第156話 何か始まってしまった?


どうも、神様が増えるらしい…と、言われてもピンと来ていない俺は、


『神様も写真館とか行くのかな?』


などとどうでもいい事を思いながら神様の等身大の像を眺めながら、なんだか神官長様達がバタバタしているので、ホークスさんに、


「どうしよう?」


とだけ相談すると、ホークスさんは、


「流石に教会の事は解りませんので、見守るしか無いでしょう…」


と俺と一緒にホールで事の成り行きを見守っていると、神官長様が、


「この神像を作った聖人の方は?」


と聞いてくる。


何を言っているのか解らない俺が、


「へっ?…聖人?!」


と聞き返すと、神官長様は興奮しながら、


「神々のお姿を実際に見たとしか思えない精巧な像もさることながら、メディカ様のご懐妊を知っているとは…

念話にて聖都に報告を入れ、巫女様が神々に祈りを捧げ、ご懐妊の事をお伺いすれば『ハイ』との答えが帰って来たと言われました。」


と説明されたが、良く解らない単語が出てきたので、


「一旦落ち着いて説明して下さい。」


と頼むと、神官長様が様々な事を説明してくれた。


まず、この世界の神様は、教会の人間の夢に現れて色々な事を教えてくれる事があるが、決まって声のみで姿を表すのは稀であり、この世界で神々の姿を見たり此方の意思で神と対話出来る人は、聖人や巫女と呼ばれているらしい。


そして、聖都と言われる教会の総本山的な場所で、巫女さんが神様に聞いたところ妊娠している事が確定となり、この事実を知り神々の像を作った職人を聖人認定したいとのことだが…これは困った。


『まさか本人から設計図が送られて来たなんて説明出来ないよ…』


ただ俺はこの時間を使い改めてじっくり神々の像を見た結果、多分設計図を送ってきたのは娘さんのルヴァンシュ様だろうというのは理解した。


なぜなら一人だけ作りが細かいのだ…

自分のだけは、こだわりにこだわった感じがする。


俺は、


「神官長様、この神々の像は…

話すと複雑なのですが、精霊と妖精が住んでいる異空間で、神より作り方を教わり私のスキルと精霊と妖精の力を合わせて作りましたので、この神像を作った職人は存在いたしません…」


真実をボカシつつ要点だけ伝えると、神官長は再び、


「聖都へはその様に報告を!」


と指示を出し、

昼食の頃には、何故か俺とヒッキーちゃんとベッキーさんはまとめて聖人認定をされてしまっていた…

まぁ、別に聖人だから何をしなければならないとかは無いらしいので、有り難く聖人認定されておきました。


だって、ベッキーさんが精霊で聖人ならばアルサード王子に嫁いでも、そこらの貴族の令嬢にだって、馬鹿にされないぐらいの箔がつくだろうからね…と思っていたのだが、思わぬ所で盛り上がりを見せている連中が居た。


ヒッキー教の信者の錬金術師達だ。


「ニンファの町の教会のステンドグラスにヒッキー様も聖人として!」


と言い出す始末で、しかもお祭り好きの村人達も巻き込み盛り上がり、結局は設計を少し変更して治療院の予定の別棟の窓の代わりに聖人三人のステンドグラスが並ぶ事になってしまった。


昼過ぎに、ようやく神官長様御一行をニンファの町へとお連れ出来たのだが、

しかし、ここでもお祭り好きの村人達が数名ついてきて、ニンファの町の住民を巻き込み、

ヒッキーちゃんのステンドグラスは錬金術師チームが責任者となり、ベッキーさんのステンドグラスはニンファの町のベッキー教信者の様な住人が担当する事になった。


ちなみに俺のステンドグラスは、ジャルダン村の工房組と子供達が皆で作ってくれる事になり、変更した設計図の大きさに合わせたモノを作ってくれるらしいのだが、当日までステンドグラスは俺達には見せてくれないらしく、春までのお楽しみという事になった。


神官長様は、教会の立つ予定地を見学した後にベッキーさんとお話…というか祈りを捧げ、

ジーグ様とは何やら相談してから、


「聖ジャルダン様、送って頂けますでしょうか?

やるべき事が増えましたので…」


とニコニコしながら俺を呼ぶ…


「その聖ジャルダン様って止めません?」


と、あまりの恥ずかしさに、俺が神官長様にお願いをすると、神官長様は、


「では、ジャルダン聖と…」


と言い出す。


それだけは嫌だ!

田舎貴族にはなったが、麦わら帽子の海賊の物語の世界貴族にはなった覚えは無い!!

だから、語尾が「~え。」になりそうな呼び方は止めて欲しい。


俺は、


「お願いですから、ジャルダン男爵ぐらいで勘弁してください」


とお願いして、間を取って「ジャルダン様」で落ち着いたのだが、

毎回俺の名前を呼ぶ度に謎の沈黙の瞬間があるのだが…

毎回心の中で『聖・』って言ってます?と気になる点はあるが、何とか神官長様の温泉付き視察旅行も無事に終わりセーニャの町に戻ってきた。


神官長様は、


「大浴場からの景色も見てみたいが、少し忙しくなりそうなので教会へ戻ります」


と少し残念そうに話し馬車に乗り込む。


俺が、


「お仕事が落ち着いたら、この別荘の管理を任せているトムに連絡を下さい。

大浴場でユックリ過ごせる様に手配しますよ」


というと、神官長様は、


「お心遣い感謝します。…ジャルダン様

では、早く温泉に浸かれる様に仕事を片付けて参りますか!」


と、王都へと帰って行った。


トムさんが、


「旦那様…神官長様が旦那様を呼ばれる際の、あの気持ちの悪い間は、何でございます?」


と聞いて来たので、


「良く解らないけど、教会の風習じゃないかな?」


と誤魔化して、疲れきった俺は、ひとっ風呂浴びて帰る事にしたのだが、湯船に浸かっている最中にお風呂の焚き口の方から、


「旦那様…ヒドイですよ。

聖人になられたのは私達には秘密なのでしょうか…」


と、トムさんの恨み節が聞こえて来た。


俺は、


『あちゃー、拗ねちゃった?!』


と焦りながら、


「朝からバタバタして、聖人、聖人と…

少しうんざりしてたんだ。

ごめんよ…お風呂上がりに話す予定だったんだ…」


と、話すとトムさんは、


「ナッツ様より伺いましたので、もうメイド達も準備が出来ております。

別荘の警備はハチロー殿と小型ガーディアン達がして頂けるそうなので、我々も村にて祭りに参加致します」


と言っている。


俺が、


「えっ、祭り?」


と驚くと、トムさんは、


「同じ家から三名の聖人を出すなど聞いたことも御座いません!

これを祝わなくてどうします?!

主を失い漂泊の民となったのも、神々より聖人様に仕えよとのお導きかと…」


と語りはじめた。


これは温泉でユックリも出来ないと思いながらも、


『まぁ、村の住人はイベントも少ない冬の季節に騒げる理由が有れば酒盛りでもしたくなるよな…』


と諦めてジャルダン村へと戻る俺だった。


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