第159話 神話になるのかな?


皆の協力もあり半日で教会が完成した。


入り口をくぐれば、謁見の間のような奥に長いホールになっており、両サイドの壁の下の方には空気の入れ替え用の小窓が等間隔に並び水晶板硝子から差し込む日光が間接的に辺りを照らす。


俺は、奥へと進みながら木工職人達が作ってくれた長椅子を、配達機能でベッキーさんにならべてもらい、

礼拝堂の壁にはあえて大きな窓は作らず、明かり取りを兼ねてA4サイズの四角い穴が数ヶ所に空いており、厚さ50センチの石壁の外側近くにA4サイズのステンドグラスがハメ込まれて、手前が棚として使えるので夜間は魔石ランプ置きにもなる。


ちなみにこの明かり取りのステンドグラスは大きな作品の練習用に量産した、一輪のナナムルの花のステンドグラスを採用していて、『ユーノス辺境伯様の傘下の場所だぞ!』というマーキングの意味合いもある。


それと礼拝堂の両サイドには体育館の様な二階の通路状の廊下があり、上部にある幾つかの換気窓の開閉に使われる…

という名目で、小型ガーディアン達が警備しやすい通路と、屋根へと上がり易くする為の物である。


薄暗い礼拝堂の奥は、やたらと明るい場所にかわり、

正面の祭壇には、例の写真館で『はいチーズ』したような神々の像が並び、その奥には特大サイズの王都で見た三柱の木像をモチーフにしたステンドグラスを一柱ずつ三枚と追加で天使の様な赤ん坊が天から舞い降りるモチーフのステンドグラスが三柱の上部に設置してある。


そして礼拝堂の左右には扉があり、左手には教会関係者の生活スペースと、右側には治療院や避難所として使える多目的ホールがあり、こちらの南側の壁には、ニンファの皆が頑張った精霊石鹸の包み紙のモチーフになっているベッキーさんのステンドグラスと、

ヒッキー教団の錬金術師達のこだわりと愛の結晶とも言うべきジャルダン村の上空を飛ぶ揚羽蝶のような色とりどりの羽根のヒッキーちゃんのステンドグラスに、

真ん中には一つしか実のなってないオランの木にもたれ掛かり昼寝をする俺が…


『何故だ!?何故そうなった…』


『当日まで秘密にされていた俺をイメージしたステンドグラスが…居眠り姿…』


と、ステンドグラスを前に膝から崩れ落ちる俺に、投影クリスタルから現れたヒッキーちゃんが


「村の皆からの伝言で、村の最強な状態を表しておりますだって、」


と、テーマを教えてくれ、ジャルダン村から助っ人に来ていた親方達は親指を立てて満足そうに微笑んでいる。


「いや、確かにマスタールームにいれば大概の事は解決するけど…」


と、少し涙目になりながらも最終確認を済ませて、いよいよ国王陛下や各国の大使さんや教会の偉いさんを順番に招き入れる。


この世界でステンドグラスはまだ生まれたての技術で、そのきらびやかな見た目に圧倒されて祈りをささげる教会関係者だが、祭壇に近づくと精巧な木像が並び、それを見て再び祈りを捧げてしまうみたいでなかなか内覧会が進まない…

教会の方々は一旦左手の建物へ入って頂き、後程ユックリと見て貰う事にして、その他の方々は順路を通って右の多目的ホールから外へと誘導したいのだが教会関係者以外の方々も再び俺達のステンドグラスの前に立ち止まる。


ベッキーさんに祈り、俺の居眠り風景でクスクスして、無駄に気合いの入ったヒッキーちゃんの前で立ち止まり感嘆の声を漏らす。


知らない間に『三聖人の間』と呼ばれはじめたホールから何とか偉いさんを外へと誘導し、庭先で完成の式典が開かれ国王陛下より有難いお言葉を頂く予定なのだが、国王陛下は、


「皆の者聞いて欲しい。

このニンファの町を治めているのはニンファ準男爵であるが、

この町を興し、難民となった我が民を受け入れたのは、ここに居られる三聖人様である。」


と話しはじめ、精霊が作った町との噂は流れていたが本日実際に建物が建つ様を見て納得をした方々から「おぉ…」と声が漏れる。


国王陛下は続けて、


「精霊様と妖精様のお二方は、神々の国からの使者として、国として最大限の対応をさせて頂きたい…」


と宣言すると辺りから拍手が巻き起こる。


そして、最後に国王陛下はニコニコしながら、


「聖人の一人、キース・ド・ジャルダン男爵をその功績から、伯爵とする!」


と発表すると、再び拍手が起こるが国王陛下はいたずらっ子の顔になり、


「まぁ、皆の者、落ち着いて聞いて欲しい…

聖人たるジャルダンが普通の伯爵と同じ筈はない!

彼には辺境伯に準ずる権限を与えて、軍を持つことや、他国と独自に貿易することも許可すことにし、そして、ジャルダン伯爵には他国を巡る平和大使の任を与えて、このニンファの町の民の様に苦しむ者達を救って貰いたい!」


と…高らかに宣言をし『言ってやった…』みたいな満足顔の国王陛下とは対象的に、拍手の渦の中で真っ白になっていた俺は、その後、各国の大使の方々から、


「ウチの国に来て下さい!」


的なお誘いや、巫女様や教会の方々はからは、「後世に語り継ぐ出来事です!」とのお言葉を受けながら引き吊る笑顔で対応するのがやっとだった。


セレモニーも何とか終わり、偉いさん達は辺境伯様のお屋敷に移動し、教会の方々は新たに出来た教会の居住棟に一旦入って頂き、続いてはニンファの教会の一般的見学が開始された。


ニンファの町の住人が案内役をかって出てくれたので、俺はやっとニンファの町役場で一息つける事になったのだが、聖人に伯爵…ついでに大使…

良く解らないモノになってしまった…

皆は口々に、


「おめでとう」

「おめでとう!」


と言ってくれるが、訳が解らない度合いでいくと、何処かのシンジ君の最終回ぐらいの状態である。


だが、シンジ君みたいに『ここに居てもいいんだ…』みたいな気分にはなれず、ある意味ホラーで逃げだしたい俺がいる…

町役場の隅で俺が項垂れていると、ニンファの町のチビッ子が、


「お昼寝聖人様は寝てるの?」


と俺の顔を覗き込む。


頭の中に一瞬『お昼寝星人』という宇宙人まで現れ更に心を閉ざしそうになるが、チビッ子の頭を撫でて、俺は、


「ちょっと疲れただけだよ…」


と微笑んだ…

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