第176話 帰還の報告と告白


土地が手に入った3日後…サルテの町に到着してから一週間あまり過ごし、ゴタゴタは有ったがやるべき事も全て終わったので一旦シルフィード王国に帰る事にした。


すでに別荘指定してある土地も有るのでいつでもサルテの街に来れる。


アグアスの皆様が、「お別れの宴を…」と言ってくれたが、予定以上に迎賓館でもてなしてくれて迷惑をかけて居るので遠慮しておいたのだがアグアス国王陛下は、


「国賓が宴を拒否して帰ったとあれば、シルフィード…いや、姉上が…」


などと、青い顔をするので、


「またチョクチョク遊びに来ますから…」


と言って宴を断ることにすると、迷惑令嬢の父親達が、


「ならば、盛大なパレードでお見送りを…」


と、提案されたのだが、町外れから転移出来るのにパレードなんかしたら目立ち過ぎて旧倉庫街にすら向かえないのでこちらもお断りしてひっそりと帰る事にした。


俺は一刻も早くジャルダン村に戻ってからホークスさんや工房チームも交えて、サルテの別荘地開発作戦を練る予定でいるのだ。


アグアスの城のみなさんに礼を述べてから転移の為に旧市街に向かう事にして馬車に乗り込む俺達と、シルフィード王国からのメンバーと、アグアスの大使さんと何故かアグアス王国の文官さん数名まで追加され、行きより多いメンバーでの転移となる。


見送りに来ていたアグアス国王陛下や宰相様から分厚い手紙を託されたアグアスの文官さん達は、


「くれぐれも、姉上には別れの宴を開かなかったのでは無く、ご本人達のご希望で…」


などと、必死に何かを伝えている。


やっと、別れの挨拶が終わった様で人間は昨日作った転移部屋に入れるだけ詰めて入ってもらい、何度かに分けてセーニャまで転移し、馬車や荷物は敷地内回収と配達機能でセーニャに飛ばし、少し勿体ないが、馬魔物は転移部屋に無理やり詰め込む訳にいかないので、一件につき15ヒッキーポイントでセーニャに転移させた。


地味に馬が一番ポイントを使ってしまったが、大事なバーン達を置いていくわけにも行かないので仕方ない…

シルフィード王国から約2ヶ月かけてアグアスまで移動し、帰りは数秒で戻って来た事に護衛騎士隊長のベントお兄さんは、


「転移出来ると聞いてはいたが、実際に体験すると、なんだか現実味がないな…久しぶりのシルフィード王国のはずなのに…」


とクレストの街を目指しながらのんびり馬を走らせている。


俺は、馬車の窓からベントお兄さんに、


「俺なんか一週間ほど前にいっぺんクレストに来てますからね…久しぶりな感覚も無いですよ」


などと言いながら城に到着し国王陛下に帰還の報告を済ませ、アグアス王国への訪問団は一旦解散となった。


あとは、一緒に来たアグアスの文官団とシルフィード王国の偉いさんが上手い具合にやってくれるだろうと期待して、俺達はジャルダン村へと帰るために城をあとにしようとすると何故か護衛騎士隊の十名がついてくる。


ベント隊長達に、


「解散では?」


と、俺が首を傾げながら聞くと、ベント隊長は、


「キース君、我々は聖人様の護衛騎士隊だよ。

キース君の行くところについて行くに決まっている」


と笑っているが、


『それならば早く言ってよぉ~…10人も住む場所有るかな?』


と心配しながらセーニャに移動し、軽く温泉を楽しんだあとでジャルダン村に皆で戻ってきたのだが、驚く事になっていた。


なんとジャルダン村の闘技場の近くに、ニンファの町の居住区画の集合住宅と同じ物が二棟出来ていたのだ。


ホークスさんに、ただいまの挨拶もそこそこに、俺が、


「あれは?」


と聞くと、ホークスさんは、


「村の皆で相談して、ヒッキー様に協力をお願いして作りました。」


と教えてくれた。


何でもフォルの町のゴブリン退治をしたあとで、難民の方々があの状態で冬越しするのは気の毒だから、せめて子供や老人だけでもと、村の皆で闘技場で倒した魔物を一部フォルの支援物資にした以外は、ヒッキーちゃんがサブマスターとして、販売機能でポイントに変換して、そのポイントで壁生成を使って作り大工チームが仕上げてくれたらしい。


工事用ヘルメットにスーツ姿の現場監督風のヒッキーちゃんが投影クリスタルから現れ、


「マスター、一棟はフォルの町用ですが、

もう一棟は、錬金術師さん達の職員寮になっております。

まだ部屋は有りますので、騎士隊の皆様もどうぞ、既にベッドとテーブルとタンスは入っております」


と出来る女風に手に持った資料を読んで報告してくるので、俺は、


「いつでも報告出来たのになんで黙ってたの?」


とヒッキーちゃんに聞くと、モジモジしながら、


「だって、錬金術師の皆が、帰って来たら村役場が無くなってたから、村に住める様にして下さいませんか?ってお願いされて…丁度ガルさん達からもフォルの難民の冬越しの家が要るねって…」


と説明しているが、要するに信者にお願いされて、良い格好するために頑張ったということらしい…

しかし、俺が前に作った設計図を使ったとはいえ、立派に集合住宅を作り上げたのだ。


しかも皆と手分けして、ポイントすらも自前で稼いだ事に感心した俺は、


「ヒッキーちゃんお手柄だよ!」


と誉めると、ヒッキーちゃんは、「エヘヘ」と、嬉しそうだった。


俺は、


「そうだこの2ヶ月、出発前に溜め込んだ保存食とだけだったからヒッキーちゃんが食べたい物を具現化するよ何が良い?」


と、ヒッキーちゃんに伝えると、


「マスター、疲れてるだろうからまた今度でいい…です…」


と、目を泳がしているので、後の事はホークスさんに任せて、近くのベンチからマスタールームに意識を飛ばした。


そこにはいつも通りのマスタールームであったが、居住空間のキッチンに入ると、出した覚えのないお菓子やアイスや食べ物が…

まさかと思いヒッキールームに踏み込むと、段ボールに知らないコスプレや高そうな鞄を詰め込むヒッキーちゃんが居た。


ヒッキーちゃんは、


「ま、ま、マスター!レ、レディーの部屋に入る時はノックをするのがマナー…かと…」


と、抗議をしながらユックリ立ち上がり、俺に近寄り、そして彼女は静かに土下座をした…


「申し訳御座いませんでした。

サブマスターになり、マスターの魔力の半分量ならば自由に出来る事がわかり、初めはベッキーちゃんと美味しい物を食べておりましたが、留守番賃とばかりに、毎日ギリギリまでマスターの魔力を使い、具現化三昧をしておりました」


と、それは綺麗に罪を白状した。


そこで、俺は色々思い当たる事が有った。


旅の中盤から疲れが取れない日々が続き、てっきり長旅が原因と思っていた事や、サルテの城ではあんな安いハニートラップに引っ掛かりそうになるぐらい注意力が散漫になっていた事など…


『常時魔力半分の状態で、軽い気だるさに襲われて、頭が回る訳が無い!』


凄く呆れると同時に、このヒッキーちゃんのポンコツぶりに、なぜか村に帰って来たと実感して、ホッコリしてしまう俺はソフトなMに目覚めてしまったのだろうか?…

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