第149話 パン屋の準備と合間のお風呂
ニンファの教会の準備は着々と進んでいる。
それよりもユーノス辺境伯様に急かされているのは、天然酵母パンの店『ユーノスパン』の開店準備である。
アガルトの店は既に石窯オーブンや、陳列棚に、ジャルダン村で錬金術師の三名とハリーさん達が作ったガラス張りの陳列ケースが配備してあり、
ケースの中に熱を出さない魔石ランプが取り付けてあり、贈答用のキャラメル等を飾る予定である。
パン屋の奥の階段を昇った二階には、行商人のミックさんの弟子になった元解放奴隷の方々が担当する雑貨屋があり、パン屋と雑貨屋の売り子として、ニンファの町から元サービス業をしていた住人を雇用して敷地内転移で連れて来ている。
勿論ちゃんとダイムラー家と話をつけて有るので、町の入場料は商会として払っているのでご安心を…
そして、肝心のパン職人は、ブレンダさんの弟子にあたるユーノス辺境伯家の料理人さんをロッソさんが三名引き抜く形で各地のパン屋の職人として雇い入れた。
ロッソさんは、
「ユーノスパンの職人はユーノス辺境伯家から出すべきです」
との理論で、辺境伯様を納得させて沢山いる料理人の中でもパンに興味がある者をピンポイントでヘッドハンティングしてくれたのだ。
サイラスと、アガルトにセーニャの三店舗からスタートして、
ジャルダン村でブレンダさんが商品開発と新人指導を引き受けてくれる事になっている。
ちなみにだが、本店はジャルダン村ではなくて、ニンファの町に置く予定である…
これはユーノスパンという名前から、ナナムルの街発祥っぽくしたいのだが、ナナムルの街での商売が、何かとしがらみが多く面倒臭い事になったので、
『もう、ニンファの町発祥でも良くない?』
という事になったからである。
ニンファの町の大工さんがノリノリで建ててくれているパン工場にも、パン職人を早く配置したいのだが、支店が完成しているが、本店は店舗も職人もまだという何ともややこしい状態である。
現在、ジャルダン村でパン職人の見習いさんが練習で焼いたパンはニンファの町の学校給食や、町営工房の食堂に使われる予定で、見習いさんにも給料が出るので、ニンファの町の元料理人が数名、パン職人になることを目指してジャルダン村へと引っ越して来ている。
早く一人前になって、他の町に新しいユーノスパンの店を構えられる様にしてあげたいのだが、とりあえずパン屋の営業が最優先なので、サイラスの町にはハリーさんとカモイさんの大工コンビを派遣して、
一等地の酒場だった居抜き物件の改装を依頼し、キッチンサイドは、パン屋へと生まれかわらせて貰い、
ホールだった場所に壁を作り、石鹸などの雑貨を売る店に大改造中である。
店舗さえあれば、雇われ店長を仮で置いて、ジャルダン村で焼いたパンを配達機能で届て販売する事も可能だからだが、そんな大急ぎの作業の最中、大工の二人は最近錬金術師さんと作ったステンドグラスに感動して、店の出入り口の扉横の壁に、ジャルダン商会の1つ実のオランの木を型どったステンドグラスを埋め込んでいた。
『あぁ、こんなお洒落な事したんだ…』
と感心していたら、制作用の木製のパネルが有れば複製は簡単らしく、錬金術師さん達は、
「教会のステンドグラスの練習だから」
と、既に完成している教会の大型ステンドグラスの製作用パネルにはまだ手をつけずに、小型のオランの木のステンドグラスを数枚仕上げている。
なので、キソップの親方達まで、練習で出来上がったオランの木のステンドグラスをジャルダン村の商会本部等に取り付けたり、セーニャに建設中のパン屋にもステンドグラスを取り付けたりとプチステンドグラスブームが訪れている。
ちなみにだが、勿論ステンドグラスの特許も取ってあり、名義は錬金ギルドが持っている事になっているが、特許使用料は、ほとんどジャルダン村に入る事になっている。
切子技術にヘアピンなどの髪どめ商品…果てはバネ機構まで、新たな特許で不労所得が入るが益々村は忙しくなり、働けど働けど、やることの方が増えて行く。
これは癒しが必要だ!
