第163話 旅のお供はどうしよう?


やると決めた諸国漫遊であるが相談相手の国王陛下と宰相様は、現在は王都を目指す旅の空の下…


そして、たとえ城に戻っても今年も戦争に向けての準備が始まってしまうので1ヶ月半ほどは謁見すらままならないかもしれない。


なので、その前にしなくてはならないのは旅の準備と俺がしばらく留守にしても大丈夫な様に手配をしなければならない。


ロッソさんの今年の新たなパーティーメニューは、ヒッキーちゃんに検索機能を使って再現可能なメニューをピックアップしてもらう事にしたし、パン屋関係はパン職人のブレンダさんに任せてある…

村の事はホークスさんも居るし、町はジーグさんに丸投げでもニンファは大丈夫だろう。


問題は、旅の準備…というか旅のメンバーの選出だが、


『俺とナッツだけで行くべきか…情報収集係としてセラさんも連れていくか?…』


などと考えながらマイホームの自室から居間に出ると、バーバラさんにA子も手伝いシーナさんの部屋で何か作業をしていた。


バーバラさんがシーナさんに、


「シーナお嬢様、行った先でパーティーは勿論、他国の城に出向く事もございます…ドレスは何着ほど?」


と言っているし、シーナさんは、


「バーバラ、あまり荷物を持たなくてもキース様なら別荘が有れば転移が出来ます。

あまりかさばると旅のお邪魔になります。」


と、バーバラさんに話している。


どうやらシーナさんが一緒に来てくれるみたいだが、バーバラさんは詰め込み過ぎた荷物を鞄から出しながら、


「ダイムラー家の皆様からも、早く子供でも授かってしまわないとキース様は出世し過ぎて、ダイムラー家では釣り合わなくなったり他国からの縁談さえ舞い込む可能性も御座います…」


と言っている。


『これは、聞いて良いやつかな?』


などと考えていたのだが、


『聞かないフリをするのも違うかなぁ…』


となった俺はシーナさんの部屋の開け放たれた扉をコンコンっとノックしてから、


「シーナさん…」


と声をかけると、悪いことはしていないはずのシーナさんやバーバラさんに何故かA子まで、ビクっ!と驚き、そーっと入り口付近の俺へと視線を移す。


そしてバーバラさんは、


「キース様、是非お嬢様も旅のお供に!

剣術も使えますしスタミナのスキルも有りますので、お邪魔にはならない筈で御座います。」


と、少し焦りながら俺に話しかけてくるし、A子までウンウンと首を縦に振って相づちをついている。


それは知っている…剣術は俺以上の破壊力のロングソードを軽々と振り回し魔法適性には恵まれなかったがシーナさんはスタミナのスキル持ちで休みなしで戦える何ともダイムラー家の色を濃く引き継ぐ身体能力のお嬢さんなのだ。


初めてのデートで、シーナさんが、


「私、スキルを1つだけ持っていますの…当ててみて下さいまし」


と可愛く聞かれて、


「魅了…とかかな?」


なんて、返した俺だが『スタミナ』のスキルに特技が『剣術』と聞いて、


『よし、全力で尻に敷かれよう!』


と覚悟を決めたのだった。


そんな、少し甘くてしょっぱいみたらし団子のタレのようなデートの思い出を俺が思い返しているその間もシーナさんは心配そうに俺を上目遣いで見つめているので、俺は、


「シーナさん…野宿とか結構大変な旅になるかも知れないけど、一緒に旅してくれますか?」


と、誘うと、シーナさんはパァっと嬉しそうに微笑み、


「はい!」


と、良いお返事をしてくれた。


すると、バーバラさんは聞いてないのに、


「キース様、私はサーラを鍛えてジャルダン伯爵家の魔法師団長にする為に村に残りますので…

あー、忙しい、忙しい!」


と、わざとらしく旅を辞退してしまった。


何か色々と気を遣ってくれたのだろうが、範囲魔法が使えるバーバラさんが来てくれないのは地味に辛いかもしれない…

まぁ、街道を馬車で進むだけなので、そんなに魔法をブッ放つ事もないだろうから、『まぁ良いか…』と納得してその場を離れた。


『シーナさんは一緒に旅に出るとして、後は…ナッツかなぁ?…でも、ナッツも本当はサイラスの冒険者ギルド嬢のエリーちゃんとイチャイチャしていたいだろうし、ウチの家って何か全員家族扱いで、貴族家によくある正式な家来っぽい人材は居ないな…』


