第172話 会議で抗議します
翌朝、被害者である俺とナッツを連れてシルフィードの文官さん達はアグアスの城の会議室に案内されていた。
シーナさんは、まだ第二王女とその手下の令嬢達に怒っており、下手に会議に参加させたならばまた怒りが膨れ上がるかも知れないのでセラさんが気を利かせて一緒に迎賓館で留守番をしてくれている。
席について前を見ると既にグッタリしているアグアスの国王様以下この一件に関わりのあるアグアスの貴族家の当主が並んでいるようだ…
アグアス国王陛下が、
「この度は、我が娘が誠にすまない!」
と頭を下げるとズラリと並んだ貴族達も頭を下げた後に面倒臭い会議が始まった。
何故こんな事になったかというと、今回の首謀者の第二王女とその取り巻きとも言える貴族の娘達は、全員が貴族家の次女や三女で構成されており、家の方針としては学校で好きな男性でも出来ればと思っていたが、それもなく、嫁入り修業も兼ねて城でメイドをしながらお見合い相手を探していたらしい。
第二王女も同じように学校で好きな男性でも出来るかと思っていたが、性格なのか何なのか好きになってくれる男性も現れずに他の令嬢と同じようにお見合い相手を探す生活であり、姉が他国の王家に嫁ぐ事が決まり焦りや不満を感じるも、やれ「顔が」とか、「身分が」などと言ってお見合いすらろくに出来ない状態の所に鴨がネギを背負ってやってきたということらしいのだが…
『やって良い事では無いよね?!』
と呆れてしまう犯行動機に、シルフィード王国の文官さんは指示書に書いて有った通りにシルフィード王国としての抗議を述べた後に、厳しい罰と正式な謝罪や誠意ある態度を示す様に求めるとアグアスの面々は夏の暑さとは関係なく滝の様な汗を流して、
「娘達には謹慎させ…」
と言い出したとたんに、シルフィード王国の文官さんのリーダーが、
「甘い!」
と怒鳴る。
これも指示書に書いて有った事で、謹慎や反省文などという甘い罰を提示した時点で、シルフィード王国がいかに怒りを感じているかを示す様にと云うことでありリーダーさんは、
「我が国の伯爵であり、教会から聖人と認定されたジャルダン伯爵とその従者に対して、非道を働いた上で、謹慎等と言う家の中だけで与える罰で済まされるおつもりか?
シルフィード王国としては、馬鹿にされたも同然!」
との怒り心頭の名演技で、更に顔色が悪くなっているアグアスの面々に向けてリーダーさんは、
「我が国の貴族に罠を仕掛けたのです。
アグアス王国からの塩の輸入をイグノ王国の岩塩に切り替え、貴国を敵対国として認定することも本国は視野に入れております。」
と、ピシャッリ!と言い切った。
アグアス国王陛下は、頭を抱えながらシルフィード王国に嫁いだ姉が生まれた家であろうと容赦しない姿勢である事と、自分の娘がしでかした事の重大さを再確認したようであった。
そして会議の結果、首謀者の第二王女と実行犯の五人には厳しい罰を与える事をアグアス王国は約束してくれたが、実行犯の五人の親からは、
「風呂場での一件を聞こうとすると、もじもじして従者さま…従者さま…と繰り返し見てられないのです」
と相談されアグアス国王陛下からは、
「第二王女が、男を見るたびに怯える様になり、メイドに訳を聞かせると、キース殿を罠にハメる前に従者のナッツ殿を行動不能にする予定だったが、襲われて騒いでいたはずのナッツ殿の目付きが変わったと思うと、ナッツ殿にフワリと一撫でされるだけで、稲妻に打たれた様に叫び、のけ反り倒れて行く娘達に恐怖を覚えたらしい…」
と報告された。
『一体ナッツは何をどうしたのだろう?』
と物凄く気になるが、再び掘り返される『秘技』についての質問に、俯きながら小さくなるナッツに聞くのは酷というものなので俺は、
「色々な意味で、男を馬鹿にしていた娘さん達が、男って怖いんだぞ!って解ったから勉強になって良かったでしょ?
世の中に、上には上が居るし、やっちゃ駄目な事も怒らせたら駄目な人間も居るんだと皆さんも理解したならば娘さんの教育をキッチリしなきゃ!!」
と、言って話題をナッツからそらせる事に躍起になっていた。
『もう、ウチの子を虐めないであげて!』
と今回の一件で一番被害を受けたであろうナッツを庇いつつ、王女以下5名は修道施設で数年、淫らな行為で他家に嫁ごうとした自分と向き合う時間を与える事になった。
最悪、ナッツの秘技無しでは満足出来ない体になった5名も、ナッツの修羅のごとき秘技を見てトラウマを負った第二王女も、
『忘却のポーションでももらって再教育』
という最終手段で更生を促すらしい。
罪の意識すら忘れて再び人様に迷惑をかけない事を祈るよ…もう正直早く土地を買って別荘指定して、ナッツをサイラスの町に送ってエリーちゃん成分を補給させてやりたい…
こんなに精神的に弱り切ったナッツは、正直見たことないし見ていられない…
アグアス王国としてのシルフィード王国への謝罪はお任せするとして、最後に俺とナッツへのお詫びの話となったので、俺は、
「フォルの町のカッパス子爵様が、私財を投じて難民を助けております。
元はシルフィード王国とザムドール王国のいざこざで家を失った難民に、カッパス子爵様は大変良くしてくださっています。
私へのお詫びは特に気になさらず出来ればカッパス子爵様の活動にご助力頂ければ幸いです」
と告げて、会議を終わらせようとするがそれでは納得がいかないアグアスの方々は、ナッツに、
「では、ナッツ殿は何を望まれる?」
と聞くが、現実逃避ぎみのナッツは、
「平和な日常で釣りをしながらオランを食べたいですね…」
と、遠い目をしていた。
すると、アグアス国王陛下は、
「承知した。
どこまで出来るか解らないが、アグアス王国を上げて、平和な日常が来るように動く事を約束しよう!」
と宣言された。
アグアス王国の貴族達は、口々に
「聖人様の従者では無く、ナッツ様もまた聖人だ!」
と言っている。
何か欲しい物を聞いて、「平和」と答えたのだ、仕方ないと言えば仕方ない…
ナッツ的には「精神的な平和」の意味だっただろうが…
ただ、ナッツが聖人と呼ばれると、俺の頭の中で、一瞬『性人』と変換されたのは秘密にして墓場まで持っていくつもりだ。
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