第173話 思わぬ事に驚く町ぶら


面倒な会議の翌日、ナッツの気分転換も兼ねて、俺達はサルテの町をぶらり歩きしながら城の近くのアグアスの国の教会の本部であるサルテ大教会を目指している。


前回の事もあり何が有るか解らないと護衛騎士隊の皆も一緒にぞろぞろとである…

市場を巡りながら、海の幸やアグアスの農産物を見て回りながらなのだが、やはりシルフィード王国で見た魚図鑑はアグアス地方の物はあまり載っていなかった様で、昨日料理人さんが言っていたイカや、タコは勿論アジみたいな魚やカサゴのような根魚や大型の回遊魚風の魚まで売っていた。


最近良い事無しのナッツが、


「あんなのが釣れたら楽しいでしょうね」


と、ポソリと呟くので俺は、


「海辺の土地を購入して釣りをしよう!

新鮮なまま保管倉庫に放り込めるぐらいの海辺で、ナッツの釣った魚で美味しい何かを作ろう」


と、ナッツに少しでも気分が紛れる様にと声をかけながら、皆で市場を楽しんでいるとバッツさんが


「この豆は何ですか?」


と露店の親父さんと話している。


食材や料理に詳しいバッツさんだが、海鮮類に疎いのは解るが、作物で知らない物が有るのは珍しく、俺が、「どれどれ?」と覗き込むと、そこには良く知っているが、ユーノス辺境伯領では一切見たことがないが並んでいた。


思わず、


「おっちゃん!この豆どうやって食べるの?」


と、俺も聞くと、おっちゃんは、


か?

油を絞ってそのカスを畑に撒いたり、角なしとかのエサにするか…あとは、炒って子供のオヤツかな?

あぁ、そうそう、アグアスの南の方では炒って粉にした油豆に蜂蜜を混ぜて棒状の菓子にしている村が有ったな。

まぁ、それぐらいだ。

冬場は、水で戻してスープのかさ増し具材に使うかぐらいの豆だ」


と教えてくれた。


それを聞いて、


『おいおいおい…マジで大豆じゃないかよ!それに、きな粉棒まで有るのかよ!!

スゲーな異世界…』


と感心しつつおっちゃんに、


「油豆とやらはあとどれくらい有るの?」


と聞くと、


「今はこの一袋だけだけど、村に帰れば20は有るし、秋まで待ってくれたらば今年のが収穫出来るよ」


と言ってくれたので、俺が、


「とりあえず保管してあるヤツも全部貰うよ。

今日は用事が有るけど…明日もここで店を出してる?」


と聞くと、おっちゃんは、


「残念だが、今日で一旦店じまいで次は半月後かな、村まで来てくれたらいつでも売るよ。

王都から南に半日のマキノ村って所だから、」


と教えてくれた。


絶対買いに行こう!と心に誓い、教会までの道中俺は一人で、


『きな粉が手に入れば、きな粉砂糖タイプの揚げパンや、海の水を煮たたせ塩を作った後の汁気を使えば豆腐だってつくれるし、豆腐が手に入れば油あげだってつくれる…』


と、様々なメニューを思いだし、出来る、出来ない…などど考えながら異国での思わぬ出会いに興奮している。


『あぁ、あと米と醤油が有れば、こっちの食材でいなり寿司だって作れるのに…』


などと、贅沢な悩みを楽しんでいると知らない間にサルテ大教会に到着していた。


そこには、ニンファの町の教会建設を見学に来ていた神官さんが俺達を出迎えてくれて、


「聖人様、お待ちしておりました」


と言って、大教会を案内してくれたのだが、やはりシルフィード王国の王都クレストにある三柱の神像とほぼ同じの物が並んでいたのだが、奥の壁にどこかで見たような絵画が飾ってあり、


