石壁で囲い、半分は広い大豆畑と、もう半分は建物を建てる為の広場にしたのだ。


大豆畑は来年の作付けからスタート予定で、隣の広場ではニンファの町で、手の空いている大工チームをジャルダン村へと移住してきて貰い、各地の別荘地等で必要な建物を村で作り、俺のスキルで移築する為の施設である。


実は、今年の戦争ではザムドールに大きく攻め込まれ、難民が増えてしまったので、ニンファへと新たな難民が、助けを求めやって来たために、この分で行けばフォルの町にも新しい難民が流れ着くかもしれないと判断し、ニンファからジャルダン村へ沢山のメンバーに移住してもらい、ニンファの町の居住スペースを空けつつ追加の建物を村で作る事にしたのだ。


農業経験者の大豆組として農家さんと、新たな養殖場の担当の家族に、あとは、サンチョさんとニーニャさんは夫婦になり、学校を卒業した商人希望者や、ニンファの町でまだ店舗を持てていない元商人達と商人組として、ジャルダン商会に合流してくれた。

これでやっとミックさんと相談して、村の特産品の販売店舗の新店舗と、他の派閥の町への販路拡大に乗り出せる。


髪飾りなどの商品は人気の為生産が追い付いてない状態であり、各地の居住区画の問題が解決したら、次は大工組に色々な工房なども作ってもらい職人の育成に乗り出したい。


現在ウチの財政は、特許と酒と馬車と石鹸とパンというかなり片寄った物であるので、徐々に様々な分野に進出する予定である。


近いところでは、ニンファの料理店や酒場は教会を見に来た観光客達に人気らしく、ユーノス辺境伯家の元料理長のロッソさんに任せておけば、人気の料理店などすぐに完成しそうだ。


現在、ジャルダン商会の建物として、旧母屋があり、そこで商会組にはひとまず住んでもらい、既にある護衛騎士隊の寮となっている集合住宅や、現在急ピッチで建設が進んでいる集合住宅が完成する今月末には、何とか引っ越しが完了出来ればと思っている。


さて、この1ヶ月ボロボロになるまで頑張ったヒッキーちゃんはというと、マスタールームでモニターをマルチ画面にして、色んな作業を平行してこなせる様に成長していた。


まるで、出来るハッカーみたいなにったヒッキーちゃんと、元からできるベッキーさんのおかげで各地の警備は安心である。


そして俺はというと、ヒッキーちゃんとイチロー達の頑張りでレベル70が目前まで来たので、壁生成で新たな集合住宅等をつくる為のお祝いポイント狙いで久しぶりの狩りでもしようかな?と思いつつも、誘惑に負けて、作付け予定の分をよけた余りの大豆でコッソリとマイホームのキッチンの隅で、


「この粉にこれを垂らして、こうやって練れば…ヒッヒッヒ…」


と、蜂蜜ときな粉できな粉棒を制作していた。


俺の隣に投影クリスタルが現れて、魔女コスプレのヒッキーちゃんが映しだされると、


「練って美味しいお菓子っぽい笑い声でしたが、きな粉棒ですか…」


とガッカリしていたが、この世界に、1の粉や2の粉を練って出来上がる知育菓子のような物は無い…

俺は、少し呆れながらも、


「油をとる為の豆で、あとは家畜の餌程度の認識だった豆だからシルフィード王国での流通がほとんど無かったらしいが、これは大発見だよヒッキーちゃん、味噌や醤油も麹さえ有れば作れるけど、肝心の麹なんて何処に在るか知らないからね…でもきな粉棒ならすぐに作れるから試してみたくって…」


とヒッキーちゃんに言うと、彼女は、


「きな粉棒ですか…村の子供達を集めて紙芝居でもしますか?」


と言いながら俺の手元を見ている。


俺は、


「紙芝居か…冬の娯楽に良いかもしれないな…紙芝居の木枠ならば大型資材倉庫のウッドチップですぐ作れるし…

あぁ、ナッツの釣り船も作らないとな!」


と云いながらも、きな粉棒試作第一号が仕上がり、味見してみると、素朴だが昔駄菓子屋で食べたモノより上品な味がした…


「旨いが、何か違うんだよな…何か体に良い味がするから…駄菓子ってもっと、こう、悪そうなのが旨かったりするよね…砂糖を足してみるか?」


と、ブツブツ言っている俺にヒッキーちゃんは少し呆れながらも、


「美味しいのなら、わざわざ体に悪そうな味を目指さなくても…マスター、こちらの世界には歯医者さんはいませんよ…でも、私も味見したいです…」


と残念そうにしているので、俺は、


「後でマスタールームで具現化してあげるよ」


というとヒッキーちゃんは、


「えっ、嘘…マスターが優しいなんて…雪でも降るのかな?」


と驚いていた。


いやいや、11月の頭に雪は降らないが…流石に強制労働を1ヶ月の刑を耐えているヒッキーちゃんを見て、『少しやり過ぎたかな?…』と思ってたから少し甘めになっているのは確かだけど…きな粉棒で雪が降るほど優しく感じるって失礼な…と考えているとヒッキーちゃんは、


