第157話 お祭り騒ぎ


セーニャ組を連れてジャルダン村に帰ると、そこはもうお祭り会場であった。


しかも、ジャルダン村だけではなくどうやらニンファの町でも本日は炊き出しとナナムルの街から届いた酒が振る舞われているらしい。


騒げる理由があれば何でも良いのだろうが、村では主に俺とヒッキーちゃんの為の祭りで、ニンファではベッキーさんを囲んだ祭りなのだとか…


『振る舞い酒とか、よくジーグ様がOKしたな…』


と思った俺だが、どうやらベッキーさんからの報告では、昼に神官長様が帰ってすぐにナナムルの街のユーノス辺境伯様の城に早馬を出して、


「聖人認定された」


との一報を入れたら、騎士団の念話網で王都に居る辺境伯様からの指示でベッキーさん宛にお酒や食糧が届きジーグ様に、


「ベッキー様にくれぐれもヨロシク」


と、王家に嫁ぐベッキーさんにゴマをする為のお貴族様的発想からのお祝いの品らしい。


『これは、後日辺境伯様にも報告とお礼がてら顔を出さないとな…

いや、待てよ!、それを言ったら国王陛下にも、アルサード王子殿下の婚約者は精霊で、ついでに聖人にもなりましたって報告をしないと!!』


と、軽い気持ちで神官長様をお連れした事を今になって悔やんでいる俺がいた。


しかし、そんな俺の不安などそっちのけで、マイホームのホールでは村の皆は楽しそうに料理やお酒を楽しんでおり、ヒッキー教の錬金ギルドメンバーからなる錬金術師チームもギルドマスターのインタスさんの掛け声に合わせて、


「ヒッキー様、万歳!」


と騒いでいる。


そして、ティム牧場チームはじめ、ミックさん達ジャルダン商会の行商チームやジャルダン商会の支店組も参加しているのは当然であるが、百歩譲ってサイラスの町の商業ギルドの方々や、たぶんナッツが呼んだであろうエリーちゃんをはじめとする冒険者ギルドマスターとクレアママさんも、この際良いとしよう…

しかし、なぜ居るの?ジョルジュ様は…と呆れながらも俺は、ジョルジュ様に、


「社交のシーズンでしょうに…」


と聞くと、ジョルジュ様は、


「いやぁ、驚いたよ。

あまり、パーティーとか苦手だし競馬の事を色々聞かれるの嫌だから、屋敷にいたんだけど、騎士団の念話網を使って、王都に居る辺境伯様から指示が来たんだよ。

ニンファには食糧を出したから、お主は、とりあえずジャルダン村に向かい顔を出しておけと…

まさか、こんなお祭り騒ぎと知っていたら酒樽…いや、この村に酒は…

食糧を…っても村には沢山有るし…キース君、何か欲しい物無いかい?」


と、既に軽く酔っているご様子…


『ダメだこりゃ…』


と呆れながらも、


「聖人様、万歳!」


などと、騒ぐ村人達を眺めながら、


『あんまり大事にしたくないのになぁ…』


と、俺は心の中でボヤいていた。


お祭り騒ぎの後、村にある焼き菓子などを手土産にして、サイラスの町チームを転移で送ろうとしたのだが、既に動ける者の方が少なく、風邪だけひかない様に暖炉の火をA子に任せて、満腹で眠ってしまった子供達から手分けして自宅のベッドまで運び、酔っぱらい達に毛布をかけてくれていた女性陣に、礼を述べて帰宅してもらい、ホールには既に帰宅を諦めた酔っぱらいが死体のように並んでいるだけとなった。


クレアママさんも冒険者ギルドマスターのイルサックさんが酔いつぶれた為に、ミリンダさんの牧場にある家の客間で眠るらしいし…ん?!


『まさか、エリーちゃんはナッツの部屋か!!』


と、焦った俺の思考を読んだらしいヒッキーちゃんから、


『残念…シュガーちゃんと一緒に寝てますよ。エリーちゃんは…』


と、報告が入った…


『最近、神の様に錬金術師チームに崇められて彼女は神様の様に人の心を読む力に目覚めたのでは…』


と思いながらも、ヒッキーちゃんに、


「一応、敷地内をチェックして変な所で寝ている酔っぱらいが居ないか探してくれる?」


というと、投影クリスタルが現れ、秘書スタイルのヒッキーちゃんが手帳を確認しながら、


「もうチェック済みです。

ガルさんが下半身剥き出しでトイレの近くで寝ていましたので、シローちゃんに回収を頼んでいます。」


と報告してくれたのだが…


「なんで下半身剥き出しなんだよ!