とセーニャの町にキソップの親方と三名の弟子の大工組と一緒に、俺とガルさん親子とナッツで転移し、
親方達が、ガンガン、トントンとパン屋と雑貨屋を建ててくれている裏で、こっそりと俺とナッツとガルさん親子の四名と、ヒッキーちゃんとベッキーちゃんのナビゲーターコンビで癒しの温泉計画を開始した。
先ずは冷泉の湧く場所を範囲回収で土を取り除き、壁生成であらかじめ作っておいた井戸の様の囲いを地中に埋め込み土を回りに戻して固定する。
小川になる程の水量が沸いていたので、手押しポンプを取り付けるまでも無く、井戸の様な石の囲いの中に湧き水が満たされていく。
村のお風呂のように、湧水井戸からの取水路で湯船に水を貯める様に、マスタールームに意識を飛ばして、取水用の水路と、冷泉を使い炊事や洗濯をする為の階段状の水場を作り、冷泉の湧水井戸から壁生成などを使って整備してから、循環パイプ用の穴の空いた湯船を壁生成で出して、
簡単な目隠し壁も生成してからマスタールームを出て、ガルさんとニルさんが循環パイプを取り付ける用意をしている間に、俺はヒッキーちゃんに頼み村から耐火レンガと、耐火石粘土と耐水石粘土を送ってもらい、
四人で焚き口の釜戸と、パイプの固定をしながら、敷地整備で床や排水路を作り、そして、粘土が乾けば温泉の出来上がりである。
準備から3日がかりの工事の成果を確かめる為に、取水口の板を上げると、冷泉が水路を通り湯船に貯まり、湯船が満たされたら釜戸に薪をくべて燃やしていく。
緊張しながら様子を伺うが、釜戸も湯船も順調に機能して、少し欲張って大きめの湯船にしてしまったのだが、風呂は一時間もせずに良い湯加減になった。
もう、こうなれば頑張った者の特権で早速お風呂担当の四人で温泉を楽しむ事にした。
屋根はついていないが、三方に目隠し壁があり、唯一開けた北側からは秋の山が望める。
弱酸性のお湯は柔らかく、肌もスベスベとしている感じがした。
「あぁぁぁぁ…村のお風呂とは、一味違うね。」
などと俺達が唸っていると、休憩中の親方達が様子を見に来て、
「キースの旦那、そりゃないぜ!」
と言って現場もそっちのけで温泉に入ってきた。
そして現在、少し狭いが男八人が湯船に浸かり、山を眺めている…
「こりゃ良いな…」
としみじみ言っている親方だが、別荘の方からベテランメイドさんが、
「親方さーん、お茶の用意が出来ましたよ…って?、あれ?、親方さーん!」
と呼ぶ声がする。
すると弟子の三人がニヤニヤしながら、
「親方、愛しのスーザンさんが呼んでますよ」
と茶化す。
親方は茹でダコの様に真っ赤になり、
「ばっ、バカ野郎!」
と、弟子を叱るが、その騒ぐ声に気づいたメイドさんが、
「そこにいらっしゃいましたか、皆様、お茶の準備が出来ておりますので…」
と、お茶の誘いをしてくれたメイドさんに、面白そうだからという理由で、俺は、
「お風呂を作ったんですよ。
特別な湧水のお風呂でお肌に良いですので皆さんもどうですか?」
と誘って見ると、スーザンさんと呼ばれていたベテランメイドさんは、
「あら、旦那様からの御誘いなんて嬉しいですが、お肌に良いお風呂と言えど、屋根もない所で肌を出すのは少し気が引けますわ」
と、ベテランならではの返しが返ってきた。
するとキソップの親方は、ガバっと湯船から立ち上がり、
「3日ください、屋根と窓もつけてみせます。」
と叫ぶ。
するとスーザンさんは、目隠し壁の向こうから、
「あら嬉しい、この別荘にはジャルダン村みたいなお風呂が無くて困ってましたの。
3日後でなくても構いませんから無理しないでくださいね。
お風呂が出来たら一緒に入ってお背中流しますよ親方さん」
と、クスクス笑いながら去って行った。
なんだか良い感じの返しだな…メイドで無くて飲み屋でも任せたらオッサンホイホイになりそうな感じだ…と、感心していると、キソップの親方は、
「二日で仕上げるぞ!!」
と温泉の効果とは関係なく、血行が良くなっている様子で、鼻息も荒く弟子を引き連れて風呂から上がり、去り際に、
「キースの旦那、明日と明後日の二日だけでいいから、ハリーとカモイも貸して下さい。」
と、凛々しい顔で親方が頭を下げたが、
『混浴の為に凄い熱量だな…』
と、少し引いてしまう俺だった。
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