第160話 呼び方から決めなければ


教会が完成した日の夜、初日の教会の見学会を終了したが昼からの拝観だったので、希望者の半分もこなせなかったらしくあと数日は朝から夕方まで拝観希望者が続きそうである。


なので現在ジーグ様とホークスさんと一緒にニンファの教会を訪ねて、参拝時間や参拝方法等の作戦会議をしようと向かっているのだが、俺は、


「ジーグ様、壁を増設して教会を見に来た人が安全にキャンプとか出来る公園とか作りますか?

街道までの土地の未利用部分がまだ有りますし…」


と、言いながらゴローの照らす魔石ランプの灯りを頼りに教会までの道を進む。


俺の少し後ろを歩くジーグ様は、


「ジャルダン伯爵様…私に(様)は不要です。」


と、急にヨソヨソしい対応に、俺は、


「なんで?」


とだけ聞くと、ジーグ様は、


「私は準男爵で、ジャルダン様は伯爵…しかも、辺境伯の任命するモノではなく、国王陛下からの任命…つまり、中央の伯爵様でございます。

そして、聖人となると…」


と、色々と理由を並べるので、

俺は、後ろを歩くホークスさんに、


「ねぇ、伯爵って偉いの?

ダイムラー伯爵様は気さくに準男爵の俺と模擬戦とかしてたけど…」


と聞くのだが、ホークスさんは、


「ダイムラー将軍は…何と言いましょうか、少々特別ではありますが基本的に伯爵と準男爵では下手をすると相手をして貰えない場合も有ります。

しかも、キース様は『辺境伯に準ずる』と国王陛下も仰っていたので、位としては侯爵とほぼ同等であり一部の権限においては侯爵以上のモノまで有ります」


と教えてくれたのだが、俺は歩きながら考えて、


「うーん、ダイムラー伯爵様が特別気さくならば、義父ぱぱの真似をして、ジャルダン伯爵家も特別でよろしく。

ジーグ様は、俺の敷地のニンファの町の管理と、ここにいる皆を守る仕事をしているんだ。

ウチの家族とも言うべき住人を任せられる人間は尊敬の意味も込めて『様』ってつけるよ。

あっ、そしたら今からホークス様って呼ぶね。」


と笑いながら答えると、ホークスさんは、


「キース様!そんな事をされては外部で仕事がやり難いです。

呼び捨てでも構いません」


と異議を申し立てるし、ジーグ様が、


「では、ホークス先生と同じく『さん』とかで許して頂けないでしょうか?」


とお願いしてきたので、


俺は、


「了解、ところで、ジーグお兄ちゃん。」


と前に本人がそう呼ばそうとしていたのを思い出して『お兄ちゃん』呼びをすると、少しタメ息をもらした後にジーグ様が、


「もう、勘弁してくれないかな?聖ジャルダン伯爵様は…」


と、返してきたので、俺は諦めて、


「では、ジーグさんにしておきますね。」


などと、じゃれている間に教会に到着した。


出迎えてくれたのは、この教会を任される予定の神官のクリストファーさんとシスターのクリアさんのお二人で、王都の神官長様の推薦で赴任してきた、貴族の次男と令嬢だったアラサーのご夫婦である。


魔力も強く回復魔法も得意なご夫婦なので、治療院の先生としても活躍してくれるそうだ。


クリストファーさんは、


「聖人様に代官様、巫女様や皆様がお待ちです」


と、言ってイソイソと俺達を招き入れる。


しかし、ソファーや机の有る居住スペースの客間では無く、礼拝堂へ案内されると全員が礼拝堂に集まっている様で、皆さん長椅子座りながらランプに照らされた木像や、月明かりでうっすら光るステンドグラスを眺めたり祈ったりしている。


正直、巫女様や各国の神官長クラスの偉いさんが集まっているのだ…

今この瞬間は、この世界の宗教の中心地はニンファの教会ではないか?と思える顔ぶれだと思う。


この世界で俺の知っている国は、

シルフィード王国と、戦争相手のザムドール王国に、イグノ王国とアグアス王国の4つと、

国には属さないが聖都と呼ばれ神域と言われる土地を守る教会の総本山ダリアが有るのだが、今回は表向きはザムドール王国は不参加であるが、聖都ダリアから巫女様のお付きとしてザムドール王国の神官長の息子が来ているらしく。


会議の前に巫女様から、


「あそこの人達は、ザムドールの信者だけど殺すの?」


と聞かれて、俺は、


『いやいや、巫女様…直球過ぎるだろ…』


と、少し引きながらも、


「戦争をしてる国ですが、それが理由で喧嘩はしませんよ…それに、本当は戦争も止めて欲しいのです」


と俺が答えると。


巫女様は、


「神様が言ってた通りだ。

流石は、安らぎと眠りの聖人様…」


とニコニコしていた。


俺は、


「えっ?神様が…その…眠りの聖人と…」


と恐る恐る聞くと巫女様は、


「ううん、」


と首を横にぷるぷる振って、


「話せば解る優しい人だって…アダ名は私が付けた」


と言っている。


『あっ、この娘さんはマイペースな、不思議ちゃんだな…』


と判断したあとで、教会の方々と会議をしたのだが、辺境伯様主宰のパーティーが終われば、教会の偉いさんは各国に戻る為に聖都に向かうらしい。


早く帰って今日の事を報告するらしいのだが、聖都には希少な転移スキルが使える人間が居るので、全員一旦シルフィード王国の北西にある聖都を目指すののだそうだ。


少しヒッキーポイントを使うが、どうせ、王都クレストまで腰痛持ちの神官長様を送るついでに、三十名余りの教会関係者と5台の馬車をセーニャまでだが転移してあげる事にした。


巫女様が、


「お昼寝の聖人様は、転移も使えるの?」


と質問されたので、


『これ以上変な2つ名を付けられては堪らない!』


と思い、


「自分のお家からお家までの限定的な面白スキルですが…

あと〈聖人様〉は、くすぐったいのでキースとお呼び下さい巫女様…」


と、俺が言うと、


「キース、巫女、チガウ、チャチャ。」


と、巫女様は片言のセリフで名前を教えてくれたのだが、


『どこの森の奥に住む言葉が話せる悲しいモンスターだよ…』


と思わずツッコミたくなるような喋り方の彼女のセンスが益々解らなくなってしまった俺が、


「では、チャチャ様…」


と、恐る恐る呼ぶと、


「本当ならばチャチャが良いのですが…仕方ないです。

私はキース君と呼びます。

決定です。

変えません。」


と、先に距離を詰められた。


チャチャ様達と会議の結果、まず、この教会に礼拝に来る信者が増えるので町に泊まれる場所を完備して欲しい事と、ステンドグラスの技術を伝授して欲しい事に、各国の教会に聖人として来て欲しいという三点だった。


後は、当分の間この教会には忙しくなるので、助っ人の教会の関係者を数名追加で残してくれるらしくこれはなんとも有難い。


宿屋はポイント次第ですぐ作れるし、ステンドグラスも錬金術師チームが居れば他国の錬金ギルドも同じ様な技術が有ると思うし手順を書いた紙を渡しただけでもイケけそうだ。


問題は諸国漫遊か…

俺は良いが、ヒッキーちゃん達は無理だものな…

各国に別荘買うの?…そうなると別荘指定のポイントが沢山要りそうだな…どうしよう??…

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