第168話 愛・おぼえていますか?
カッパスさん達にゴブリンの処理は任せる事にした。
解体して食べる事も無ければ使える素材が有るのかも解らないし、魔石が有る他は、右耳を削ぎとり冒険者ギルドに提出すると幾らかお金が貰えるらしいが、それも難民救済にまわして貰う為にカッパスさん達に丸投げ…いや、手柄を渡したのだが、
その、ゴブリン掃討作戦で保護した女性は24名で、シルフィードかザムドールから第三国のアグアス王国を目指して避難してきた人達だった。
今朝拐われて連れて来られたばかりの十名ほどは大丈夫だったが坑道の奥から救出された女性達は、ゴブリンを孕んでいたり、逃げ出そうとして手足の筋を断たれたり、中には既に心を壊しており感情が無い女性もいた。
彼女達は教会と冒険者ギルドの経営する療養所に収容され、心と体の回復を目指す事になるらしいのだが、社会復帰出来るかどうかは本人次第ではあるらしいのだが、多くの場合はあまり人と関わらなくても生きていける大きな教会の下働きや、人里離れた修道院で同じ様な境遇の女性と肩を寄せ合い暮らすことも珍しくないとの事だった。
なんとも、後口の悪い事この上ない…
そんな中で少し明るいニュースは、数ヶ月前からゴブリンに捕まっていた女性…
例のゴブリン騎士の装備していたレイピアの持ち主の女性騎士さんだが、あの最悪な状況の中でも心を折らずに耐え抜いて本日助け出された時にバッツさんに恋をしたらしく涙ながらに、
「絶対私の王子様が助けに来てくれると信じていました。
こんな汚れた女ですが、あなたを好きでいてかまいませんか?」
と、お願いされバッツさんは、
「嬉しいッスけど、貴方はまずは怪我を直して、こんな糞みたいな生活はキレイさっぱり忘れるほうが良い。
教会には忘却のポーションってのがあるらしいから安心してください。
俺も貴方みたいに気合いの入った女性は嫌いじゃないから、元気になったらデートでもして欲しいけど…全部忘れちまうから仕方ないかな?…」
と言うと、女騎士さんは忘却のポーションなんか飲まないと言い出し大騒ぎになり、結局は農園の村役場に招待して、
女騎士さんの今の気持ちを小型ガーディアンに向けて熱く語って貰い記録しておいた。
彼女の怪我が癒えて心に余裕が出来たなら彼女から未来の彼女に宛てた伝言を見せると約束し、彼女は治療の為に他の町の療養所へと送られた。
バッツさんは、
「気の毒なお嬢さんだけど、心の強い女性でしたね…
忘却のポーションで気の毒な記憶は全部忘れて欲しい…かな?たとえ私がモテたという事ごとでも…」
と少し寂しそうに彼女達が乗る馬車を見送っていた。
確かに忘却のポーションでも全てキレイさっぱり忘れる事が出来ずに闇を抱えて、男性や子供それに暗闇などを恐れ心に傷を抱えたままの女性も多くいるらしいく、中には忘れてなおなぜ忘れたのかの答えにたどり着いて傷つく女性もいる。
バッツさんは、彼女がトラウマなく元気に生活出来るならば身を引くつもりなのだろう…初めてモテたらしいのに…
バッツさんには少しトゲが残る形となってしまったが、この一件はとりあえず落着しジャルダン村の助っ人を送り返し、ヒッキーちゃんに、
「親方達に熟成倉庫の秘蔵の一樽を出してあげて」
と伝え、あえて酒盛りには参加せずに旅路を急ぐ事にした。
なぜなら、こんな日に酒など飲めばバッツさんが深酒をして、あの日の様に翌日には夜のキノコ狩り疑惑や、二日酔いで、飲んで飲まれて戻して吐いて…それは大変な事になりそうだからだ。
俺達はフォルの町を出発して次の町の宿屋の酒場で軽いお疲れ様会を開いたのだが、バッツさんはやはりいつもの様な元気は無く、飲んだ勢いで、
「私は、自分のスキルが憎い。
彼女を助けだした時の、神に祈り続けてやっと救われたあの瞬間の笑顔を細部まで思い出せる記録というスキルですが、彼女の記憶が無くなりあの笑顔が再び私に向く事など無いかと思うと…」
などと言っていると、ダイムラー家の次男坊のベントお兄ちゃんが、バッツさんの背中を「バシン」と叩き、
「バッツ殿、何を弱気な!
記憶など無くても関係ない、そもそも出会って半日の思い出など、あのお嬢さんが元気になってから、一から始めれば良いだけだ!
なぁ、トーラス殿!!」
と、バッツさんの上司ポジションのトーラス様まで巻き込み酒を飲んでいる。
あぁ、ダイムラー伯爵様の息子っぽいな…などと思いながら眺めていると、ベント様は、
「ダイムラー家の教えだが、惚れた相手には押して押して、押し倒したそのあとは、そっと尻に敷かれていればこの世は平和になるらしいぞ」
と笑っていた。
参考になるのか、ならないのか解らない教えだな…と端から思いながらあえて、俺はあの輪の中に入るのは避けて過ごした。
翌朝、アグアスの大使の方に、
「すみませんね…護衛騎士隊の全員、昨夜少し飲みまして」
と俺が謝ると大使さんは、
「ゴブリン討伐の慰労ですし、聖ジャルダン伯爵様はゴブリンキングでも倒す程の猛者ですので、道中の魔物等に手こずる事は無いかと思いますので…
しかし、護衛騎士隊が必要だったかいささか疑問ですね…」
と少し呆れている様にも見えた。
そこから約1ヶ月半、特に事件も無く旅は進み、潮風香るアグアス王国の王都サルテに到着した。
道中の教会にチョイチョイ寄ってはお祈りをして居たが、結局、強制転移も使わなかったので各地の教会に聖人がやってきて、教会にお布施をして行くというよく解らないイベントを繰り返しただけだった。
まぁ、ヤバくなったらトンズラ出来る機能は有るが、仲間を置いて逃げる事などマズは無いだろう。
さて、このサルテの街ですることは、王家への聖人としての挨拶と戦争難民が流れた事へのお詫びと、あとは、アグアスの教会に顔を出して全てが終われば、ようやく街を巡り食材を探してから可能ならば別荘を購入する。
以上が済めば、一旦村に戻り冬越しの準備をして、来年の春にはイグノ王国を経由して聖都に訪問する予定であるが、もしも戦争が終わっていたらザムドール王国にも寄って、諸国漫遊の旅を終わらせたいがそう簡単にはいかないだろうな…と思いながら、馬車から見える市場の新鮮な海産物を眺めて、
「王様に挨拶とかよりも先に鮮魚が食べたいなぁ~」
と呟く俺だった。
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