第174話 ナッツの気持ちを知った日


アグアス王国でのこちら側の仕事は終了した…

アグアスの宰相様が迎賓館で寝泊まりしている俺達の所に毎朝の様に来て、本日の予定を聞いてくるのは早く帰って欲しいからでは無いかな?…と勘繰ってしまう俺がいる。


今日か明日にでも土地が手に入れば、いつでも転移を使って買い物に来れるので、サルテの大教会の影絵劇の進み具合も見に来れる上に、土地さえ買えばその日のうちに訪問団全員をセーニャの別荘までだって転移できるので、俺は宰相様に、


「今日はマキノ村まで油豆の買い付けに行って、近場で手頃な土地を購入してからシルフィードへ帰ろうかと…」


と告げると、宰相様は、


「土地をお探しですか?」


とギンギンの目で聞いてくるので、俺は、


「えぇ、まぁ…」


とだけ答えると、宰相様が、


「マキノ村での油豆の買い付けはこちらで手配しますので、皆様、本日は是非とも私にお時間を頂けませんでしょうか?

土地の購入にも関わるかも知れませんので…」


と言われて、城の会議室に案内されるとアグアスの国王陛下がニコニコしながら、


「土地を探していると聞いて、これでようやく平和を願うナッツ様への罪滅ぼしが出来ると、皆様の予定を変更して頂いたのです。

それでは、こちらを…」


と言って、配下に机の上に地図と資料を広げさせて、


「どこになさいますか?」


と聞いてくる。


俺が、


『何をどうするのか?』


と首を傾げていると、アグアスの宰相様が、


「ナッツ様が希望されておられた、オランの栽培地と釣りが楽しめる場所を幾つかご用意してあります。

サルテの壁内にある貴族の別邸ならばここや、この辺り…

海から少し離れますが、近隣の漁村の一部であれば、かなりの土地がご用意出来ます」


と地図を指差して報告してくれたのだが、ナッツは慌てながら、


「どうしましょうキース様?」


と聞いてくるが、これはナッツがひどい目に有ったから貰える土地であるらしいので、俺は、


「ナッツが好きなのを貰いなよ。

土地の一部を俺にくれるか、隣の土地を俺が買えば転移も使えるから」


というと、ナッツは資料を見ながら、


「アグアスの学校に通える場所は有りますか?」


とアグアスの方々に聞いている。


俺は『なんでだ?』と思ったのだが、アグアスの方々も不思議に思ったらしく国王陛下が、


「訳を伺っても良いですか?」


とナッツに聞いている。


するとナッツは、


「私が土地を貰ってもろくに管理も出来ないでしょう。

しかし、学校に行ける土地を頂いて住む為の長屋でも建てれば、戦争で難民になってしまったフォルの町の子供達が学校に通う為の宿舎に使えるし、学校に通う子供の家族も食事や掃除をする管理人として雇う事も出来るので…」


とサラリと答えた。


俺は、驚くと同時に相棒の提案を少し誇らしくも感じた…


「俺の相棒は優しい男だぞぉぉぉ!」


と、城のベランダから町に向けて叫びたいくらいに…すると宰相様は、


「釣りやオランの栽培がお望みかと…」


と唖然とするが、ナッツは、


「オランは土地さえ有れば手間隙かければ育ちます。

釣りは私有地で無くても、馬車で移動しても、岸からでもそれこそ船で沖に出ても出来ます。

しかし、人にはチャンスが必要です…

私も奴隷から良いご主人との出会いや、沢山の好機に恵まれて今が有りますので…」


と言ったとたんに、部屋の人々は言葉を失った。


そして、俺はずっと側に居たのに奴隷というドン底を経験したナッツの気持ちもキチンと理解出来ていなかったのかもしれない…

セラさんも奴隷に落ちた過去があり、ナッツの言葉に涙を流して頷いている。


そして、アグアスの国王陛下も、


「キース様の偉業は部下より聞いておりました。

そして今、自分の目でナッツ様の心を知り、やはりお二人共に聖人としてつかわされた神々の使徒なのだと確信いたしました」


と言った後で国王陛下は宰相様に、


「サルテの町の北の旧市街にある使用されていない倉庫街の一区画を使徒様の物として、今回迷惑をかけた全ての家で手伝い、カッパス子爵とも連携して難民救済に力をいれようぞ!」


と言ってくれた。


そこからはもうトントン拍子で話が進み、サルテの町の北、赤レンガの壁に囲まれた旧市街と言う下町の一区画に土地をもらったのだが、職人の古い工房が三軒と、塩工場だった古い建物と、完全に潰れた倉庫があるだけの場所だった。


ナッツに、


「ナッツが貰った土地だから」


と言ったのだが、


「キース様が所有しないと、敷地整備や移築が出来ないですので…私に悪いと思ったのならば、いずれ一艘、釣り船をお願いします。」


という条件で俺の所有地となり、別荘指定が出来る事になった。


別荘指定をすると、サブマスターのヒッキーちゃんだけではなく、ベッキーさんの声も頭に聞こえて来て、大きさ的にはそんなに広く無いが先ずは潰れた倉庫をヒッキーちゃんに頼んで範囲回収で資材倉庫に入れて、土や木材に仕分けていずれ使う材料として、後日、村から建物を移築や新たに大工さんに頼んで建て替えをすれば来年の入学シーズン迄に何とかなるだろう…

大体一年あるし、村に戻ってポイントを稼がなければ!…

ポイントさえあれば集合住宅も建設出来るし…

ナッツに釣り船を作る為のポイントも貯まれば、ヒッキー教団の錬金術師達に魔石で動くスクリューか、外輪船でもお願いしてみるかな?などと思いながら、ポイントが無くても出来る敷地内回収で潰れた倉庫を片付けて更地を作っていると、一緒に現場についてきて建物の改築や建て替えの為にお金を出し合うつもりだった例の問題児の令嬢達の親が、あまりの光景に俺に向かい何故か祈りを捧げていた。


職人さんの工房だった三軒は、掃除をすれば寝起きはできそうな感じであるので、潰れた倉庫を片付けた場所にベッキーさんにサポートをお願いし移築した…

少しヒッキーポイントを使ったがこれくらいは何ともないのだが、塩工場だった建物は、流石は国家機密の製塩施設だったこともあり古くはあるが、頑丈で、手直しすれば活用出来そうであるし、動かすにもポイントがかなりかかりそうなので、コレはこのまま活用する事にした。


片付けも終わったが、迷惑令嬢達の親は出る幕が無く、


「あの~、我々は何をすれば?…」


と聞いていたのだが、するとナッツが、


「この敷地の開発は我々だけで大丈夫ですので、皆様は娘さんの教育をお願いいたします」


というと、全員ぐうの音も出ない様子で少し肩を落として帰る事になった。


別荘指定も済んだので、あまり迎賓館に長く居座るのも悪いと思い、ジャルダン村から旧母屋を移築して迎賓館から出ようかと相談するとアグアスの城の関係者の皆さんは、


「気にせずに、いつまでも迎賓館に居て下さい。」


と、かなり必死に言ってくれたが、近々帰る事にしなければ秋の収穫時期が来てしまう…

まぁ、2~3日したら帰ろうかな…別荘が出来たから敷地内回収で村の倉庫まで新鮮な魚が飛ばせれるから…やっと買い物が楽しめるよ…

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