第146話 欲しいのはアツい眼差し


ようやく王都での全ての予定が終了した。


ただでさえクソ熱い真夏にこんな人混みの王都にはもう用事は無い。


ユーノス辺境伯様はまだ城で用事をするらしいので、ユーノス辺境伯のご一家に泊めて頂いたお礼を伝えて、俺達は先に村へと帰る事にした。


と言っても二時間程の移動でセーニャの別荘から、ヒュンとするだけで一瞬で戻れてしまうのでセーニャの別荘用に王都までの旅に使った馬車を一台と馬を一頭残して俺と王都まで旅したみんなを村へと転移させる。


結局、ベッキーさんの嫁化はしばらくお預けで、王家の迎え入れ体制が整ってからになった。


あれだけ必死に集めた一万ヒッキーポイントの納期が先送りになり、


『あんなに焦って頑張らなくて良かったのかも…』


と、少し残念に思う結果になった。


ちなみに学校を見学したサーラちゃんは、テストをパス出来なかったメンバーとはいえ、彼らのあまりのレベルの低さに、


「村で頑張って勉強するから本を買って欲しいです」


とおねだりされたので、魔法関係の本や図鑑などを沢山購入しついでに村に図書館を作る計画にしている。


そして、俺が村に戻りやることは、

先ずは、秋にナナムルに行く前のロッソさんとパン屋の相談をする事と、ジャルダン商会の支店の店員と販売する商品の相談…それと、工房チームを集めてヘアピンなどの髪飾りの試作…これにはヒッキーちゃんとベッキーさんにもリモートで参加してもらって、投影クリスタルで前世の髪飾りなどの情報を検索して貰おう。


俺が知ってる物や見たことがある物に限るが…まぁ、何とかなるだろう…

二十歳前後はまだ髪もフサフサあり、髪を伸ばしたり、脱色したりと色々していたから自分が使わなかったにしても、髪留めなどの知識はそれなりある。


ただ、前世の後半の髪については触れないで欲しい…良い子のみんなにキースからのお願いだよ。


最後は教会をニンファの町に建てるぐらいかな?

ニンファの工房は村で新商品の試作が済んでから順に増やして行って徐々にお金が稼げる体制を整える事にして、アガルトのお店が完成したらセーニャの別荘の増改築にとりかかる…


『う~ん、なかなかハードだな…俺ではなくて、皆が…』


と思いながら俺は、年明けからかなり頑張ったから少しゆっくりと稼ぎ過ぎたポイントを使って、


「ベッキーさんが精霊の力で作った」


と、後世まで語り継がれる様な教会を壁生成で作りだす為の設計図をマスタールームで、前世や今世の建築をヒッキーちゃんやベッキーさんの力を借りて検索しながら作る事にした。


教会の設計の合間に会議を持ってパンについてはロッソさんが、


「キース様、一度一緒にサイラスとナナムルに行きませんか?」


と誘われ後日同行する事にし、ジャルダン商会の支店については、ミックさんに預けた新人の解放奴隷チームを、客商売の練習も兼ねて交代でアガルトやセーニャに出来る支店に店員として配置したり、

ニンファの町でも人材を探す予定にしているが、可能であればサンチョさんを学校担当から商人の育成にまわしたいと村の商会の責任者であるビビアンさん達との会議で決定した。


商品開発にしても工房の皆を集めて、


「こんな時に役立つ、このような物を作りたいのですが」


と、説明をするだけでプロ達が相談して試作品を作ってくれる。


俺は結局パッと見では、村では色々な会議に出ては人にお願いだけして、自宅で昼寝を繰り返す村長になってしまっている…


『だって仕方ないじゃないか!壁生成の設計図は、マスタールームでしか書けないのだから』


と思う俺だが、


『しかし、見ているがいい村のチビッ子達よ…いくらホープ君世代が増えて、「また寝てる」との辛辣な意見が増えようと、

今回はニンファの町に建具等を発注する為の製図を俺自ら書いて、やる時はやる事を見せてやる!

あぁ、ウチの村の村長さんは貴族だったが、それよりも立派な建築家だったと語り継がせてやるんだもん!!』


と意気込み、数日がかりで大きさはそんなに派手では無いが、石造りの三角帽子の経験も生かして装飾のある、お洒落なとんがり屋根の教会の設計図が、マスタールームのモニターに完成した。


礼拝堂や教会関係者の住居に、治療院も開ける大きめの別棟を合わせたモノが8000ポイント余りで作れる見積もりが出た。


あとは、わざと子ども達が見えるであろうマイホームの一階の窓辺で、入り口のドアや、窓枠などの設計図を書いて大きさ等を書き込んで過ごす。


『村のチビッ子達に、やってる感を見せつけるのだ…』


と、俺は狙っていたのだが、しかし時期が悪かった…

真夏の照りつける太陽の下で遊ぶチビッ子など居るはずも無い…皆は、井戸の側や木陰で遊んでいる。


明るいが暑いマイホームの窓際で汗と涙を流しながら、こうなったらマスタールームに引きこもって、ガラスの知識を調べてステンドグラスも作ってやる!!

と俺は悔しさを噛み締めていた。


その夜…暑くて寝苦しいはずだが、マスタールームに行っている間は完全に過ごしやすい気温で過ごせる。


まぁ、マスタールームから戻れば実際の俺は風呂上がりの様にビチャビチャになっているほど汗をかいているのだが…

しかし、マスタールームに居る間は心地良いので調べ物がはかどる。


俺はメインモニターを使って色ガラスやステンドグラスの資料を調べれば調べるほど、無理かな?と思ってしまう。


前世の様な器材も無いし、そもそも今世の硝子は錬金ギルドが一括して扱っており俺もどういった技術で作っているかすら解らない。


ただ馬車に使う水晶板硝子をはじめ、ポーションに使う青いの硝子瓶や、ワイン用の緑や透明の瓶も有るし、茶色等の瓶も見た事がある。


つまり、原料や製法は違うが色付き板硝子自体は制作可能なはずだ。


板硝子さえ有れば、細工職人も鍛冶屋も木工職人もいるので、硝子をカットも出来るだろうし、鉄枠で硝子を固定したり、木枠でランマの様な透かし彫りをして空いた空間に硝子をハメる方法もあるな…と思いつき。


どうせ明日ジョルジュ様に会いにサイラスに行くから、錬金ギルドに寄って相談してみよう!と決めてから俺はマスタールームをあとにする。


居間で目覚めた俺は、いくらかひんやりしている石造りのマイホームだが、暑さにやられビチョビチョの実を食べたビチョビチョ人間だったかな?と心配になる程の状態でロッキングチェアから起き上がり、脱水を恐れテーブルの上の水差しの水を飲んでから、


「風呂に入って着替えよう…」


と呟き移動を始めたのだった。

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