第152話 再び交差する運命


現在、ユーノス辺境伯様の王都の屋敷に来ている…

今日の午後に開催される城でのお茶会の前にユーノス辺境伯様に新年の挨拶がてら、昨日の城でのパーティーで変わった事が無いかを聞く為である。


今回は俺とシーナさんに、ホークスさんとナッツとセラさんの三人が付き添いという形で同行してくれている。


ユーノス辺境伯様は、


「昨夜のパーティーで、キース男爵の弟…ナルガ子爵を見たぞ…」


と言っていたので、俺が、


「元気そうでしたか?」


と聞くと、辺境伯様は、


「う~む…」


と唸り、言葉が出てこない…


『何か有ったのか?!』


と、心配になる俺に辺境伯様は少し困りながら、


「いや、キース君の弟って知ってるから、遠巻きに観察していたんだけど…軍務卿と距離が近いのだ。

確かに先代のナルガ子爵が亡くなり、親代わりに可愛いがっていると言えば、そうなのかも知れないが…何か違和感を感じるし、弟君も会場で軍務卿派閥から離れていた瞬間に何とも言えない表情をしておったのも気になる」


と、滅茶苦茶気になる話をしてくれた。


俺は、


「実家の事は正直何も解らない状態で育ちましたので何とも言えませんが、家を出る時に弟は母親の言いなり…というか、自分の意見が通らない状態らしかったので、今もそうならば、自分を殺して貴族としての生活を送っているのかも知れません。」


と答えると、辺境伯様は、


「確かに望まぬ役を演じてるのであれば、気を抜いた瞬間に、あのような表情にもなるかもしれないな…」


と納得していた。


しかし、俺は逆に不安が募り、

あの日以来合っていない腹違いの弟の事が心配でならなかった。


だが、そんな事ばかりを気にしてはいられない…

これから王子殿下のお茶会へ出席しなければならないのだ。


辺境伯夫妻や長男のエルグ様達に新年の挨拶も済ませたので我が家の馬車で城を目指す。


城の門で、馬車の紋章と招待状を確認され、


「ようこそお越し下さいましたジャルダン男爵様、右手の奥まで馬車でお進み下さい。」


と指示を受けたが…遠い!右手の奥が激しく奥なのだ。


馬車から降りてからも、メイドさんに案内されて暫く歩き、やっと到着したお茶会の会場は、城の中庭で、お妃様と貴族のご婦人達のママ会と、アルサード王子のご学友のお坊ちゃん、お嬢ちゃんの子供会が同時に行われている様な場所だった。


ホークスさんと、セラさんには手前の控室に待機してもらい、現在はナッツだけがお土産を手に、俺とシーナさんと同行してくれている。


俺達を見つけたアルサード王子が、


「ジャルダン男爵殿!」


と片手を挙げて俺の方に来てくれた。


俺は、


「殿下…男爵相手にわざわざ足をお運びにならなくても、私共が参りますので…」


と小声でいうと、王子殿下はニコリと笑い、


「それは、すみません…しかし、ベッキーから聞いております。

ジャルダン男爵殿はベッキーの父と言っても良い存在だと…

義理といえ、息子になる者が義父を慕い駆け寄っただけですので、ご容赦を…」


と、小声で返した。


俺とシーナさんは、お手本の様なご挨拶を殿下にして、ナッツがプレゼントを俺に渡してくれて、


「我がジャルダン村の職人の力を合わせた品です。

どうかお納め下さい。」


と言って、その一斤の食パン程のサイズの箱を殿下に差し出すと、殿下の背後から現れたお付きの方が受け取り、何かしらの鑑定を行ったのちに、お付きの方経由で布に包まれたソレを受け取った殿下は、


「開けても?」


と、目を輝かせて聞くので、


「是非。」


と俺が答えると、王子殿下はリボンを外して中の物を確かめる…

それは我がジャルダン村の技術を集めた傑作、魔石式オルゴールである。


宝石箱の様な箱のフタ部分には小さなステンドグラスがハメ込まれ、フタを開ければ、王子とベッキーさんをイメージした男女のステンドグラスがまるで宝石の様に光を浴びて煌めく…


