第155話 お客座は神様関係者です


お茶会終わりに教会に立ち寄り神官長様とお供の二人を連れて、セーニャの別荘に到着したのが夕方…

といっても季節は冬、既に周囲は夜の闇に包まれていた。


執事のトムさん達に馬車を預けて、親方のマドンナであるベテランメイドのスーザンさんに、


「神官長様を温泉に入らせて差し上げたいんだけど…いける?」


というと、スーザンさんは、


「この気温ですので、浴室が暖まるまで大浴場でしたら二時間近くかかってしまいますので小さい方をオススメいたします。」


と、提案してくれた。


流石はベテランメイドさんだ、良く気が利く…村の子供で何処かのメイドさんになりたい子はセーニャに研修に来させようと思いつつ、神官長様がヒートショックでポックリしても困るので、小さなお風呂の準備をお願いし、先にホークスさんと、セラさんにジャルダン村に転移してもらい、神官長様の宿泊場所と食事の用意をしてもらうことにした。


お風呂の準備が出来るまで、俺とシーナさんとで神官長様とお供の二人が少しでも暖まる様にと暖炉の有る居間でおしゃべりをする事にし、ナッツには今日の出来事をトムさんと配下の夫婦に伝えて、軍務卿や戦争絡みの噂を集めてもらうよう伝えてもらった。


居間で神官長様達と話していると、頭の中に、


『マスター、神官長様達のお部屋と、お食事の用意もバッチリだよ。

保管倉庫に入ってるから、いつでも出来立てを出せますので、時間を気にしなくても大丈夫です。

あと、教会の方が来るならば、アレ…見てもらったほうが良くないですか?』


と報告が頭の中に直接届く、

いきなり「うん、うん…了解。」などと、ブツブツ言い出した俺を不思議そうに教会関係のお三方が心配そう…いや、可哀想な子を見るような目で見つめるので、俺は、


「今、ジャルダン村の妖精ヒッキーちゃんから報告が入りまして、お部屋とお食事の用意が出来ましたので、温泉を楽しまれた後、お越しをお待ちしておりますと…」


と、伝えると俺の奇行を理解したようで、神官長様のお供の一人が、


「妖精様は私と同じ念話のスキル持ちですか?!」


と感心していたので、俺が、


「土地の力を使って様々な手助けをしてくれております」


と答えると、もう一人のお供の方が、


「精霊様だけでは無くて、妖精様まで仲間に…」


と少し疑っている様なので、俺は、


「ヒッキーちゃん、ベッキーさん!

