第164話 いざ、東の国へ
5月に入りいよいよ旅立ちとなった。
結局、俺とナッツとシーナさんとセラさんの4人で他国を巡る事にした。
勿論愛馬のバーンも一緒であるが、今回の旅のメンバーを少数にしたのは、俺の護衛として国王陛下の手配で護衛騎士隊が編成されて、外交も兼ねて宰相様の部下や道案内の大使の方々と、なかなかの大所帯となり下手に護衛対象を増やすのも悪いからである。
ただ、急遽結成された護衛騎士隊に見たことのある顔ぶれがチラホラと見受けられる。
護衛騎士隊長はダイムラー家の次男のベントさんで、10人の騎士隊員にジョルジュ様の次男トーラスさんとその部下のバッツさんもいる。
多分他の騎士隊員もユーノス辺境伯派閥の貴族家の配下の方々だろう。
勿論大使の方も宰相様の部下の方々も護衛はそれぞれついているので、30人ほどの大所帯は、王都クレストから先ずは東の位置にあるアグアス王国を目指す事になり、片道2ヶ月あまりの長旅の予定である。
何故アグアス王国からの訪問かというと、シルフィード王国の塩の供給の多くは海に面した土地が多いアグアス王国に頼っている事と、アグアス王国はシルフィード王国とザムドール王国、両国と国境を面しており、ここ数年の戦争で町を追われた難民が多く第三国のアグアスへと流れてしまっている為である。
つまり、国王陛下としては、その詫びも兼ねて真っ先に聖人を派遣した形にしたいらしいく宰相様からも、
「くれぐれも頼みました」
と頭を下げられた。
今から向かうアグアスは、商業と魔道具に力を入れている国で、塩の安定した利益をベースに錬金術師達が作る魔道具などがメインの産業で、他国でも使われている魔石ランプなど多くの特許なども国として保有している錬金術師の国としても有名である。
海水からの塩の生成も何かの魔道具を使っているらしいが、国としての極秘事項なのだそうだが、海に面していないシルフィード王国…というか俺の村などには関係の無い技術なので全く興味は無い…
アグアスの大使さんからは、
「ステンドグラスも聖人様方から錬金術師が習ったと聞いております。
是非、我々にも知恵をお与え下さい。」
と言っていたが、俺の知識に使える技術が有れば良いのだが…と、若干不安なまま旅が始まってしまった。
国内で有れば街道に村や町が点在しているが、流石に国外に向かう道は、国境の関所を抜けると暫くは道すら怪しく、荷馬車の轍が一番の道標な位であり石碑や看板がたまにアグアスへ向かっている事を教えてくれる程度だった。
アグアスに入って数日、初めて町が現れたのだが当初のナナムルの様にテント村と言うのか、バラック集落の様な場所が町の外に広がっていた。
正直、数千人規模の町には厳しい量の難民の数が集まっている様に見受けられ、一旦町に入り領主の方に挨拶をする為に門の側まで行くと、精気の失せた目の人々が、黙々と町の外の荒れ地耕し何とか食糧を作ろうとしているのが見える。
「これは何とかせねば…」
と、険しい顔で馬車の外を眺めていると、シーナさんが俺の手にそっと手を置いて、
「キース様の思う様になさいませ」
と一言だけ俺に語りかけ、俺の気持ちを後押ししてくれた。
アグアスの国境付近の町〈フォル〉に到着した俺達のキャラバンは、大使の方の紹介でこの街の領主である〈カッパス〉子爵様という優しそうなおっちゃんに会うことが出来て、簡単な挨拶の後で話を聞けば、この領主様は難民を積極的に受け入れて町の外だが居住を認めてくれ、冬だけであるが炊き出しまで行い、『何とか戦争が落ち着くまでは…』と、難民の皆を数年に渡り保護してくれていたらしい。
全く関係の無い他国からの難民を私財を使い助けていたなんて…『彼こそ聖人なのでは?』と思いながら、俺が、
「カッパス子爵様は、他国の難民を何故そこまで?」
と聞くと、優しそうな笑顔を少し曇らせ、
「他国と言えど同じ人間、安心して…とまでは言えませんが、住む場所ぐらいは用意してあげたいのですが、なにぶん辺境の子爵家では今の現状が精一杯です。
水が豊富な我が町なので、ギリギリ生きて行ける状態で我慢してもらうばかりで…」
と、悔しそうに語ってくれた。
『なんと、いいひとだ!!こういう人ばかりがお貴族様ならば世界は平和なのに…』
と思いながら、俺は彼を難民救済のアグアス王国側の協力者になって欲しいと願った…
それからは、俺達とアグアス王国の大使さんに、シルフィード王国の文官さんと、カッパス子爵様を交えて政治的なお話になるのだが、話の内容的には簡単で、ウチの資金でこのフォルの町に土地を買って畑などを作り難民の食糧生産とアルバイト先を作り、この町で難民の方々がが暮らせる様に導くのだ。
カッパス子爵様は、
「そのような条件ではジャルダン伯爵様に旨味がないです。
それに、他国の住民を横取りするような…」
と、色々気にしている様なので、俺は、
「カッパス子爵様を頼って集まった人達を大事にするだけです。
横取りなんて滅相もない。
彼らが元の国とアグアス王国と見比べて、決める事でカッパス様が気にする事は何も有りませんし、別に私は旨味が欲しくて協力するのではありませんので、」
と説明すると、カッパス様は、
「流石は、聖人様と宰相様の次男殿が申されていた通りですな…」
と感心している。
俺が、
「宰相様の次男殿?」
と首を傾げていると、アグアスの大使の男性が恥ずかしそうに「はい、」と小さく手を上げている。
『怖い、怖い!もう、先に言ってよぉ~!!
でも良かったぁ、アグアスの悪口とか言わなくて…筒抜け案件じゃないか!…』
と、ドキドキしながらアグアスの大使殿を見つめると大使の男性も凄く気まずそうにしていた…
こうなると、大使の護衛もアグアスの有力貴族なのでは…などと勘ぐってしまい、しばらく気が休まらなかったが、
『べ、別に、アグアスに悪さをしに行くんじゃないんだから…堂々としてればいいじゃん!』
と、自分を納得させるのに時間を要した。
やはり、自分の敷地内ではないのでかなりビビりになっているようで、俺はつくづく根っからの自宅警備員なのだと痛感したのだが、しかし、俺の視界等をマスタールームのモニターで監視出来る様になったサブマスターのヒッキーちゃんに、なぜか、
『マスタービビってるっ!ヘイヘイヘイ♪』
などと、頭の中に直接小学生の様な煽りをかまされて、イラッとしたのが開き直れるきっかけにはなったのだが…
『やり方よ…もっとないかね?ヒッキーちゃん…』
と呆れてしまう俺がいた。
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