しかし、この箱の最大の特徴はそこではない。


中に同じ様な筒状のパーツが入っており、


「これはどの様に?」


と聞く殿下に、


「3つある筒のうちのどれでも1つをその中の装置に嵌め込み、筒がズレない様にストッパーを下げると…

どうなるかはお楽しみです」


と、俺は答えを焦らす。


王子殿下は、一回一回、

「これを?」とか「こうかな?」などと確認を取りながらシリンダーをセットしてストッパーを下ろすと、魔法回路へと魔石から魔力が供給されて、シリンダーが回転しだす。


すると、櫛歯を弾き、涼やかな音が鳴る。


楽団が音楽を奏でるパーティーと違い、お茶会はおしゃべりがメインであるが、その会場の中で『さくらさくら』が静かに流れる。


すると王子殿下は、


「えっ、精霊の国の春の歌?」


と言って驚いている。


俺は、


『あぁ、そういう風にベッキーさんは伝えたんだ…』


と理解しながらも、殿下にニコリと微笑みながら頷く。


すると、王子殿下は、


「スゴイ!このフタの宝石で描いた様な絵は、ニンファの湖のほとりだね…

ジャルダン男爵殿…僕にとっての最高の思い出を閉じ込めてくれたんだね…ありがとう。」


と感謝を述べてくれた。


何事かと集まるご婦人方やご学友が、オルゴールに気がつき、


「なんですの?この魔法の小箱は…音楽が流れておりますわ!」


とオルゴールを覗き込む。


それから暫くはオルゴールの周りに人が集まり、お茶会の中心は殿下とオルゴールであった。


よしよし、プレゼントも無事に渡せた…と安心したので、


「シーナさん、一旦控室に戻りましょう。

いつまでも殿下を一人占めしていると目を付けられては困りますからね」


とシーナさんを誘い、俺は王子殿下に挨拶をしてお茶会の会場から去ろうとしたその瞬間に、中庭の入り口を見ながらナッツが、


「マイア様?!」


と、すっとんきょうな声を上げた。


しかし、その声に気がついて、お互いを見つめ合った俺達は、実に数年振りの兄弟の再会を果たすことになったのだ。


俺は固まり弟を見つめ、マイアは一瞬嬉しそうな顔をしたがすぐに死んだようなくすんだ目になった。


多分、俺の事を良く思わない配下の者が側に控えているのかもしれないが、マイアは決心した様に俺に近寄り、


「なぜ、王家主催のお茶会の会場に兄上が?…そうですか…そこの令嬢の使用人にでもなったのですね。」


と俺に声をかけるので、俺は、深々と頭をさげて、


「ナルガ子爵様お久しぶりでございます。

あの時の子爵様からの餞別のお陰で、冒険者になり運良く手柄を立てまして、今はユーノス辺境伯様の元で男爵をしております。

キース・ド・ジャルダンと申します」


と自己紹介をすると、マイアは思考が停止した様に俺を見つめ、そして人目も気にせずに弟は、


「良かった…これで、兄上が狙われる理由が無くなった…」


と唸るように泣き出した。


気を効かせたメイドさんに連れられて別室へと案内されたのだが、途中で知らない男性が、


「マイア様!」


と弟に近づくが、マイアは、


「五月蝿い!お前は母上のご機嫌でも取りに行っておれ!!」


と強い口調で指示を出し、俺達は小部屋へと通された。


メイドさんは、


「ジャルダン男爵様の事は王家の方々より任されておりますので、どうぞこの部屋をお使い下さい。」


と頭をさげて扉の外に出て行った。


マイアは、


「兄上…王家より特別扱いを受けるって?」


と、驚いていたのだが、俺が、


「そんな事より、元気だったかい?」


と聞くと、マイアは、


「ソレを言いたいのは僕の方です…兄上…よくぞご無事で…」


と再び涙を流す。


俺は、


「いやいや、ご無事で安心してるのは俺の方だから。

戦争に行ったんだろ?

ダイムラー伯爵様から聞いたよ…

あっ、紹介がまだだったね。

俺の婚約者のシーナさんで、ダイムラー伯爵家の長女さんだよ。」


と、シーナさんを紹介すると、

更にくしゃくしゃの顔をしたマイアは、


「良かった…本当に良かった…」


と喜んでくれたのだが、すぐに暗い顔になり、マイアは床に両手をついて、


「兄上…いや、もう兄上と呼ぶ資格は僕には無いのかもしれません。

この場で貴方に詫びを入れて、その手で命を絶つべきこの罪人の命をあと二年…いや、一年だけで構いません…時間を頂けないでしょうか?!」


と床に頭を着けながら懇願してきた。


一体何が起こっているのか解らない俺はただ弟を見つめるしか出来なかった…


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