第178話 変わりゆく村


村に帰って来たのだが、アグアスのお土産をもらった村人の中には、


「海って見たことないから一度見てみたい!」


という声が上がり、順番にチームを組んで日帰り旅行に行くことにしたのだが、


「行った事のある人間がガイドを…」


という事で、護衛騎士団の方々や、シーナさんやセラさんがガイドについて『アグアスの王都サルテ、海の幸食べ歩きツアー』が計画され、先ずは村の商品開発に携わるチームからという事で、加工肉工房の奥様方が新たな商品のアイデア集めの為と、石鹸チームが新たな石鹸の香り探しの為にという名目で本日は出かけたらしい。


この冬の手仕事で面白い商品試作のアイデアの足しにでもなれば儲け物である。


そして本日、俺はナッツと二人で村を巡った後にサイラスの町ティム牧場に顔を出してから、サイラスの町の商業ギルドと冒険者ギルドに寄って、最後に昨日よりジョルジュ様に報告に向かっている護衛騎士団のトーラスさんとバッツさんの二名を回収するついでにジョルジュ様とお話をして帰る予定である。


大豆の為に南のエリアを広げる予定であり、最初に牧場と小麦畑がメインのエリアの視察に向かうと、来年分の小麦の種蒔きも終わり、今年の小麦は豊作だったと小麦農家のエリックさんとオリガさんの夫婦が笑顔で報告してくれた。


オリガさんが、


「カトリちゃんが村に来てくれてから、息子のランドがヤル気で、小麦の世話にも気合いが入ったらしく凄く豊作でした」


と、カトリちゃんがゾッコンだったらしいが、ランド君もカトリちゃんが気になり良いところを見せようと…


『もう、付き合っちゃえよ!』


と思う俺だが、そんな事を心配しなくても、次に向かった牧場エリアで、ランド君がニコニコとカトリちゃんと笑いながら馬達の世話をしていた。


俺達は何にも言ってないのにランド君は真っ赤な顔で、


「藁を持ってきたので、堆肥の為にお手伝いを…」


などと慌てているので、俺は、


「男が言い訳しない!カトリちゃんが気になって手伝いに来たならば胸を張って報告する」


と、少しイタズラっぽく言ってやると、ランド君は、


「はい、カトリちゃんが大好きです」


と、愛の告発をはじめてしまい、カトリちゃんが嬉しさのあまりランド君に抱きついて泣き出すという何とも甘い光景を見せられたのだが、強制労働中のヒッキーちゃんから、『録画完了』と短い報告が脳内に届き、


『いつの間にマルチタスクの出来るナビゲーターになったんだ?!』


と、ヒッキーちゃんの成長に驚く俺だった。


これはエリックさん達にもだが、ニンファの町のカトリちゃんパパのタタップさん達にも報告しなければ…しかし、やはりそれには先ずはプロポーズからだと考えて、ランド君とカトリちゃんに、


「次のお休みに二人でデートしにアグアスの王都に行ってみないか?」


と誘うと、二人はモジモジしながら「どうしよう…」と相談している。


俺が、


「大丈夫、ナッツも付き添いで行くし…」


というと相棒は、


「えっ?私ですか??」


と驚いているので、ナッツに、


「エリーちゃんを誘っちゃえよ。

なんなら、シュガーちゃんとロイド君も連れて…ミリンダ母さんと、家族旅行でもして一家の絆を深めてきなよ」


と提案すると、ナッツも満更では無い様子だった。


そこからは、ナッツを中心に日帰り旅行の話題で盛り上がっているので、俺は、バーンとクイーンの居る放牧エリアに行って馬達の様子を見に向かったのだがこちらはこちらで、バーンのハーレム状態で、バーンの後ろにメス達、その後ろに子馬達とモテモテ状態であった。


アグアスのフォルの町の農耕馬担当だったジュニアも帰ってきており、バーンファミリーは順調に数を増やしている…


「我が家で一番のリア充だな…」


と、バーンに声をかけるとニカッと歯茎を見せる愛馬に、


「お前、言葉理解してるよね…」


と語りかけていると、旅行の相談が一段落したらしいカトリちゃんが、


「バーンちゃんは賢いですよ。

クイーンちゃんがレースで負けて落ち込んで帰ってきた時も励ましてくれて…

クイーンちゃんが、発情期でもわざと自分から遠ざけて先ずはレースに勝て!みたいに振る舞って…」


とバーンの男気を称賛している。


確かに、手を出してしまえば子馬が出来てレースどころでは無いが…


『そんな気遣いまで出来るのか?…ウチのバーンは…』


と、馬魔物はやはりただの馬では無いのかと少し引いている自分と、我慢が出来る余裕のあるオスを尊敬する自分がいた。


しかし、今年の夏の草競馬大会で見事にクイーンちゃんはあの時の乗り手のビリーさんと、


「あの時のコンビなら最下位だ!」


との観客達の予想を裏切りブッチギリの一位でリベンジを果たしたのだそうだ。


おかげで、ジョルジュ・レーシング・アソシエーション始まって以来最高額の配当が有ったらしいのだが、その馬券を当てたのもジャルダン村の面々だったとカトリちゃんが教えてくれたのだが、俺としては、


『多分それは、マキバのカトリちゃんの予想に村人が乗っかっただけだよ…』


と思いつつも、次回レースを見に行く時は必ずカトリちゃんの意見を聞こうと心に誓う俺だった。


という訳で、もうリベンジを果たして満足したクイーンちゃんは、バーンにベッタリで来年にはクイーンの子馬が増えそうである。


それからは、村をグルリと巡り、養殖場と葡萄畑担当のトータスさんから来年辺りから葡萄の収穫が見込めてワイン造りも出来そうだとの報告を受けたり、

細工職人のベアードさん親子から貴族向けの髪止めの制作の為に宝石を使った作品と、錬金術師達が開発した新たな色の水晶ガラスを使い、庶民向けの商品を作ったのだが、水晶ガラスを贅沢に使ったきらびやかな作品が、貴族にも人気で色水晶ガラスの宝飾品がブームらしいとの報告を受けたりした。


これは、葡萄畑が忙しくなるトータスさんファミリーを養殖池から葡萄畑専属にして、ガラス細工職人を増やさないと…

そしたら養殖場のスタッフが新たに必要になるな…

などと、次々に新たな情報やらやるべき事が出て来てキリがないので、


「ナッツ、サイラスの町にも行かなきゃならないから、商業ギルドのマイトさんに届けるオランの実と、クレアママさんに届けるアグアスのお土産を持って行こう」


と相棒に言うと、ナッツはイソイソと自分の部屋にエリーちゃんに渡す貝の殻を使ったキラキラとキレイな小箱を取りに走る。


エリーちゃんへのお土産の小箱は、何やら錬金技術を使ったラデン細工のアクセサリー入れらしく、アグアスの大使さんのイチオシのお土産だったのだ。


ちなみにクレアママさんには同じラデン細工の手鏡と櫛のセットである。


さて、ジョルジュ様も待ってるしサイラスの町に行きますか…


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