第177話 思い出の味と素直な感想


ヒッキーちゃんによる魔力の無駄遣いが判明し、現在、彼女には厳しい罰を与えている…

といっても、具現化したバッグや美顔器にロボット掃除機を没収しても仕方ないし、ベッキーさんも美顔器を持っていたことから、一人占めしていたのでは無いと解り、責めるに責められない点もあるので調子に乗って人の魔力を使いまくった約一ヶ月間と同じ期間、彼女に体で返してもらう事にした。


といってもイヤらしい意味ではなく労働的な意味である。


勿論魔力を勝手に使う具現化にも厳しいルールを作り、2日に一回、俺が寝る前に限り食料品と生活雑貨の具現化を許可するという事に決めた。

寝る前に使った分の魔力であれば睡眠中に回復するからだ。


一番問題だったのは、このポンコツが朝に限度額いっぱいまで俺の魔力を使い、やっと自然回復した夕方にも具現化パーティーをしたことが問題なのだ。


新たにベッキーさんを魔力無駄遣い監察官に任命し、ヒッキーちゃんには範囲拡大で広げた敷地を一旦ポイントに戻して、

もう使わなくなった狩場や素材が無くなった採掘場などを外して新たな場所に狩り場や採掘場を設定して、向こう1ヶ月寝る間を惜しんで狩りと採掘に励んでもらい、販売機能でポイントを稼いで償ってもらう事になったのだ。


勿論、平行して闘技場の獲物探しもやってもらうし、温泉に行きたい村人の管理をしてもらうのだがヒッキーちゃんは、


「温泉は敷地内回収で冷泉の水を回収して村のお風呂で沸かしているので転移希望者は現在いません」


と言っていた。


『なぁ~にぃぃぃぃ!なるほど、考えたなぁ…

ヒッキーちゃんはたまにナイスなアイデアを出すからな…』


と感心する俺だが、そんな事で彼女の罪は減刑されない…

しかし、どうせ冷たい水で沸かすのだから中身だけ飛ばせば敷地内ならどこでも風呂に入れるな…と感心するが転移者を管理しなくて良いのならば空いた時間で追加でヒッキーちゃんには別の作業をさせるだけである。


とりあえず、勝手に楽しんだ1ヶ月分は、クタクタになるまで働いてポイントを稼いでもらう…

そして俺は、ヒッキーちゃんの労働で勝手にポイントと経験値を稼ぎながら、留守をしていた分ニンファの町をはじめ、各地のジャルダン商会系の店を視察したりして、来年からの新たな商品などの準備に入る為にホークスさんと相談することにしたのだが、ホークスさんから、


「ニンファの町で採用した教育担当のサンチョさんと、保育担当のニーニャさんですが、」


と切り出すので俺は、


「えっ、何か有ったの!?」


と心配になり聞くと、サンチョさんは教師のリーダーとして、ニーニャさんは託児所のリーダーとしてニンファで働いてくれていたのだが、なんと二人は新たな町で安定した暮らしと、楽しい仕事を一緒に頑張り知らぬ間に引かれ会う関係になり、この度結婚することになったらしい。


そして、二人はジャルダン村への移住を希望しているらしく、既にジーグさんに後任の校長と託児所のリーダーの推薦もして引き継ぎを終わらせているらしいのだ。


めでたいことだが、サンチョさんは若い奥さんを貰って、益々やる気になっているらしいからジャルダン商会のメンバーに組み込んで…

てか、サンチョさん夫婦さえ良ければ、サルテの街のウチの土地に、商会の支店を出して、アグアス側の難民の方々の務め先や、ニーニャさんのノウハウで、託児所は勿論、学校に通う為の寮の運営も任せるかも知れないな…

いっぺん相談してみようかな?などと思いながら、ホークスさんとまず一つ目の場所に向かう。


それは村の中にあるパン工場だ。


勿論、いくら悪ふざけが好きな俺でも、煙突からアンコが詰まったタイプの人物がパトロールに出発出来そうなタイプのパン工場は作っていない…

壁生成で四方の壁を作り、内部と屋根を大工チームに作って貰った各地に作っているパン屋と同じ配置のキッチンが5つ並ぶパン職人養成施設でもある。


ホークスさんにパン工場の状況や各地のパン屋の報告を受けながら、パン職人のブレンダさんが数名のお弟子さんと共に、天然酵母の柔らかいパンを焼ける職人を育てくれているのだが、現在ユーノス辺境伯派閥の貴族家からの6名と、ニンファの町からの4名の職人が独り立ちを目指しているらしく、その生徒さんの仕上がりを見に来たのだ。


