第162話 いっちょやってみるか!


ニンファの町の教会を建てて数日…

見物のテントも少なくなり、新たに整備した公園に近隣の町から噂を聞いた参拝希望者の馬車やテントがまばらに確認出来る程度になった。


しかし、その参拝希望者も入れ替わりで途切れる事が無い…

おかげで公園の端に露店エリアを作り、荷車を改造した屋台でホットドッグや石鹸や髪飾りなどを売っているのだが、ありがたい事に毎日一定の利益をあげている。


急遽作ったユーノスパン本店の建物もパンを焼いて売るよりは、パンを選んで食べれる喫茶店として連日大盛況であるし、ホットドックのソーセージなどをニンファの町から仕入れて帰る商人の方々がおり加工肉チームも潤っておりニンファの町の冒険者や狩人が狩ってきた肉を使いベーコンやハムなどの増産体制を整えている。


しかも、参拝に来ていた大商会からサスペンション式の荷馬車の依頼がニンファの馬車工房に大量に入り町は参拝特需に沸いていた。


早速近隣の教会などから錬金ギルドへとステンドグラスの注文が入ったらしく、例のヒッキー信者の三人を各地に技術指導へと出向く様にと、サイラスの町の錬金ギルドマスターのインタスさんがお願いに来ると三人は、


「知恵の妖精ヒッキー様の偉大さを広めに行って参ります!」


と、不穏な決意表明をして旅に出てしまった。


巫女のチャチャ様達をセーニャの町に送る時に他の国のステンドグラスに興味のある教会関係者の方々に、


「大体の説明はお手元の資料の通りですが、ステンドグラスについて不明な点は、辺境伯領の町サイラスが発祥の地ですので、そこの錬金ギルドに問い合わせて下さい。」


と伝えてあるのでそのうち彼らは他国にも出向き、知恵の聖人としてヒッキー教を布教するかも知れない…なので彼ら錬金術師達が異教徒的な扱いを受けない事を俺は心から祈るしかない。


そして俺は、ここ数日参拝を終えた人々からの口コミでユーノスパン等が広まりだす事を見据えて、各地のパン屋と雑貨屋の開店に力を入れている。


噂の柔らかいパンや精霊印の石鹸が買える場所が増えれば、教会を見に来た人々からの口コミも合わさり爆発的にユーノス辺境伯様の名前も売れるし、派閥に合流したがる貴族が増えれば辺境伯様の影響力が増して、あの軍務卿にも睨みが効く様になるかもしれない…そうなれは戦争すら止める為に動ける未来もあるかも知れなからだ。


『まぁ、そんな貴族的なゴタゴタは偉い方々にお任せしたかったのだが…』


などと呑気に構えていた俺だったのだが、


『何故だ…何故パーティーも終わり、俺の日常に平和が訪れたはずなのに、俺は現在ナナムルのユーノス辺境伯邸で会議の議題にあげられているのだろう…』


と、不安な表情を浮かべながら俺は会議場のテーブルに座っている。


「では、ジャルダン伯爵には他国と教会の両方と繋がりを強くしてもらい、周りからザムドール王国に戦争の停止を働き掛けていただき、我々は国内の派閥をまとめて国王陛下の名のもとに武力以外の決着を目指せる様に動く事にして…」


と、面倒臭い提案をされている。


それもこれも、他国の大使を招いたパーティーが、大成功のうちに終わり辺境伯様が個人的に他国や、その国と繋がりの深い中央の貴族達とパイプが出来て、しかも蒸留酒や石鹸などの辺境派閥のウリの商品をフルで使って、シルフィード王国内でもかなりの存在感を示せる様になった事で例年威張り散らしていた軍務卿達が今年はかなり静かだったからである。


そして、トドメが王都に向かう国王陛下達が、


「帰りにもう一度教会を見たい」


とニンファの町に大使の方々と寄ると、3日しか経っていないのに、町が大きく変化していたのを見て大騒ぎになったそうだ。


ダイムラー伯爵様が、


「キース伯爵を今からでも取り込めないかと、パーティーそっちのけで軍務卿達が話しておったが、

聖人となったので脅しなど今までの手は使えないだろうから困っておったぞ…あまりに興奮していて、夜も客間からワシの所まで声が聞こえてきたのだ…」


などと俺に愉快そうに話してくれた。


俺は、


「難しい貴族の駆け引きは皆様にお任せしたいのですが…」


とゴネたのだが今の俺は辺境伯扱いの伯爵で、しかも、国王陛下が任命した貴族…今まではユーノス辺境伯様に与えられた任命権で選ばれた貴族位と違い、子会社の社員でなくて本社の社員みたいな扱いの上に、派閥のリーダーのユーノス辺境伯様と同じぐらいの権限を持つ特別扱いとなってしまった為に既に派閥の一構成員では無いらしい…

とりあえず俺は当面、国王陛下や宰相様と相談をして各国を巡る旅をしなければならないらしいく、

それに合わせて使わなくなった俺の男爵位をジーグさんに与えてそれにより、余った準男爵位をホークスさんにくれる事になった。


俺が留守の間も村や町の管理は二人がしてくれるし安心では有るのだが…一番の問題は俺が面倒臭い事になってしまうことだ。


しかしマイアを泣かせた軍務卿を追い込むには必要な事なのは解るし、戦争を止めさせるにも外交は必要なのも解る。


他の2つの国と聖都を巡って連係を深めればザムドール王国と話し合いが出来るかもしれないのも理解している…

それをするのに、あと準備する事は出先で俺が始末されない程度に強くならなければ駄目な程度だ。


なんなら、他国で土地を買って商会の品物の新たな仕入先を開拓するのも良いかもしれないな…

などと色々な理由をだして自分を納得させて聖人として諸国漫遊の旅に出る事をむりやり飲み込む事にした…


本当は俺としてはのんびりしたいのだが、最近定着してしまった「居眠りの聖人」の名前を薄める為には各地を巡り動きまくる俺を見せるしか無いのかもしれない…


『いっちょやってみるか!!』

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