と、改めて思う。


こういう時は騎士団や家来の乗った馬車を何台も引き連れてゾロゾロ動くのが普通だろうが、ウチは騎士団も文官団も持っていない…

いや、ほぼ全員がボウガンが扱えてソロで跳ね鹿程度ならば倒せるし、その全員が読み書き計算も出来る上に手に職がある者までいる…

万能な家来だらけと言えば、そうなのかも…

などと考えながらホークスさんに相談に向かうと、ホークスさんがセラさんに、


「セラ、旅先でキース様をお守りしろ!」


と、指示を出している。


セラさんは、少し呆れながら、


「魔物からではなくて、聖人様との婚姻関係を狙う国内外の貴族や大商会の人間からになりそう…

牧場のミリンダさんやシュガーちゃんからも、ナッツお兄ちゃんに悪い虫が近寄らない様に!ってお願いされたし…」


と語っている。


『どうやら長女エリーちゃんとナッツの将来を心配した家族からセラさんに依頼が入ったらしいな…』


などと俺は考えながらも執務室に入るとホークスさんが、


「キース様、丁度良いところへ」


と言って、セラさんの旅への同行を提案してくれた。


俺は、先ほどの話を聞かなかった事にして、


「えっ、それは有難い!

シーナさんの話し相手にもなるし何よりセラさんの情報収集能力は凄く助かるよ。」


と喜んでみせると、セラさんは、


「キース様は、私とシーナ様の二人に監視されて、旅先でモテモテな出来事が起きても楽しめないですよ」


と、俺を試す様な発言をする。


なに!これは下手な事を喋るとシーナさんにまで直通になるな…怖い、怖い…俺が年齢通りのもうすぐ19歳の青年ならば、そんなトラップに引っ掛かり、


「えーっ、そんなぁ~」


みたいな反応をするかもしれないが、フッフッフ、俺は見た目は青年、中身は初老…

一般的な青年ザクとは違うのだよ!…

こんな罠を仕掛ける悪いメイドはパパの目の前で辱しめてやる。


な~に安心しろ、電磁ムチでシバく訳では無い…

ただ、俺を試すとこうなるんだよ~って、ちょっと解らせてやるだけだ…と思いつつ俺は涼しい顔で、


「モテモテ?興味ないなぁ…

俺は、爺ぃになるまでシーナさんにだけモテ続けたいだけだから。

それよりセラさんこそゴメンね…

最近、細工職人のグレイさんとラブラブだったのに…」


と、娘の秘密をパパに報告してやった。


『敷地内で俺に隠し事など出来ないのだ!!』


と言っても、ヒッキーちゃんが暇潰しで二人の鉱石探しデートの後を監視機能でつけて、アメジストを採掘して、それがブレスレットに変わるまでを覗き見していたので知っているだけなのだが…

マスタールームでヒッキーちゃんは袋菓子をつまみながら二人のデートをモニタリングしては、


「イケ!」


とか


「ヘタレ!そこは指輪だろうがっ!!」


などと、かなり楽しんでいたのは秘密にしておこう。


真っ赤になるセラさんと、驚きながら、


「セラ、本当か?」


と聞くホークスさんに、


「では、俺は行きますね。」


とだけ告げて、俺は家族会議の邪魔にならないように執務室を後にした。


結婚式とかも考えないとな…俺も含めてあっちもこっちも…


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