第165話 他国に作る別荘という名の農園


シルフィード大金貨で百枚、約一億円分の金貨でフォルの町の壁の外ではあるが300メートル × 300メートルの土地を購入した。


フォルの町の入り口を東西に流れる川の西側は難民集落になっているので、東側を9ヘクタール分購入となったのだが、カッパス様は、


「どうせ、使っていない土地なのでこんなには…」


と、金貨を前に申し訳なさそうに言っていたが、俺が、


「全く足りないと思いますが、難民の救済に回して下さい。

本当ならばもっとお渡ししたいのですが…」


と伝えると恐縮しながらも受け取ってくれた。


俺としては、これで正式にアグアス王国に別荘指定が出来る土地を手にいれたので、脳内でサブマスターのヒッキーちゃんに現在のヒッキーポイントを確認すると、


『ベッキーちゃんの嫁化ポイントを抜いて、4566有ります。

最悪、ベッキーちゃんの一万ポイントも使えますよ』


と教えてくれた。


サブマスター機能で敷地外でもヒッキーちゃんにのみだが調べものも頼めるので大変便利である。


早速、護衛騎士隊の皆さんと現地を見にいくとパッと見は湿地で利用は難しいそうな土地であった。


護衛騎士隊長になってくれているダイムラー家の次男ベントお兄様が、


「キース君…これは、なんとも…

カッパス様が大金貨百枚を貰いすぎというのも解ります…」


と呟くので、俺は、


「ご心配は要りません。

このぐらい、二~三日も有れば畑に変えて見せます。」


というと、ベントお兄様は、


「その調子で甥っ子か姪っ子を作ってやって欲しいのだが…」


というので、俺は、


「自分…不器用なもので…」


とだけ伝えて、シーナさんをチラリと見ると彼女は真っ赤な顔で俺を見つめていた。


実の兄からの一言で恥ずかしくなったのだろうが、鏡が無いので解らないが、俺も多分だが真っ赤になっていたなかもしれない…

恥ずかしさを隠す様に俺は別荘指定などの作業にとりかかる。


頭の中に響く、


『別荘指定可能な土地を確認しました。別荘指定を行いますか?』


の機械音声に「イエス!」と返事をすると、


『マスター、別荘指定完了しました。

いつでもマスタールームを使用できます』


と、久々のベッキーさんの声が頭に響き、俺はナッツに、


「簡単な壁なら作れそうだし、マスタールームで作業するから何か有ったら起こしてね」


とお願いして、フォルの町の前を流れる敷地の端の川の土手で腰を下ろしてマスタールームに意識を飛ばす。


やるべき事は4つ、

まず、あまりポイントをかけない様に低い壁で済む様に敷地の南を東西に流れる川から堀を巡らして、堀と壁で野生の魔物の侵入を防ぐ。


続いて、ぬかるんだ中の土地に資材倉庫経由で土を入れて、土手の高さまで盛り土し、最後に腐葉土を入れて耕作地にする。


3つ目は、

区画整理と道等の整備と、それが出来たら村役場を移築し農園事務所とする。


あと最後に村から数名農園職員を任命して、明日以降に井戸堀りや畑作業のアルバイトを難民キャンプから雇って農園の運営をしていく予定だ。


整地と壁で6000ポイント足らずなので、ベッキーさんの嫁化ポイントから借金という形で2000ヒッキーポイント程借りて、その日のうちに全てをこなした。


途中から、あまりにも帰って来ない俺達を心配した大使さんやカッパス様が工事現場に現れたが、まさか、ウニョウニョと石壁生成されていると思わなかった様で前にニンファで似たような光景を見た大使さん達は納得するだけだったが、カッパス様はチビらないか心配になる程に騒いでいる。


なので俺は一旦工事はベッキーさんとヒッキーちゃんに任せてマスタールームから戻りカッパス様達には俺から説明をした程であった。


三時間程で湿地は埋め立て地となり、ジャルダン村の村役場が移築され、現在はジャルダン村から三名がこの農園の臨時担当として引っ越し作業の真っ最中である。


厩舎には農耕馬として、バーンの子供が派遣されたのだが、この子はバーンと大工のハリーさん達が引っ越しの為に乗ってきた馬車用の馬の間に生まれたオス馬である。


『バーンは本当に…仕事が早いというか…なんというか…モテるから…』


村ではいつの間にか『ジュニア』と呼ばれていた子馬であるが、流石はバーンの血を引く馬の為、既に普通の馬魔物より大きくて立派に農耕馬として働いてくれそうだ。


それから俺達は、早速フォルの町の西側の難民町に出向き、門の扉を作れる大工さんと井戸堀の為の力持ちを日雇いで集めて農園の準備とアルバイトでの難民雇用を開始した。


カッパス様はまだ呆けているようで、


「カッパス様、カッパス様!?」


と俺が、声をかけるとようやく我にかえったカッパス様は、


「こ、ここ、ここ…」


と詰まりながら何かを聞いてくるが、俺はそのコココっで、


「そうだ、卵鳥ファームも作れば難民の子供達もお手伝いに雇えるな」


とひらめき、農園担当の三人に、鳥小屋の建設と柵の設置の為の大工さんの募集も追加しておいた。


そして、カッパス様がようやく通常営業になったのは粗方片付いた夕方頃であった。


「ジャルダン伯爵様…いや、聖ジャルダン伯爵様。」


と畏まるカッパスさんに、俺は、


「やめて下さいカッパス様、その仰々しい名前は…キースと気軽にお願いします。」


とお願いしするが、カッパス様は、


「ならば私などオイ!ぐらいで丁度ですので…」


などと話が進まない…

結局、「キースさん」「カッパスさん」と呼び会うと決めて、ようやくこれからの話が出来る事になった。


カッパスさん達と移築させた村役場で会議をして、この農園は共同運営という形で、カッパス様からの推薦枠の一名と、ウチからのジャルダン商会の職員として一人派遣し、難民村からも一人採用し、カッパスさんは作物の売却で少しではあるが税金が入りフォルの町が潤い難民救済用の資金が入る。


難民達はアルバイト先が出来て生活を立て直す事が出来るし、流通する作物が増えて、安価で食糧が手に入る様にする。


という流れにする予定になったのだが、カッパスさんが、


「それでは、キースさんが旨味がないでは無いですか?!」


というが旨味は十分ある。


他国と仲良く出来る拠点と、難民の半分は元ザムドール王国の住人であり、戦争を終わらす為の足掛かりになるかもしれないという期待値だけでやる価値はあるのだ。


当面はウチのジャルダン村の三人が、アルバイトの管理とアルバイトへの炊き出し、それに農園の会計を担当するが、徐々に現地採用のメンバーにバトンタッチしていく予定で、可能な限りカッパスさんの町で普通に暮らせる難民を増やし、税収を上げていき、カッパスさんは町を整備して一人でも多くの難民を受け入れることが出来る様に頑張ってくれる事になった。


時間はかかるが、今年の冬迄に千人近い難民の方々が飢えない程度にはトウモロコシや、じゃがいもが実るだろう。


何か有ればベッキーさんも定期的に監視してくれるし、俺に報告が入る事になっているから安心してアグアスの王都を目指す事が出来そうだ…

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