んで、何でシローちゃんなんだよ!!」


と俺がツッコむと、ヒッキーちゃんは間髪入れずに、


「多分トイレにたどり着けずに自ら剥き出した様です。

シローちゃんを向かわせたのは、喋れるシローちゃんから、あとでじっくり報告を聞く為と…一番面白そうだからです。」


と理由を教えてくれた。


『面白そうって…』


と、呆れる俺だが、『確かに面白そうだな…』と考え直して、


「ヒッキーちゃん、録画もヨロシク、酒が抜けたガルさんに見せてやろう」


と指示すると、ヒッキーちゃんは、


「はい、現在、様々な汚れを落とすべく風呂場にてシローちゃんに隅々まで丸洗いされている映像も録画しております」


と有能な秘書が報告してくれ、


「うむ、ご苦労…」


と、答える俺にヒッキーちゃんは、


「そこで、酔いつぶれているジョルジュ様も録画しておきますか?」


と聞くので、俺は、


「ジョルジュ様も居るのかよ!」


と、客間ではなく貴族を床で寝かせている事に焦り、ベッドに誘導しようとするが、なぜかジョルジュ様は、護衛兼、記録係で来ていたバッツさんと二人で抱き合いながら眠っていた。


「う~ん…」と暫く悩んだ俺は、ヒッキーちゃんに、


「コレも録画ね…あとで本人に見せてやろう」


と指示を出して、疲れたので寝る事にしたのだが、二階の居間でナッツが眠っており、どうやら相棒も酷く飲まされたらしく、シーナさんとバーバラさんに介抱されていた。


俺は、シーナさん達に、


「相棒がスミマセン…」


と頭を下げるとバーバラさんが、


「酔っぱらいの扱いには慣れておりますのでお気になさらず。」


と言ってくれたのだが、シーナさんは、俺に近付き、


「聖人認定…誠におめでとうこざいます。

でも、これでまた色々あるので、暫くは落ち着けませんね…

いつになったら結婚できるのかしら…」


と、少し残念そうに話す。


確かに「ゴタゴタが落ち着いたら家族に…」みたいなプロポーズをしたのだが、ニンファの町の目処がついた矢先、聖人認定…確かにゴタゴタしそうだ…

俺もその言葉で、厄介な現状を把握して、


「スミマセン…シーナさん…」


と謝ると、隣でナッツを介抱してくれているバーバラさんが、


「シーナ様、待っていたらいつになるやら…このまま旦那様の部屋に雪崩れ込み、お子を成すしか!

勇気が出ないのであれば婆やが下から酒をば…」


と、ムードも何も無い提案をしてくる…


「いや、酒の勢いって…」


という俺に、バーバラさんは、


「旦那様も旦那様です!

もう下半身もご披露された仲というのに、その後のデートでも、口づけすら…

昨夜のセーニャの居間では、ブチュっと行って然るべき!!」


と叱られてしまったのだが、


『ババァも覗き見隊に入隊しやがったか!!

そうか、セーニャの居間も敷地内…覗かれている…気をつけなければ…

あと、無駄に出来る様になったヒッキーちゃんには罰を与える事にする』


と、叱られた内容に恥ずかしさと、ターゲットにされた怒りがこみ上げつつも、シーナさんの耳元で小さく、


「敷地内でのデートは危ない…近いうちに他でデートしましょう」


と提案すると、シーナさんは、


「まぁ、嬉しい!」


と言って俺に抱きつくのだが、バーバラさんが、


「イケぇぇぇ!シーナ様。押し倒すのですぅぅ!!」


と叫び出して興奮している。


シーナさんの感触で興奮しそうだったのに、必死なバーバラさんを見て、俺もシーナさんも何だか引き潮の海岸ほどに引いてしまい、


「バーバラさんもあまり興奮したら…ね…」


と、俺がやんわり注意すると、


「あっ、私ったら…」


と、真っ赤になって部屋に戻るバーバラさんを見送り、シーナさんにも、


「シーナさんもお休みなさい。」


というと、シーナさんもペコリとお辞儀をして自室へと帰って行った。


酔っぱらいのナッツは暖かい居間に放置して、俺はベッドへ向かいマスタールームへと飛ぶのであった…


勿論、覗き魔を懲らしめる為であるが…


『俺も楽しんじゃってるから強くも言えないな…どうしよう…』


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