第158話 教会作りと見物客


教会を建てる日がやって来たのだが…もしかすると時期が悪かったかもしれない…

いや、その前に教会絡みでいろいろな噂が流れたかもしれない…

まぁ、兎に角見物客が異常に多いのだ。


王都の教会関係者の方々を転移で送る約束をしていたので、早朝にセーニャに行った時でも、


「あれ、多くね?」


とは思ったが、いざ、現地であるニンファに到着すると、自分の領地で国王陛下をお迎えしたパーティーを終わらせた各地の貴族が、戦争さながらに、食料や天幕を持参し、国王陛下のパーティー前線と共に、ニンファ周辺まで南下してキャンプをしているらしく町の周辺に幾つものテント村が出来ている。


各地の貴族に教会の方々や大商会の一家など、ざっくりまとめると、権力者と金持ちと信者のどれかか、または複数を兼ね備えた方々がニンファの町を取り囲む様に陣取り合戦をして少しでも良い位置を押さえようと睨み合いを繰り広げている。


勿論正式にお呼びした方々は町の壁の中にある教会予定地周辺に場所を用意してあるので、それとは別の団体である。


社交のシーズンで噂の回りが早かったのが要因の一つであろうか?

数日前からジーグ様がベッキーちゃん経由で、


「沢山の見物客が来ているよ」


と俺の所まで報告を入れてくれたので、


「沢山作って保管倉庫にしまってあるパンとソーセージでホットドッグを作ってユーノスパンの知名度を上げてやろう!」


と、ニンファの町で、ホットドッグの販売を始めてもらったのだが、大銅貨三枚のホットドッグが飛ぶように売れてオープン前のパン屋の窯の調整も兼ねて各地のユーノスパン工房に、


「ホットドッグ用のパンとサンドイッチ用の食パンを沢山お願いします」


と発注をかけた程で、翌日にはジャルダン村から料理自慢も助っ人に出して、カツサンドや卵鳥の新鮮卵で作るマヨネーズたっぷりの卵サンドも販売を始めたのである。


ちなみに、卵の菌や寄生虫は一度保管倉庫に突っ込むと、生きた物は入らないルールで弾かれて安全な卵が出来上がった。


このやり方は、自称管理人さんからのアドバイスで判明したのだ…有り難う神様!


しかも、既にユーノス辺境伯派閥のパーティーで披露されたトンカツなどの噂を聞いていた大商会の金持ちは、金を積んでも食べることが叶わなかったユーノス家のレシピ、「カツサンド」が食べられるとあって作ったそばから売れて行く…

ならば勝機ではなく『商機!』とばかりに、ビビアンさんやミックさん達ジャルダン商会の販売担当が集合して、


「売れるモノを売ってやろう!」


と数日前からジャルダン村とニンファの町の冬の手仕事で大量に作った石鹸を、


「ニンファの町の精霊様印の石鹸ですよぉ~」


と、見物客に売り歩いている。


ニンファの町の子供は下手な王都の学生よりも九九なども使えて早くて正解な計算が出来るので、パンや石鹸の売り子としてアルバイトも出来るし、売れ高でバイト代に色をつける方式にしたので、この一週間足らずで、やる気になったアルバイトキッズが様々な商品を売りに売ってくれてかなりの稼ぎになっている。


大商会の会長は売り子のキッズ達をひどく気に入り何人かは就職先までゲットしていたほどであった。


そして、町の周りで売り子の声が響く中で、国王陛下御一行がユーノス辺境伯様達と到着した。


今年の辺境伯様パーティーは例年の倍近い人数である。


なぜなら、戦争中のザムドール以外の国からの大使の方々や、各国の教会の偉い方々に総本山の聖都からも巫女様が来ているのだ。


神官長様が帰った後になんやかんやあったらしいが大事になっているのは確かである。


俺は、今朝から沢山の偉い方々と挨拶を交わしているが、国王陛下に、各国の大使の方々に、教会関係者さん達と、知らない貴族に、知っているがかかわり合いになりたくない方々…

そして、こういう時は決まって嫌な奴らが絡んでくる。


「ジャルダン男爵…ワシが可愛がっているナルガ子爵家の縁の者と聞くが?どうだ、ワシが口添えしてナルガ子爵と同じ規模の領地を約束してやるから、我が派閥に来ないか?