『ニンファの町の教会の神像の模写と、ステンドグラスの並ぶ礼拝堂の絵だろうか?』


などと感心しながら、かなり精巧に描かれた絵画を眺めていると、端には聖人の間に有る俺達のステンドグラスの模写まで飾ってあった…


『頼むから異国までお昼寝の聖人の名前を広めないで欲しい…』


と、すこし凹む俺に大教会の方々と、大教会の依頼でステンドグラスを作る事になったアグアスの錬金ギルドの方々が集まり、精霊ベッキーさんに妖精ヒッキーちゃんの話をはじめとしてステンドグラスの技術などを時間の許す限り話した。


ステンドグラスの技術はギルド経由で資料としてはあるが、知らない技術を資料から学びとるには、なかなか難しいようで俺が解る限りの手順を伝えると、技術的には理解したのだが下絵の構図の描き方が解らないと今度は言い出したのだった。


俺は壁の絵を指差して、


「あの上手な絵を描いたのは?」


と聞くと、ニンファまで来ていた神官さんが恥ずかしそうにそっと手を挙げたのを見て、


「あんな上手な絵が描けるならば簡単に出来ますよ」


と言って、切り絵や影絵みたいな物がステンドグラスの下絵に使える話をすると、なぜかアグアスの錬金ギルドの職人さんは、


「聖人様、その影絵とは?」


と影絵の話に興味を持って聞いてくるので、


「えっ?シーツみたいな物の後ろからライトなどの光を当てて、厚紙を切った人形等で物語を演じる劇や、太陽の光で手を使って生き物を象る遊びとかですが、この場合ステンドグラスに使えるのは影絵劇の方ですかね…」


などと説明すると、神官さんまで食いつてきて、


「では聖人様、ステンドグラスで神々の物語を伝える事の出来る大きな教会は良いとして、お金の無い教会でもその影絵劇という物をすれば神々の物語を文字の読めない人々にも?」


と聞いてくるので、俺は、


「そうですね、足や手の動かせる影絵人形ならば、扱うのにかなりの練習や職人技が要りますが、簡単な人形に簡単な台本で有れば、教会に来ている幼い子供何人かで練習をして発表会みたいにするのも楽しいかもしれませんね」


と伝えると神官さんは、


「シーツや魔石ランプで本当に、幼子に向けての神々の話が…

これは、発明…いや、これは神々に聖人様が遣わされた理由の1つかもしれません」


と言って神官さんは、錬金ギルドの職人さんに、


「ステンドグラスは一旦置いておいて、影絵劇の為の技術協力を頼みます」


と言っている。


錬金ギルドの職人さんのリーダーさんは、俺達に頭を深々と下げて、


「聖人様、大変厚かましいお願いでございますが、影絵劇の技術に関しての特許をこのアグアスの大教会の名前にして下さいませんか?

私はこの大教会の孤児院出身で必死に勉強をして錬金術師になれたのもこの大教会の先代の神官長様のおかげなんです。

私が資料にまとめて聖人様に特許使用料が入る様に手続き致しますので…」


とお願いされたが、正直、影絵劇で金を稼ぐ気は無いし、その技術を頑張って再現する錬金術師さんの手柄だから、


「特許は大教会で構いませんし、特許料は錬金術師さんみたいに頑張ってる孤児さんが夢を掴んだりするために使ったら良いですよ」


と伝えると泣いて喜んでくれた。


そこから数時間、影絵劇についての話をしながら俺は小学校の頃のお楽しみ会などの練習を思いだしていた。


『しかし、影絵劇に興味を持たれるとは思わなかった…』


娯楽が少ないこの世界で子供達の楽しみが出来るのは良いことだろうし、どんな世界にも突き詰めるタイプの人間は居るので、最初は簡単な影絵からだが、次第に複雑な人形を扱う様になり影絵劇団などが出来れば楽しいだろうな…

こちらの世界にも演劇はあるらしいが、見られるのは王都などの限られた場所のみだし…

そうだ、村に帰ったら紙芝居でもやってやろうかな?…きな粉棒を作って子供達に食べさせるついでに…


あぁ…早く村でゆっくりしたいよ…

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