第166話 望んでいない襲撃者


農園を作っているうちに日が暮れてカッパスさんのご好意で屋敷にて一晩泊めて頂いた。


翌朝には朝食までご馳走になり旅立つ為にフォルの町の入り口辺りで馬車に乗り込もうとしていると、門の外から、


「お願いでございます。お助け下さい!」


と、悲痛な声で訴える男の子がいた。


カッパスさんが部下に指示を出して話を聞かせに行くとすぐに配下の兵士が、


「申し上げます、明け方ゴブリンが難民集落の端に現れ、難民を数名連れ去ったとの事であります」


と報告した。


カッパスさんは考える間もなく、


「兵を集めよ!」


と指示を出して、俺達に、


「お見送りの途中で申し訳ございませんが、道中お気をつけて」


と言ってゴブリンの対処に向かおうとするので、俺は、


「ちょ、ちょ、カッパスさん…つれないなぁ~

お互い名前で呼び会うと決めた仲でしょ?…少しは頼ってよ。」


と言って馬車に乗るのを止めて難民の奪還に参加する事を提案すると、カッパスさんは、


「いや、いや、聖人様を危険な目にはあわせられませんので…」


というので、俺は、


「この時間が勿体ない!

俺だってBランク冒険者だし、シルフィード王国辺境伯軍のから集まった騎士の仲間も居ますから少しは役に立つハズです」


と言って、ベントお兄ちゃんに、


義理の兄あにうえイケますよね?」


と聞くと、


「無論!しかし、俺より妹のシーナが殺気立っているぞ、キース君。」


と教えてくれて、ベント様の言葉で、シーナさんを見るといつの間にか報告にきた男の子から話を聞いて、「母と姉が連れ去られた」と聞いたらしく、


「時間が有りません」


と言って馬車で自分の装備を着けはじめている。


カッパスさんは、


「キースさん…すみません。

正直助かります…フォルの町はアグアス王国の外れにあり冒険者も少なく、兵士も壁内外の人間の数に対して足りていないのが現状です」


と頭を下げた後で、


「私も装備を整えて参ります。」


と言って、カッパスさんは屋敷に走って行った。


俺達も装備を整えていると、


『こちらは準備できたよ』


と、ヒッキーちゃんの声が頭に直接響いたので、俺が、


「こっちとは?」


と聞くと、ヒッキーちゃんが、


「助っ人をフォルの農園に送ったから!」


というので農園に向かうと、

バーバラさんとサーラちゃんの魔法使い師弟コンビをはじめ、ジャルダン村のフルアーマー村人達約二十名と荷馬車三台がヒッキーちゃんの手により送り込まれていた。


先頭のガルさんが、


「聞いたぜ、キースの旦那!

ゴブリンの野郎に拐われた人を助けるんだろ?助太刀に来たぜ!」


と言っている。


他の村人達も、普段の職人や農家の雰囲気ではなく冒険者としての姿で、


「日頃の闘技場での成果をみせてやろう!」


と、ボウガンを掲げている。


ナッツの元に駆け寄った三人の弟子の冒険者の中からロイド君が、


「村長に師匠!索敵は僕らに任せて下さい。」


と名乗り出てくれた。


こうして、カッパスさんの軍約100名と、俺達と護衛騎士に追加のジャルダン村の住人の連合チーム約50名で、襲われた難民村の端から足跡等の痕跡をたどり川の上流を目指す事になった。


カッパスさんは出発前に、


「何処にこれ程の兵士が?

