第151話 お茶会の手土産ができるかな?
王子殿下からの招待状を、受け取ってしまった…
もっと早く教えてくれたのならば様々な準備が出来たのにと思いながら、辺境伯様に、
「年明けのお茶会って、すぐじゃないですか!」
と抗議をしたのだが、ユーノス辺境伯様は、
「王家より手紙が着たのは先週だから、私に早く教えろと文句を言ってもダメだよ」
と俺に言っていた。
それからの一週間は、予定通り教会を建てる準備を進めながら過ごし、結局、毎年恒例の辺境伯派閥のパーティーなどは色々考えてしまい、あまり記憶に残らなかった。
新たに派閥に入った、準男爵さんや男爵さん達との挨拶や会話も上の空で愛想笑いをするのがやっとであった。
頭の中では、来月にシーナさんと王子殿下のお茶会に呼ばれている件がグルグルしているし、気が重い…
そんな、ブルーな気分の中でも唯一のグッドニュースは、腹違いの弟のマイアが、無事に初陣を果たしたと、戦地に赴いていたダイムラー伯爵様から教えてもらった事だった。
しかも、初陣なのに敵の軍団長クラスを討ち取ったらしく、なかなかの手柄を上げていたそうだ。
ホッとしたのと同時に、俺より年下の弟が戦地で人間を殺したという事実に、俺は何とも言えない気持ちになっていた。
パーティーの翌日の会議では、ニンファの町で馬車と、蒸留酒の技術指導を受けた派閥の貴族達から
「長旅が楽になった。」
とか、
「春の近隣の貴族家を招いたパーティーで我が領地で作った果実漬け酒を試してみる」
などと報告を受け、まだ旧式の馬車の貴族から、「早く技術指導を…」と、希望する声が上がった。
俺からは、陛下を招いたユーノス辺境伯様のパーティーの余興の1つとして、ニンファの町に教会を精霊ベッキーさんの力で作ると宣伝したので、俺からの報告も終了したし、技術指導の順番などの段取りはジーグ様がやってくれる。
となれば、俺の頭の中は、アルサード王子殿下へのお土産は何を渡そう?…酒、馬車、髪関係商品等々、しかし、とても九歳の男の子が喜びそうでは無い…
お茶会のお菓子を手土産で出せば、お茶会の準備をした城の料理長の顔に泥を塗る可能性まである。
お菓子の現物では無くて、簡単なおやつのレシピを王家にプレゼントして、料理長に作って貰う手もあるが、お茶会のひと話題程度の何かを…と、お茶会に向けて考えを巡らせているので、もう、派閥の会議なんて良いから村に帰って、工房チームと相談したいと考えていた会議もようやく終わり、
ダッシュでニンファの町に馬車を飛ばし、そこからジャルダン村に転移で戻り、その日の内に職人達を集めて、王子様のお茶会に向けての作戦会議を開いた。
残り時間は約1ヶ月で、用意できるプレゼントのアイデアを出し合って貰う中で、黒光り合金のブレスレットや、ティム牧場の駿馬などと色々な意見が出たのだが、どれもこれもこの国一番の金持ちが心底喜ぶが疑問が残る…これは困った…と思っていると、ヒッキーちゃんが、マスタールームで一緒に居るベッキーさんに、
『ベッキーちゃん、王子様とのエピソードとか無いの?
デートの時に何か聞いてないの?アレが好きとか、コレが趣味とか…』
と、インタビューしているらしく俺の頭に声が響いている。
投影クリスタルに映るヒッキーちゃんが急に消えたと信者達三人が騒いでいるので、
「仲間の精霊ベッキーさんとお話をしてるだけですから…」
と説明をしていると、頭の中に、
『え~、何々…ふ~ん。』
等とヒッキーちゃんの相づちが聞こえてきた。
多分ベッキーさんの声はゴニョゴニョとしか聞こえないので、恥ずかしくて小声なのだろう。
すると、投影クリスタルに戻って来たヒッキーちゃんは、白衣のコスプレで、
「ベッキーちゃんから王子様との甘い一時の話を聞いてきました。
もう、甘すぎて虫歯になりそうなのを我慢して聞いた結果、
精霊の世界の歌を聞かせて欲しいと、王子様におねだりされて、ベッキーちゃんが歌ってあげたのが全ての始まりだったと白状しました」
と、甘いエピソードを聞いて来たゾとドヤ顔で報告をした後に、
「これを作りますよ!!」
と言って投影クリスタルにあるモノが映し出された。
そこには手動のオルゴールの映像や設計図が…俺は、
「そうか!!」
と理解したが、集まった皆は、見たことも無いソレを首を傾げながら眺めているので、俺が、
「音楽が流れる道具だよ。」
と説明しても、
「またまたぁ~」みたいな反応で、あまり信じてくれなかったが、こんな時はヒッキー教信者が役に立つ。
「ヒッキー様が仰っているのです。
一度皆で作ってみませんか?」
と、提案してくれて、試作品を作る流れになり、設計図を見せながら部品の機能を説明すると、村の工房チームが分業して試作品作りに取り組み、5日後にはイメージした物よりもはるかに大きいが、中身の部分が出来上がる…
音の鳴る櫛歯がキチンと出来ていれば綺麗な音は鳴るし、シリンダーの凸の位置さえ合っていれば、リズムや音階も大丈夫な筈である。
細工職人のベアードさんが、
「設計図通りの筈ですが…では、動かしますよぉ!」
と言って、手回しオルガンほどの大きさの装置のハンドルをゆっくりと一定の速度で回すと、
櫛歯が弾かれ音楽が流れ出すのだが、何故か、チューリップハットの無口な高身長の男性と、麦わら帽子の台形の顔の茶色い毛布みたいなキャラクターの出囃子がオルゴールから和音で流れ出した。
ヒッキーちゃんの仕業とは解るが、ある意味凄いな…ヒッキーちゃんも、ウチの村の職人達も…と感心する。
設計図に起こした能力もそうだが、その設計図でしっかり再現する能力も凄いと思いながらもリピートされる音楽を聞いていると、ガルさん達が、
「ちゃんと出来ていましたか?
我々は元になった精霊の世界の歌を知らないもので…」
と心配そうである。
俺が、
「物凄く上手に出来ていたよ」
と答えると、村人から、
「この曲は何の曲なのですか?」
と、素朴な質問を受けたので、一瞬悩んだが、
「物作りを司る大精霊から、『色々なモノが作れるか?』という質問と、物作りをする者への応援歌のような曲で…」
と苦し紛れに説明すると、何故か村の職人達は、
「では、これを卓上サイズまで小型化しよう!」
とか、
「魔石を組み込んで回転する魔法回路を作れば自動で動きます。」
とか、
「では、曲の刻まれた管を交換出来る様にすれば…」
などと、意見が飛び出して色々とチャレンジをはじめてくれたのだが、なぜか後日、色々な工房から、例のあの出囃子の鼻唄が聞こえてきて、俺は任せて大丈夫だと信じているが、何故か口からは、
「できるかな?」
と、少し不安に聞こえる言葉が勝手に出てきた…
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