第147話 協力者が増えました


夏のある日、俺はサイラスの町のジョルジュ様の屋敷に来ていた。


料理人のロッソさんと、我が家の知恵袋ホークスさんと、俺とナッツの四人で…

いつもよりヨソ行きの服装の俺が、


「パン職人のブレンダさんをウチに下さい!」


とプロポーズの様なセリフを言いながら、ジャルダン村で作ったパイやクッキーの入ったバスケットを差し出している。


これは、数日前にロッソさんが、


「ユーノスパンってパン屋を開くのならば辺境伯領の柔らかいパン職人第一号のブレンダの嬢ちゃんの意見を聞かない手は無い!」


と、二人でブレンダさんに、


「何か良いアイデア無いかな?」


と、軽い気持ちで相談したのが原因で、ブレンダさんが、


「パンの技術は既に他の料理人に伝授出来ております。

キース様にご恩返しが出来る時を待っておりました!」


と言い出して、ジョルジュ様に退職願いを出した事が発端である。


なので、引き抜く形になったジョルジュ様にご挨拶に来たのだが、ジョルジュ様は


「キース男爵…ヒドイじゃないか…」


と不機嫌である。


俺は変な汗をかきながら、


「大事なパン職人を引き抜く事になり…」


と頭を下げるがジョルジュ様はタメ息をつきながら、


「それは仕方ないから良いんだよ…」


と言って少し呆れながら、


「キース君、長男のジャニスから報告が入ってるよ…辺境伯様の騎士団の念話士を使って、緊急かつ詳しくね。

なんでも、ダイムラー伯爵領と王都の隣でパン屋と雑貨屋を開くらしいね…

なんでサイラスでは馬牧場だけなんだい?確かに草競馬のアイデアは良かったけど…お店は?!」


と拗ねている。


『いやいや、すっかり忘れていた。

お客さんが増えているから石鹸とか買える様にと、奥方のローズ様に圧を掛けられていたんだっけか?』


などと思いだした俺は、草競馬のイベントも無事にこなして盛り上がっているサイラスの町にも店を構える事になった。


即日、商業ギルドマスターのマイトさんと、ルイードさんが呼び出され、ジョルジュ様が見守る中で物件を購入させられた。


しかも場所はお屋敷の近くの一等地で、どうやら俺に売りつけて店を出させる為に既に用意してあったらしい。


そんな事も有りながら、何とか引き抜きの件も収まり、パン職人のブレンダさんが我が家のパン屋さんに就職する運びとなったのだった。


ジョルジュ様の屋敷から帰る時についでに錬金ギルドに寄ろうと決めて、


「板硝子の件で少し錬金ギルドに寄りたいけど良いかな?」


と、ホークスさん達に言ってギルドの建物に入ると、なぜか商業ギルドの二人も一緒に錬金ギルドについてきた。


『帰る方向が同じだから、たまたま一緒かと思っていたのだが、違ったか?』


と、不思議に思う俺が、


「あれ、お二人も錬金ギルドにご用ですか?」


と聞くと、マイトさんが、


「大きな商談の香りがしまして、同じギルドの長として少しはお役に立てるかと…

なに、錬金ギルドマスターとは飲み仲間なので…」


と、ひょんな所から助っ人が現れて、錬金ギルドマスターの〈インタス〉さんまでスムーズに話が進んだ。


この夏のから徐々に各地で馬車用の水晶板硝子の注文が増えて、ガラス専門の職人が喜んでいるらしくて、その前から何度も水晶板硝子をガルさんが頼んでいたのを思い出したインタスさんに質問され、本当は秘密なのだが、最近ガルさんと、インタスさんと、マイトさんが行きつけの店で飲んだときに、ついポロっと馬車の事などをバラシてしまったらしく、罪滅ぼしも兼ねての助っ人らしい…

マイトさんは、


「すみません…ガルのヤツと一緒に若い頃からの飲み仲間でして…

誓ってインタス以外にはバラシてません…どうかお許しを…」


と頭を下げている。


ルイードさんまで、


「上司の守秘義務違反です…私も罰を負います…」


と頭を下げているので、俺は、


「では、罰として、サイラスの商業ギルドも錬金ギルドもジャルダン村の秘密協力機関として動いてもらいます」


と告げると、錬金ギルドマスターが、


「えっ!ウチのギルドは、とばっちりじゃないですか?」


と、不満そうに言う。


サッとマイトさんがインタスさんの隣に移動して、


「あの酒を作っているのも、このキース様だ…

この意味が解るよな…」


と耳打ちすると、

急に錬金ギルドマスターは魂を売り払ったかの様に、


「キース様、何なりとご命令を」


と従順になった。


何か怖い…と怯える俺に、インタスさんは一枚の紙を渡してきた。


それはサイラスの町に循環パイプなどを納品に帰るガルさんに俺が頼んで、


「こんな感じの豪華な瓶ってないかな?」


と、贈答品として蒸留酒を渡せる様に小分けにする瓶を探してもらう為に見せた投影クリスタルに映した高級な洋酒の瓶のスケッチである。


インタスさんは、


「私も元は錬金術師の端くれ、このような複雑な形の瓶は見たことがない…幾つか職人の工房を巡り、作れないかと頼みましたが、実物でも有れば複製も出来るが…

と言われて、職人が試行錯誤した試作品を何本かガルのヤツに渡しましたが…」


と言っていた。


しかも、錬金ギルドマスターはガルさんに、


「悪くは無いが、アレ見た後だからな…」


と、言われたのが悔しかったのと、単に酒が気に入ったからという理由から、インタスさんはジャルダン村の名産品製造計画に一枚噛んでくれる事になったのだ。


まぁ、特許の秘密をバラシたガルさんは、巡り巡ってファインプレーだったのでお咎めは、今回に限り無しにしてあげよう…

商業ギルドには、今から村で作る商品や技術の特許に関してのアドバイスと特許の管理をお願いし、

錬金ギルドには、この世界の特殊な技能を持つ錬金術師と呼ばれる職人さんとの橋渡し業務と、俺の知らないマジカルな技術を教えてくれる事と、俺の知っている科学的な技術を伝えて、商品を試作してくれる事になった。


この日から週に一度、夜にジャルダン村に2つのギルドのマスターが集まり意見交換などをメインとした会議を数時間した後に、ガルさんと二人のギルドマスターの酒盛りがお決まりの行事となった。


すると他の村人まで、新たなおつまみの試作品だと加工肉を持ち寄ったり、野菜で作ったピクルスの試食だと言って集まりだすという、なかなかの大がかりな飲み会になり、これは如何なものか…と俺が考えていると、

酒の席で決まる商談や、酒飲みにしか解らない着眼点もあるらしく、飲み会の次の日は食品加工チームのやる気が違い、俺が教えてないハーブソーセージを自らのアイデアで産み出した。


錬金ギルドが加わった事で、よく分からないポーションなどを混ぜたカクテルなども飲み会の度に作り出され、一番の力作は毒消しポーションを混ぜて仕上げた、『二日酔い知らず』というカクテルである。


ある意味これは大発明かもしれない…

毒消しポーションのデトックス効果で、翌朝までにスッキリと酒の毒素を排出してくれる。


難点は翌朝の寝汗と膀胱がヤバくなる程の尿意ぐらいであるが、どこかの町に酒場を経営する場合は、宿屋とセットになった酒場は止めておこうと思う…

何故なら、ベッドがビシャビシャにされそうだからである。


だが俺は、新たなイベントから新たなアイデアが生まれる村になった事を少し喜んでいたのだった。

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