悪いんだけど、投影クリスタルを飛ばして挨拶してくれる?」


とお願いすると、俺達の居るセーニャの別荘の居間に投影クリスタルが現れ、ドレス姿のベッキーさんと、

ハロウィンの子供のコスプレ風の透明の羽根を背負ったヒッキーちゃんが現れ、

軽く挨拶をしてもらい、すぐに持ち場に戻ってもらった。


その後で色々話していると、お湯が沸いたらしく、俺は、


「この続きはジャルダン村で食事の後にでも…先ずは温泉にどうぞ…本来ならば景色も楽しめる昼間に大浴場をご用意したいのですが…

本日は小さい湯船の方でご勘弁を…」


と三人を風呂小屋まで案内すると、

一人は寒いのに小屋の前で警戒にあたり、神官長とお供の一人が小屋に入って行った。


釜当番は、庭師のおっちゃんらしく、焚き口の前で、『お任せあれ!』とばかりにこちらを見ているので、俺は、


「もしも、お湯がぬるく感じたら焚き口の者に申して下さい、ではごゆっくり。」


とだけ風呂の中の二人に告げてから、居間に戻ってシーナさんとおしゃべりをしながら時間を潰す事にした。


シーナさんは、昼間の出来事で真実を知った俺が、ショックを受けているのではないかと、必死に話題を作り話しかけてくれる…


『ありがたいな…』


と純粋な感謝の気持ちで彼女を見つめながら俺は、


「シーナさん、今日は色々有ったし、弟が軍務卿の子供と聞かされて少しビックリしたけど、

マイアはマイアだし…俺は大丈夫だよ…

俺にはシーナさんや皆が居てくれるけど、マイアに仲間が居ないのが少し心配なぐらいかな…」


と言ってソファーの隣に座るシーナさんの手を取り、


「いつも側に居てくれて、ありがとう。」


とまっすぐにシーナさんを見つめて感謝を告げる俺をシーナさんは少し頬を染めながら見つめ返す…


そして…


「押すでない、今良いところだろう…」

「申し訳御座いません神官長様…」


と、扉の外から声がする。


俺とシーナさんはピョンとソファーの定位置に戻ると、神官長様は部屋に入りながら、


「お主が押すからぁ…」


と残念そうにお供の一人に文句を言っている…

俺は、


『コイツら覗いてたのかな?』


と思うが、


『いやいや、神に仕える方々だよ…まさか覗きなんて…』


との結論に至った次の瞬間に、湯気を頭から出したホカホカのもう一人の見張りをしていたお供の方が、


「あれ?神官長様は先にお部屋に戻られたのでは…」


と言いながら神官長様達と一緒に部屋に入って来た。


その時、神官長の少し過疎化されている髪が完全に乾いているのを確認し、覗き行為を確信した俺は、


『てめぇ、このやろうデバガメしてやがったな!!』


と、心の中で文句を言ってやった…

勿論、実際には、


「湯冷めされますと体に堪えますよ」


と、やんわりと遠回しに抗議するが、神官長様は、


「これも神の教え…ルヴァンシュ様は、『他人の恋路は見守りなさい!』と申されたと経典にも…

ジャルダン男爵様、先程のアレは、男ならばイクべき場面でしたぞ…」


と、言い出す。


俺は、急にこの世界の神様と聖職者に不安を感じてしまった…

その後、神官長様達をジャルダン村へと転移してお食事の後に軽くお酒を楽しんでもらいゲストルームで休んでもらった。


ちなみにだが、この世界の聖職者はガンガン酒を飲むらしい…

神官さんの中には回復系の魔法が得意な元貴族の次男や三男が結構いるらしく、酔いつぶれても解毒魔法で回復出来るし、神様の教え自体、『酒は良いモノ』みたいな教えらしくて、神官長様もお供の方々も味見と言ってかなりの種類の酒を村でも飲んでいた。


おかげで俺の神様への不信感が加速した結果になったのだが、翌朝、朝食を終えた神官長様に例の物を見てもらうことにした。


例の物とは…そう、ニンファの町の教会に飾るはずの神様の木造である。


作るための設計図と、必要なポイントまで貰ったので、その日の内にウッドチップを使い、木材生成でパーツを作り、組み立ててみたのだが、少し…というか、王都の教会で見たモノとはかなり違っているので困っていたのだ。


マイホームのホールに保管倉庫に預けてある神の像を出して、神官長とお供の二人に見てもらう。


ホールに現れた木像は、椅子に座ったゆったりした服装のメディカ様という奥さんの神様に、その女神の肩に手を乗せるムキムキの神様、旦那さんのバルド様がスーツ姿で立ち、娘さんの女神様のルヴァンシュ様は椅子の背もたれに手を乗せているという、『写真館でハイチーズ!』したみたいな神様像である。


ホールに現れたその木像を見た途端に、神官長様は、生まれたての小鹿の様に膝をガクガクさせながら3歩ほど木像に近寄り、ヘニョンと床に膝立ちになり、


「あぁ、神よ…」


と祈りを捧げ出したかと思うと、


「聖都へ念話を飛ばすのだ!

新たなる神がお産まれになられる!!」


とお供の一人に指示を出し、もう一人のお供には、


「この光景を書き記せ!」


と指示を出す。


急に何が起こったか解らない俺達に神官長様は、


「昨夜、夢にて神よりお告げが下りました。

明日、驚く事が解ると思うので腰を抜かさぬようにと…

いつもの様に声だけでしたがそれはそれは優しいお声で、

もしや!?と思いましたが…やはり…」


と言って再び祈りはじめる。


まんま写真館の妊娠中の家族写真じゃないか!?と思いながらバタバタと忙しいそうな神官長様達を俺は見守るしか出来なかった…

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