第161話 聖人だって人である


大変だった1日が終わり俺はジャルダン村に帰ってきている。


といっても明日もニンファの町にご出勤予定なので、今夜のうちにマスタールームでニンファの町の教会近くに広場と宿屋のエリアと、それを囲む壁を作る為のポイント見積もりを出そうと自分のベッドから意識を飛ばすと、ヒッキーちゃんがモニター前の椅子でだらけている。


俺が、


「ヒッキーちゃん、お疲れ様…

ベッキーさんも大変だったでしょ…朝からほとんど休み無しで拝まれっぱなしだったからね…」


と二人を労うと、ベッキーさんが、


「いえ、それよりマスターにメールが届いております。」


と、報告してくれた。


『おっ、伯爵に出世したからお祝いポイントが入ったかな?』


などと思いつつ、


「了解、ベッキーさん報告ありがとうね。

ベッキーさんも休んでよ、あとは壁生成の見積もりを取るだけだから…」


とベッキーさんに言って俺はメインモニター前に腰かけて見積もり作業の前にメールを確認すると、


『聖人認定と伯爵へのご出世、誠におめでとうございます。

何より教会の完成により多くの祈りが届き、父も母も大変喜んでおりますし、多分ですが母のお腹の赤ちゃんも喜んでいる事と思います。

さて、お祝いポイントなのですが、聖人になった事と、辺境伯扱いの伯爵に出世された分で大変悩みました。

聖人になるのが、成人したのと同じお祝いポイントで良いのか…子爵を飛び越えての伯爵への出世も一回分のお祝いポイントで良いのかと… 』


などと、なかなか長い文が書かれていた。


『あと、もう神様って隠すのやめたのかな?…

ルヴァンシュ様だっけか?

もう、メールのあちらこちらに身バレ要素が…』


と俺は少し呆れながらも読み進めると、神様の家族会議の結果として聖人祝いとして一万ヒッキーポイントに、そして出世祝として5000ヒッキーポイントと、それから平和大使就任祝として5000ヒッキーポイントの合わせて二万ヒッキーポイントが貰える事になったそうだ。


本当ならば、神々への祈りが沢山届けられる場所を作った功績を讃えてもっとおおくのポイントを付与しても良かったらしいのだが、代わりに神様達がとある機能を解放してくれる事になった事が書いてあった。


まずは〈サブマスター設定機能〉で、これは、ナビゲーターの誰かをサブマスターに設定すれば、俺が敷地内に居なくても、滞在ヒッキーポイントが半額入り、しかもサブマスターがヒッキーポイントを使う転移等のコマンドの使用が俺の承認がなくても使用可能となる上に、俺自身も動く敷地扱いで敷地外に居ても敷地内と同じくマスタールームのサブマスターと会話が出来る様になる。


そして、敷地外に居る俺を座標にして配達は出来ないが、俺が直接触っている物のみ敷地内回収機能で保管倉庫に送れる。

しかし、敷地外で回収を使用する時には俺自身の魔力を使って疑似敷地として機能を使う為に魔力切れに注意が必要となるみたいだ。


『敷地の外で魔物を倒した場合とかに使えるかな?…』


などと思うが、しかし罠なしで俺が敷地の外で魔物を狩るイメージがわかない自分が少し情けなくなってしまった。


それからサブマスターによる敷地内転移については、敷地内での転移はこれまで通り使えて、新たな機能としては唯一何処に居ても俺をジャルダン村へと連れ戻す事のみ可能らしく、これらは大使として他国に行かされたてる時など敷地外で緊急事態などが有った場合に必要になる機能だ。


次は聖人としての機能なのか〈最後に立ち寄って祈りを捧げた教会へ敷地内転移が可能となる機能〉で、転移を一度使えば登録が消えるため再び使える様にするにはその教会でもう一度祈りを捧げる必要が有る。


