第170話 緊急転移の異常事態


とりあえず自室に戻り服を着た後で、


「どうしようか?」


と呟いていると、鎧を身につけたヒッキーちゃんが投影クリスタルに映しだされ、


「戦争じゃい!」


と騒いでいるし、既に俺が村に戻って居るので、あの後どうなったかも解らず、また、すぐにサルテの街と連絡を取る方法も無い…

とりあえず、あちらはどうなっているのかと気になるが、サルテの隣街で1泊し、その時に教会で祈りを捧げたので、今からダッシュで戻れば午後の謁見に間に合うかも知れないが、


「まずは、シルフィード王国の偉いさん方に報告してからにするかな?」


という事で、セーニャの町に転移してトムさん達と王都に馬車を走らせる。


城は、アグアスに向かった俺が帰って来たと大騒ぎになり、急遽王族の方々のお昼時の食堂に通された。


1つ良かったのは、王子殿下は学校のサマーキャンプ的なイベントで冒険者として他の町に向かっているので、ハニートラップの話がしやすい事ではあるが…国王陛下が、


「キース伯爵…いかがいたした?」


と神妙な顔で聞くので、洗いざらい報告すると怒り出したのは王様では無くてお妃様だった。


「アグアス担当の念話師を呼びなさい!!」


と叫ぶあまりの勢いに俺が驚いていると、国王陛下は、


「妃の故郷なのだよ、アグアスは…」


と、こっそり教えてくれた。


カンカンに怒ったお妃様は念話師と呼ばれる通信系のスキル持ちの方を呼びつけて、何やら


「弟に繋いで下さいまし!!」


と言っている。


俺は、国王陛下に、


「アグアスに帰ってた方が良いですか?」


と聞くと、


「アグアスとの話し合いが終わるまでゆっくりしてくれないか?

一緒に行った婚約者が気になると思うが…すまんな。」


と国王陛下がタメ息を漏らしていた。


結局、俺はセーニャの別荘で待機となり、帰りにユーノス辺境伯様の王都の屋敷に寄って、留守番のエルグ様に簡単な事情を説明すると大爆笑された…エルグ様は腹を抱えながら、


「それは大変でしたね、父上にはこちらから話しておくから今日はゆっくり休むといいよ」


と、言われて少し不本意だが話に尾ひれが付かない事を祈りつつセーニャの町に戻った。


ここで俺が、気を付けなければならないのはこちらで大小問わずに教会に出向かない事で、最後に行ったアグアス側の教会に転移出来る機能でサルテの街にすぐに行ける様にしておくのみだ。


セーニャの安全な別荘で温泉に浸かり、別荘のベテランメイドさんに、


「アグアスのお城のメイドさんみたいに、私達もお背中を流し流しましょうか?」


と軽めに弄られ、


「勘弁してください。

あれは、お背中なんてモノでは有りませんでしたよ…ナッツが餌食になったのを残して妖精のヒッキーちゃんが危険を感じて転移させた程ですから…」


と伝えると、


「あらあら、まぁまぁ」


と、焚き口の所で複数名の楽しそうに話す声がする…

ベテランメイドさんが、


「噂で聞くアレですわね…」


とか、


「昔、本で読んだあの物語では、政略結婚の口実に湯殿で…キャッ!」


などと、娯楽の少ない別荘の従業員達のいい話のネタにされながら、俺はのんびりと過ごした。


翌日の朝に、宰相様がセーニャの別荘にやってきて、


「これは一緒に行った文官に、こちらは、抗議文ですのでアグアス王家に…」


などと何通かの書簡を渡されて、一応、投影クリスタルで俺が見た映像を見て貰うと、宰相様は映像の中でヌルヌル祭りをしているナッツの向こうで、腕組みをしながら状況を見ているフンドシ姿の女性を確認して、


「第二王女殿下ですね…」


と呆れていた。


既にアグアス王家でも主犯が捕まり、俺の帰りを待つばかりらしいので、気は乗らないがサルテの街の隣街の教会に、いつもの三倍の転移ヒッキーポイントを払い転移して三柱の神の像に、


「無事に転移できました。」


と感謝の祈りを捧げてから、神官さんの案内で外に出ると、何台もの馬車が並び貴族の方々が頭を下げている。


「な、何事?」


と慌てる俺にズラリと並ぶ貴族達は、深々と頭を下げなおして、


「ひとまず、城までお願い致します。」


と言って馬車へと案内される。


移動中の馬車で改めて中心に居た貴族の方が、


「この度は国賓としてお招きした聖人様に我が娘が大変な失礼を…

申し遅れました。

私、この国を治めております、ブルーシール・フォン・アグアスと申します。」


と紹介を受けた。


『うへっ!王様かよ…』


と思いながらも、王様とその隣に座る宰相様から話を聞くと、あの風呂に雪崩れ込んだお嬢さん達はアグアスの貴族の次女や三女が花嫁修業も兼ねてメイドをしていたらしく、姉にライバル心を燃やす第二王女様の提案で、


「聖人様やその従者を虜にすれば下手な貴族に嫁ぐよりも良いのでは?」


との企みから結託して、最終的には俺と第二王女が大変な状態の時に、有ること無いこと騒ぎ立てて、俺に責任をとらせるというなんとも迷惑な作戦だったらしい。


どうやら、お姉さんの第一王女がイグノ王国の第一王子に嫁ぐのが妹的には悔しくてなんとか見返せる相手を探していたのだが、シルフィード王国のアルサード王子殿下には、見向きもされず焦っていた時に新たに聖人に認定された辺境伯の扱いをうける伯爵という特別扱いの人間が現れたのでこれはチャンスだと姫が暴走したらしいが…


『正直知らんがな!』


理由はどうあれ、俺を罠にハメようとしただけだよね?と、少し冷ややかな視線でアグアス国王陛下を見つめると、アグアス国王は滝の様な汗を流しはじめて頭を下げ続ける。


俺はカバンから書簡を渡して、


「とりあえず、シルフィード王国よりの書簡です。

読んで頂いた後にどうされるかを話し合いましょう…

先に仲間に会って安心させたいので、国としての話し合いは明日にして下さい。

こちらとしても先に話し合う内容が出来ましたので…」


と、業務的に少し冷たく告げると何が書いて有るかは知らないが、今度は宰相様までダラダラと汗を流しながら書簡に目を通している。


なぜ面倒臭いイベントが舞い込むのか…これも神様の仕業ならば少しお手柔らかに願いたい…



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