昨晩お泊まり頂いた人数を遥かに越えておりますが?」


と言っていたので、俺は、


「ウチの村人が駆けつけてくれました」


とだけいうと、カッパスさんは、


「キースさんは神様が人々を助ける為に天界より遣わされた使徒様でしょうか?」


と言っていた。


どう言って否定しようか悩んでいるとサーラちゃんが現れて、


「おっちゃん。村長は村の外ではへっぽこで村で寝てると無敵だけど心配ないよ。

村長は誰か助ける時は最強だから!」


と、禅問答の様な俺の紹介をカッパスさんに伝えてくれて、なんか有耶無耶のまま「らしいです…」と俺がまとめて、フォルの町から荷馬車に分乗して出発したのだった。


しばらく荷馬車に揺られ川の上流に有る森に到着しすると、ロイド君が


「魔物の反応あり、森の奥北の方向に150メートル程で数は不明ですが多数なのは確実です」


と、報告してくれた。


森中に馬車で突入する事は出来ないので、ここからは徒歩にての進軍になるが、カッパスさんの兵士達にも見劣りしない動きの村人達が森に展開しながら、じわりじわりとロイド君が感知した敵のアジトへ向かい包囲網を縮めていく。


見張りのゴブリンが数匹で森をうろつくが、カッパスさんの兵士が構えるより早く村人がボウガンで倒していき警戒音すら出させる間も与えない。


そして、斥候スキルを持つロイド君が、


「到着しました。」


と報告してくれた場所は、数件の朽ちかけた建物と、その奥に坑道の様に入り口が補強された洞窟が口を開けた村であったのだが、ただし、その村の住人は、緑の肌で「グゲグゲ」と鳴くゴブリンだったのだ。


俺はカッパスさんに、


「ここは?」


と聞くとカッパスさんは、


「すみません、私が子供の頃には廃鉱になっていた鉱山跡です。

マズいな…手前の村部分でも百近いゴブリンがいる…クソっ私がもっとしっかりしていれば…」


と苦い顔をしている。


それもそのはずで、村の中庭辺りにはただでさえ小さなゴブリンより小さな子供のゴブリンが走り回っているのだ。


オスしか居ないゴブリンに子供がいるという時点で、この村には苗床にされた何かしらが居る事を示している。

何処かのメス家畜を連れ去って増えたのならばまだいいが、今朝も女性を拐ったと聞いた為にあっという間にろくでもない答えにたどり着いてしまう…

そう、この村には拐われた女性が居てこの数になるまでゴブリン達の苗床にされていると言う反吐が出そうな答えに…


俺は、


「ロイド君!人間の反応が有るところを探して!」


と指示を出すと、ロイド君は、


「村長、右端の建物と洞窟の内部に複数です…すみません数までは正確には無理ですがそれ以外の建物には人居ません!」


との報告を聞くと怒りに燃えているシーナさんは、


「右の建物はセラさんとナッツさんがメインで人質の解放を!

婆やとサーラちゃんはもう、建物ごと殺っちゃって。

皆さん、弓を持ったり変な行動をする上位種から狙い射ちします。

あと、ベントお兄様は坑道の入り口を制圧して中から出てくるゴブリンを押し返して下さい!

キース様、奴らに望まぬ襲撃者が来たと解らせに行きますわよ!!」


と言って、俺の手を引きベントお兄ちゃんと一緒に敵陣のど真ん中へと走りだした。


カッパスさんが


「えっ、えっ?!」


と焦る中で、


バーバラさんとサーラちゃんにより炎魔法の火柱が上がり、隊列を組んだ村人のボウガンによる波状攻撃がゴブリン達を襲う。


ゴブリンアーチャーやゴブリンキャスターといった遠距離攻撃をするゴブリンはボウガンやサーラちゃんの遠距離魔法の餌食になり、


ナッツとセラさんのコンビがスルリと、急な襲撃にバタバタするゴブリンをよそに右手の建物に侵入し、右手の建物の周りで右往左往するゴブリンは、ナッツの弟子の三人が蹴散らしている。


俺達が坑道の前に布陣する頃にようやくカッパスさんが、


「はっ!、遅れを取った…我らも行くぞ!!」


と、村に雪崩れ込み、残党を倒したり、ナッツ達が保護した女性を守ってくれたりしている。


ジャルダン村の住人達とカッパスさんの兵士は鉱山の村を制圧して、坑道の入り口の俺達と合流してくれたが、相変わらず坑道からはゴブリンが次から次に湧いてくる。


「くそ!どれだけ出てくるんだよ!!」


とボヤきながら俺はシーナさんと並び剣を振り続けた。


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