第171話 ナッツの秘術とは
サルテの街に入り、再び迎賓館に通されるとシーナさんが駆け寄ってきて、
「良かった」
とだけ呟き俺に抱きついてきた…そして、その隣でセラさんは、
「キース様!もう大変だったんだから!!」
と俺に文句を言ってくる。
聞けば、ナッツが風呂場からなんとか逃げ出し、
「キース様が身の危険を感じて強制転移された」
と凄い格好で報告してきたらしい…ナッツから詳しい話をきけば、貞操の危機だったと聞いてからは、かなりシーナさんが荒れていたらしく、ベントお兄さんに、
「護衛騎士なのに」
と当り散らしたあとは、
「こんな事になるのならば私が…」
などと、それはそれは大変な事になり、大使のアグアスの宰相の息子さんを吊し上げて、
「首謀者を連れて来い!」
となり、大使さんや、城の方々が事実確認に走り回るなかでシルフィード本国から念話通信で連絡が入ったらしい。
それからは実行犯のメイド達が捕まり、即日そのメイドの実家の貴族達が呼び出されたりと朝まで大騒ぎだったそうだ。
俺としては、なんと言って良いのやらコメントに困る。
シーナさんに、
「心配してくれてありがとう」
と言って、ギュッと抱き締めた後で、膝を抱えて部屋のソファーの端っこで小さくなっている相棒に、俺は、
「大丈夫だった?」
と声をかけると、ナッツは、
「私は…汚れた存在なのです…」
と、力無く答えた。
俺は、
『ナッツは汚されちゃったのか…何て声をかけようか?』
と悩みながらも言葉を選び、
「良く逃げ出せたね…ゴメンよ、助ける前に強制転移をヒッキーちゃんが発動させたから…」
とナッツに謝ると、
「キース様が居なくて、ある意味良かったです…」
とポソリと答えるナッツに俺は、首を傾げていると、セラさんがタメ息混じりに、
「キース様、潜入、諜報、暗殺のプロの里の長の子供が、ガキが勢い任せに仕掛けたハニートラップにかかるわけ無いです」
と呆れながら教えてくれたが、俺は、益々何の事やら解らない。
すると、セラさんが、
「襲ってきた五人のメイドを、本家直伝の秘技で足腰立たないぐらいに返り討ちにしたらしいです」
と耳打ちしてくれたのだが、一瞬俺は、
『なんと、暴力で女性をボコボコに返り討ちにしたのか?…』
と、ナッツが腕力であの場を切り抜けたと思ったが、セラさんが最後に耳元で、
「勿論、いやらしい秘技です」
と言ったとたんに、やはりナッツは闇の世界の住人でハニートラップすらかける側の、本格的な暗殺一家なのだと感じて背筋に冷たい物が流れた。
『どんな技なの?』
と聞きたい気持ちは凄く…いや、モノ凄くあるが、落ち込んでいる相棒に、それを聞くなど可哀想すぎる…
あの時風呂場での
「エリーちゃんゴメンね。」
という、セリフは暗殺技術の1つ、それもいやらしい技でこの場を切り抜ける事になった事に対しての謝罪だったのだろう…
確かに五人の女性を怪我無く制圧することは出来たが、ナッツはエリーさんへの裏切りの気持ちから凹みまくっている。
俺は、
「あれは…事故だよ…勿論、アグアスの国にはキッチリ謝罪してもらうが、ナッツは何も悩む事は無いよ」
と言って、小さくなっているナッツの肩をポンポンと叩いた。
それからは別室で、シルフィード王国からの指示書を文官さんに渡して、今回の件の落としどころ決めるのだが、議題としてはお妃様が滅茶苦茶怒っていて実行犯人の第二王女と手下の貴族令嬢の処分に厳しいモノを提示し、
『アグアスの貴族や王家が娘可愛さに減刑を求めた場合は、アグアスからの塩の買い付けをイグノ王国からの岩塩に切り替えて、新たにシルフィード王国内で出された特許をアグアスで使用する事を向こう十年は禁止する様に敵対国指定をしても構いません!』
と書いてある攻撃的な指示書と、ナッツが同時に五人の女性を骨抜きにした技とは…という二点について熱い議論が交わされたが結局、
「とりあえず、明日アグアスの皆様も交えて話し合いをしましょう」
との結論に至りその日の会議はお開きになった。
俺が迎賓館に来て初めてしっかりとした食事にありついたのはその日の夕方だった。
昼も会議をしながらパンをかじりスープを飲む程度であり、議題が議題だったので昼飯の味など覚えていない…
なので、迎賓館の食堂で頂く夕食に改めて『海の近くに来たのだな』と感じる。
アクアパッツァの様なものや、焼き魚に、塩茹での貝など、俺にとっては少し懐かしい磯の味が並んでいる。
そして、昼のスープでも少し感じたが夕食でその違和感にも似た何かに気がついたのだ。
出汁の味がすると…
やっと聖人様にちゃんとしたアグアス料理が出せると料理人の方々が俺の反応を見るために食堂に来ていたのだが、バッツさんが、
「この隠し味は何ですか?」
と料理人さんに聞いている。
「当ててみて下さい。」
とバッツさんを試している料理人さんの言葉にバッツさんは俺に泣きつき、
「教えてくれないんですよぉ~。」
と泣き言をいっているので、俺は料理人さんに、
「海藻を乾燥したモノで出汁をとってませんか?」
と、昆布出汁の風味を感じて聞いてみるのだが料理人さんは一瞬ギョッと驚いた後で、
「聖人様はアグアスに来た事が有りましたか、驚かそうと周りの方々にも隠し味の話はしておりませんでしたが…」
と残念そうにしていたので、知っているのは前世が理由とは言えない俺は、
「書物で少々…食すのは初めてですので説明をお願いしても?」
とお願いすると、料理人さんは自慢気に海の幸の話をしてくれた。
そして、料理人さんはオドロオドロしくイカやタコを食べる話をしてそれを聞いたバッツさんが、
「そんなモノまで食べるんッスか?」
などと言って怯えているのだが、しかし、俺としては、タコもイカもこの世界にある事がわかり、
『たこ焼き食いたいなぁ』
とか
『イカ焼きも出来る!』
等と興奮していた。
早くゴタゴタを終わらせて海産物を求めて街ブラしたいよ…
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