使い方としては緊急離脱してジャルダン村に戻ってもセーブポイントの教会に戻れるし、別荘を買うまで、その町の教会を転移場所に使えるのだが、転移使用時のヒッキーポイントは普通の三倍の計算となるので注意が必要となる。


この2つの機能の解放と合わせてメールの最後に、


『聖都ダリアの教会を目指して下さい。

そこで、貴方のスキルについてのお話を致します。』


と書いて有った。


インドア的なスキルからアウトドアも出来るスキルに出世した様ではあるが、おかげで聖都とやらに行かなければならないらしい。


なおさらニンファの町の守りをガチガチにしてから旅に出る為に壁等の設計図をマスタールームのメインモニターで描く事にした。


しかしベッキーさんの嫁化のポイントとは別にお祝いポイントが二万ヒッキーポイントも入ったので、俺はメインモニターの前で、


『ニンファの教会周辺に公園の整備と壁の配置し、宿屋もニンファの町の居住スペースと同じ様な作りの物を数棟作り、食堂や酒場も中身すかすかの豆腐建築で外側だけ作り後はジーグさんにお任せしよう…』


などと夜遅くまでポイント内で出来る限りの設計図を作り、見積もりを出しては微調整する作業を繰り返し、結局気がつけば朝になってしまった。


体的にはずっとベッドで寝てたので、しっかり休んだのだが、頭はマスタールームで夜通し作業していて、スッキリしないままで俺は少しフラフラしながらも最後にヒッキーちゃんをサブマスターに任命してみるが別に何が変わる訳では無かった。


俺が、ヒッキーちゃんに、


「サブマスターになった感想は?」


と聞くと、


「サブマスターの名を汚さぬように一生懸命頑張ります」


と、どこぞの横綱の口上みたいな台詞を言って頭を下げている。


どうやらサブマスターに任命してもヒッキーちゃんの性能が特に変わる訳ではないのを確認した俺は、マスタールームから出て朝食をシーナさんや皆と食べてからニンファの町にご出勤となった。


ジーグさんに壁の増築計画を話して、昨日より数の少なくなった周辺でキャンプをしている参拝客を誘導してもらい、一旦ニンファの作付け前の畑や教会周辺に移動してもらったのを確認してから、俺はその日のうちに壁生成や敷地内整備の機能で町を広げた。


参拝客は昨日に続き精霊と妖精による奇跡を見れた事に大興奮し、昼過ぎには出来上がった壁を眺めたり、ニンファの職人達が門等を作っているのを見学してから再び教会に並び教会関係者の方々と熱心に神々の木像を祈っていた。


俺は一仕事終わらせて緊張の糸が切れてしまい、少し休憩をしようとしたはずなのに徹夜がたたり教会の裏手で座っていたらそのまま寝てしまったらしい…

ようやく夕方近くに目が覚めると俺の回りに良く解らないパンやブドウ酒などをはじめ色々なお供え物があり何故か額に小銅貨も張り付けて有った。


俺の隣にはニンファの町の神官のになってくれたクリストファーさんが立っていて、


「お目覚めになりましたか。

いやぁ~聖人様の奇跡を見た後で、ステンドグラスの裏手に本物のお昼寝の聖人様が居られたので、大騒ぎになりまして…

しかし、お休み中に起こすのも悪いと思い、このような対応をさせて頂きました」


と教えてくれたのだが…


『恥ずかしい…徹夜なんかするんじゃ無かった…』


と後悔する俺は、まんまと、『お昼寝の聖人様』を沢山の方々に披露する羽目になってしまった事を深く反省しながら起き上がると俺の服のポケットにナナムルの花や、大小様々な銅貨等が入ってパンパンになっているに気がつく…


『おでこの小銅貨もお賽銭かな?』


と思いながら俺はお供え物を全てクリストファーさんに渡して、


「あと、掃除とかお願いします…」


と伝えて逃げる様に村へと帰ってお風呂に入りながら少し泣いたのだった。


徹夜したら眠くなるよ…人間だもの…






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