派閥の貴族からの研修生は卒業後は、送り出してくれた貴族の町で『ユーノスパン』を出店する予定で、送り出した貴族家が、既に完成したユーノスパンの店舗を真似た店を建てて、彼や彼女らの帰還を待っているらしい。


そして、ニンファの町からの研修生は、比較的友好的な他の派閥の町などにジャルダン商会が店を用意して派遣する形の職人さんになってもらうのだ。


既にジャルダン商会の加工肉工房でソーセージのレシピを共有し、村とニンファで生産しており、練習も兼ねて毎朝作られるコッペパンは、主にニンファの教会に礼拝に来る参拝客へ名物のホットドッグとして販売されている。


朝早くから仕込んだコッペパンが焼き上がり、一息ついているパン工場に来たのにはもう1つ、アグアス王国で見つけて買い付けた大豆を炒ってから粉にした、きな粉でを試しに作ってみて、新たなユーノスパンのレシピに加えてもらう為だ。


ブレンダさん達に、アグアスで買い付けた大豆を渡して、少しフライパンで炒って粉にしてもらい、保管倉庫にある作りおきのコッペパンを油で揚げて、そのきな粉に砂糖と少しの塩を混ぜて、揚げたてのパンにまぶすだけなのだがビジュアルからもう旨そうだ。


しかし、この国では、調味料以外の粉まみれの物を食べる文化が無く砂糖まみれにしたキャラメルみたいに揚げパンは受け入れてもらえなったらしく、パン職人の皆は遠巻きに得体の知れない粉まみれの揚げたパンを眺めていた。


だが、そんな事は俺には関係ない。


アツアツでパンパンに膨らんだコッペパンが粉を纏い、

次のパンを揚げている間にユックリと冷めて軽くシワが出来るパンは、溝にたっぷりときな粉を蓄えた部分や油でしっとりとしたきな粉の部分…

もう、美味しそうに「食べて、食べて!」と、俺を呼んでいる。


「いただきま~す」


と言って口の周りを粉だらけにしてかじりつき、噛み締める度に頭に過る給食の思い出に、


「旨い、旨い!!」


と俺は、興奮気味に一個を食べきってしまった。


ブレンダさんが、


「キース様…大丈夫でしょうか?」


と、心配そうに聞くが、俺は口の横の粉を払いながら、


「最高だよ、冷えた牛乳を飲みたいぐらいかな?

まぁ、お腹が痛くなるから飲まないけどね」


と答えると、ブレンダさんは、


「では、私も…」


と皆が見つめる中で揚げパンにかじりつき、斜め上を見上げて味を確かめた後に、目を見開き揚げパンを見つめて感想も言わずに二口目を頬張る。


元ユーノス伯爵様の屋敷の料理人のお弟子さんが、氷で冷やすタイプの冷蔵庫からミルクを木のコップに注いで差し出すと、ブレンダさんはそれを受け取り飲み干し、ミルクを渡したお弟子さんへの礼もそこそこに、


「何ですかこれは!皆さんも先ずは食べてみてください。

この地面に落とした様な見た目からな考えられない豊かな味わいですよ!!」


と言って、お弟子さんや、研修生達が揚げパンを頬張り始める。


俺は、ホークスさんにも進めるがホークスさんも、


「地面に落とした…」


と、ブレンダさんの言葉のその部分に賛同してしまってなかなか手を出さなかった。


『地面に落としたって、確かにそう言われたらそうだけど…

確かに、ユーノス辺境伯領では土を食べるとか噂が立つのは嫌だな…美味しいのに…』


などと思っている俺をよそにブレンダさん達は、


「少し口の周りが粉だらけになるのは、お茶会に向きませんね」


とか、


「パン自体を細くすれば…しかし、どうなんでしょう…細く切ってから揚げると油が余計に染み込みませんか?」


などと改良案を出している。


気に入ったみたいで何よりだが、俺的には粉だらけになるのも含めて揚げパンだから自宅で食べる時はコッペパンを使って自分で作るから販売用の揚げパンは職人に任せる事にした。


『大豆は来年春の作付けで作る事は確定だな…

あと、枝豆も食べたいからジャルダン村の畑を広げて豆農家をニンファから募集して、来年の辺境伯様のパーティーは枝豆にキンキンに冷えたエールを出しても良いな…

よし、南の平原の方に農地を広げて大豆畑にしよう!』


と満足した俺に、一口大にカットしてもらった揚げパンを恐る恐る食べたホークスさんが、


「キース様!これは癖になります」


と、モリモリと食べはじめていた。


もう、次に行くよ…


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