「マスター、お菓子作りも良いですけど、ポイントも稼いで下さいよ。」


と注意してくる…

たしかに、ニンファの町や新たな集合住宅が必要になりそうだし、フォルの町にはまだまだ住宅が足りていない…このままではベッキーさんの嫁化ポイントをまた借りる羽目になってしまう。


闘技場でコツコツでも良いのだが、シーナさんや護衛騎士隊の方々も頑張って闘技場でレベルを上げているので、順番がなかなか回って来ない事もあり、


『それではデカいのを倒して一撃でレベルを上げてやろう!』


と翌日の朝からマスタールームにこもって探しているが、闘技場用サイズの魔物は沢山いるが、地竜さんみたいな大物は見当たらない。


「池に沈めて溺死作戦を使わないと駄目な奴は居ないなぁ…」


と呟くと、ヒッキーちゃんは作業をしながら、


「マスター、グリフォンならば古の森の西側に何匹かいます」


と言われたが、


「飛んでる奴は駄目だよぉ~」


と俺がゴネると、ベッキーさんが、


「以前の地竜は古の森の奥深くから来ているそうですので、範囲超拡大で古の森更に奥地まで敷地を伸ばしては?」


と提案してくれた。


俺は、ベッキーさんに、


「ベッキーさんの嫁化ポイントをまた借りてもいい?」


とお願いすると、


「マスターがレベルアップすればすぐ戻りますし、冬籠もりの間にもかなり滞在ポイントが入りますからどうぞ。」


とお許しが出たので、古の森の遥か向こうに、晴れた日にだけ見える山が有るのでそこを目指して、範囲超拡大を使い飛び地の狩り場を作り、その狩り場を追加で広げてマップ等で確認する。


結論からいうと、そこはドラゴンもいる様な魔境だった。


サイラスの町から南に数百キロは離れている山の近くを10ヘクタールほど狩り場指定し、監視機能で辺りをモニターで確認すると、

知らない翼竜みたいな魔物や、背中に刃物の様な鰭を持った地竜?に、火山の様な煙の近くには、遠近感のおかしくなりそうな大型の魔物が飛んでいた。


「あのデカイのって?」


と呟く俺に、鑑定機能でヒッキーちゃんが確認を行ったようで、


「名前のみ判明しましたレッドドラゴンです」


と教えてくれた。


『名前だけって、もしかしてレベル差が有ると鑑定も弾かれるのかな?』


などと考えていると、ベッキーさんが、


「敷地内にいる飛ばない魔物で、強そうなのは、あのピカピカの鰭の地竜さんですかね?」


と教えてくれるが、ヒッキーちゃんが、ほっぺたを膨らませながらチッチッチと舌打ちをしながら人差し指を振っている。


すると、ヒッキーちゃんは、


「ベッキーちゃん、アイツは地竜じゃないぜ。

アイツは、ソードドラゴン…剣龍だよ。

怒ると身体中に剣状のトゲが出てくる正真正銘ドラゴンさんだよ」


と教えてくれた。


『あぁ、昔読んだ古いお話ではイグノ王国の英雄が倒したドラゴンがソードドラゴンだったっけ?

何処かの国に進行してきたのを、谷に誘い込こんで水攻めにして倒したとかいう話だったが、確か英雄さんが数万の兵士を連れて、川をせき止めて倒した奴だろう…殺れるのか?』


と考えてみるが、あまり機敏では無くて転移のロックオンも出来そうだし、先輩の使った水攻めを真似するための池もある。


既にベッキーさんの嫁化ポイントにまで手をつけたからには、デカイのを倒さないと計算が合わなくなっているのもあり、


『最悪、暴れたら雷撃のバリスタをイチロー達を配備して撃ち込めば、感電してくれそうな自前の避雷針つきだしいっちょ殺ってみるか!!』


と決めて、内緒で色々するとまた皆に迷惑がかかるかもしれないので、村の皆に村内放送代わりの小型ガーディアンを使い、


「午後に大型の魔物の討伐作戦をします。」


との連絡をまわす。


一旦マスタールームからマイホームの食堂に移動し、昼食を食べていると、窓の外では繁忙期の終わった農家の方々が中心に祭りの様な準備が始まっていた。


「これは?」


と俺が、聞くとホークスさんは、


「収穫祭の代わりですよ。

キース様が何かデカイのを狩るらしいからと、皆理由をつけて騒ぎたいんです」


と教えてくれたが、半月前に移住者の歓迎パーティーをした様な気もするが…娯楽の少ない田舎だから仕方ないのかな?


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