男爵ならば、戦地にて手柄を立てれば、嫁に貰う予定のダイムラー伯爵と同じ伯爵にだってなれる。

いや、ワシの力で…」


とテカテカの軍務卿と取り巻きが、ヒソヒソと辺境伯に聞こえない様に俺に誘い話をしてきたのだ。


『胸くその悪い…』


しかし、ここで下手に反発するのも駄目だと自分に言い聞かせて、


「滅相もない、ナルガ家からは出来損ないと扱われ、追放された身…

運良く辺境伯様に拾って頂き、村でひっそりと暮らすのがやっとの田舎貴族にございます。

皆様の様に戦地で戦うなど、とてもとても…

私などは自宅の村を守るのが精一杯でございます。」


と、出来る限りテカテカを持ち上げておいた。


少しいい気になったテカテカ達は、


「田舎貴族にしては解っているな…」


などと笑っていたので、俺は、


「ラースト軍務卿閣下、これを奥さまに…」


と、精霊印の石鹸をソッと渡すと、軍務卿はニヤリと笑い、


「聞いた話では、魔法の才能もないと聞くが貴族としての才能は少しは有るようだな…」


と言ってご満悦で石鹸を受け取って帰っていった。


『まぁ、なぜか品薄になり軍務卿派閥の領地にはほとんど出回らない予定の石鹸ですので、奥方様が、ウチの商品の虜になってくれたら、俺的にも嬉しい事になるのでね…』


と、腹の中で思いながら俺もいやらしい笑顔で応えた。


面倒臭いヤツとの挨拶も終わり、ジーグ様が司会をしてくれて、まず教会の関係者による地鎮祭の様な祈りが捧げられる。


巫女様が祈ってくれるなど大変名誉なことらしいが、かなりポワポワした天然系の少女で、偉い巫女さんだと聞いていたのだけれど、ウチの石鹸の売り子達が歌う、


「精霊石鹸、よい石鹸♪」


のメロディーを気に入ったらしく、ずっと口ずさんでいたイメージが先行しており、有り難さが俺の中で少し薄れてしまっている。


そんな天然ポワポワ少女の祈りが終わると、俺とヒッキーちゃんとベッキーさんが呼び出され、俺の両脇に投影クリスタルが現れ、妖精ヒッキーちゃんと精霊ベッキーさんが、よそ行きの少し豪華なコスプレで映しだされると、教会本部の大神官長様とやらから、『聖人宣言』をされて、正式に神と交流した者と認められたのだった。


これより後に、イキり散らかしたい場合は、「聖・ジャルダン男爵」と名乗っても良いらしいが、マジで要らないし、そんなこっ恥ずかしい名乗りは多分しないと思う。


そして、本日のメインイベントである教会を壁生成で建てていくのだが、俺は国王陛下達の前で、


「これより、精霊と妖精と私の三名が、大地の力と人々の祈りの力を増幅させて、神々の家である教会をこの地に出現させます!」


と告げると、会場から、『待ってました』とばかりに歓声があがる。


俺は、


「妖精ヒッキーちゃんは、大地の力の制御し、

精霊ベッキーさんは、祈りを形にするために異空間へと参ります。」


と言うと、マスタールームへ二人は移動したらしくクリスタルから映像が消える。


まぁ、正確にいうと、ヒッキーちゃんは石材の管理と、ベッキーさんは、壁生成の管理の為のなのだが…

そして、マスタールームの二人から、


『マスター、イケます!』


と返事か来たので、俺は、それっぽく、


「精霊と妖精に選ばれし職人達を召喚致します」


と宣言し、ジャルダン村からは転移で親方達工房組を呼び出し、ニンファの町の大工達は揃いの作業服で整列する。


いつもの様にベッキー教信者と化したニンファの住人が祈りを捧げ、俺がそれっぽく


「とくとご覧あれ!」


と叫ぶと、ベッキーさんが壁生成をスタンバイしてくれ、俺は頭の中で、『イエス!』と答えると、ヒッキーポイントが支払われ、石造りの建物が3Dプリンターで作られるかの様に地面から育っていく。


貴族は驚き、商人は腰を抜かし、聖職者は祈りだす異様な会場だが、十分、二十分と経つうちに、あちらこちらから、

「凄い…」とか、「素晴らしい」などとため息にも似た感想が聞こえ始める。


一時間余りで、とんがり屋根まで仕上がると、続いて職人たちが教会に入り、予め作ってあった建具を配達機能でヒッキーちゃんとベッキーちゃんが配置して職人達が固定していく。


今回、扉もステンドグラスも窓も、魚魔物の鱗を使った魔鋼をメインに、錬金ギルドの魔力を流すと硬化する特殊合金で固定していく。


魔法適性が無くても魔力を放出することが出来る人間はいるが、それすら魔石を使い溶接機の様な装置で魔力を留め金に流せば誰でも固定できる。


町作りにも手慣れたベテランの職人達は、物凄い手際で教会を仕上げていき観客の方々から、


「神に祈りを!」


などと聞こえて来るが、

大半の見物客は、三時間足らずで町の教会が出来上がった事に呆然としていた…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る