第145話 ウチの温泉の泉質は?
セーニャの別荘を購入して数日…
現在俺はお忍び訪問をされている王子殿下と宰相様に近衛騎士団長さんと、王家のアイテムボックス持ちの方などをセーニャの別荘でもてなしている。
もてなすといっても、ベッキーさんの投影クリスタルをセーニャの別荘に出して、王子殿下との別荘デートを楽しんでもらっている間に、近衛騎士団長さんとアイテムボックス持ちの方を敷地内転移でジャルダン村へとご案内して、溺死した地竜を持って帰ってもらう作業をしているだけだ。
流石は王家に仕えるアイテムボックス持ちさんは、あの地竜を仕舞い込んで尚まだアイテムボックスに入るそうなので、熟成してあった酒樽も2つと、新作のハーブ石鹸も王様へのプレゼントに持って帰ってもらった。
内緒で近衛騎士団長にも、販売用に試しに瓶詰めしてみた試作品の酒を渡して、アイテムボックス持ちの方には運び賃代わりにキャラメルの缶をプレゼントして再びセーニャに戻り、王子殿下と楽しく過ごしているベッキーさんの邪魔をしない様に俺とナッツはスコップを担ぎ敷地内の小川の側を掘り返しに向かう。
川に沿って歩いて、野生の勘を頼りにナッツと二人で川のフチを掘り返す…
すると、水が掘った穴の底面からにじみ出てうっすら溜っていく。
しばらく見ていると、洗面器程の穴に顔が洗えそうなほど水がたまり、そこにそっと手を浸けてみる俺の真似をしてナッツも手を溜まった水に浸けている。
なんだろう…温泉では無くて、これじゃあ冷泉だよな…うっすら冷たいよ…
まぁ、沸かし直せば温泉になるかな?と少しはガッカリしている俺に、ナッツは、
「キース様は何を探しているのですか?」
と、うっすら冷たい水を触りながら聞くので俺は、
「えっ、知らないでついてきてたの?」
と驚くと相棒は、
「デートを眺める趣味はありませんし、キース様が楽しそうにされていたので、お供しただけですけど?」
と答えるので、俺はナッツに温泉の説明をしてから、
『思っていた暖かい物では無くて普通より少しだけヌルい水が出てがっかりしている…』
と伝えると、相棒はその水をすくって見つめながら、
「うーん…姿や形のあるモノならば私のスキルで探せたかも知れませんが、水ですし、しかも地中ですからね。
この小川の水と、この水溜まりの水が同じかどうかが解れば、同じ水脈かぐらいは分かりますけど…」
と、呟く。
俺はそのセリフに驚き、
「えっ、ナッツ水脈とか知ってるんだ!」
と、この世界であまり出てこない高度な知識に思わず口をついた感想だったが、ナッツは、
「知ってますよ!我が家では常識の範囲です」
と、バカにされたかと思ったのか、少し膨れっ面で、
「1つ、一家をまるごと殺す時しか井戸に毒を撒いてはイケない。
1つ、周囲の井戸の味を確かめ、他の井戸に水脈が続くと思われる場合は毒を撒いてはイケない
ってヤツですよ。」
というが、
『知らん、知らん、そんな怖い家訓なんて!』
と引いている俺に、ナッツは、
「こちらとあちらが同じならば、もうこの場所ではこの水しか出ないし、もしも違う物であれば他の水脈が混ざっているか、ここならば山水と合わさっている可能性もありますね。」
と推理している。
確かにそうだな…と、納得した俺は、
「じゃあ、味見でもするか?」
と意見を出すと、ナッツに猛反対された。
「魚が住めない水を口にするなんて!!」
と…
『言われてみれば、大丈夫とは思うが俺も少し怖い…なんか水の成分とか解れば良いんだけど…』
と考えた俺は、
「あっ、ベッキーさんは今忙しいけど、ヒッキーちゃんに監視カメラで鑑定して貰おう!」
と閃き、
マスタールームにいるヒッキーちゃんに呼び掛けると、
『マスター(モッチャモッチャ)
何かありました?(モグモグ)』
と脳に直接返事がくる。
ヒッキーちゃん…マスタールームで食事を取りながらお仕事するのは良いが、奴は俺の呼び掛けの後も食事の手を止めてないのが音でわかる…
マジで脳に直接咀嚼音とかやめて欲しい…
やはり、管理人さんにお行儀をインストールする方法を聞くしかないのかも知れないなと呆れながらも、ベッキーさんが楽しくデートしている間、一人でマスタールームでお仕事しているヒッキーちゃんの頑張りも理解している俺は今回はグッと我慢して
「ヒッキーちゃん、この小川とこの穴の中の水の成分って解る?」
と聞くと、
『はい、(モゴッ)しばらくお待ちください…(ゴックン)』
と言って、食事を食べ終わったのか中断したのか解らないヒッキーちゃんが、何やら作業をしてくれたらしく、彼女はすぐに、
『解りました毒性無しです。』
とだけ答えてくれた。
俺が、
「えっ、それだけ?成分表示とか出てない?」
と聞くと、ヒッキーちゃんは、
『マスター、異世界の鑑定機能がスーパーのお水の成分表示みたいに丁寧にミネラルとかまで教えてくれる訳ないですよ…』
と、若干メタいセリフを吐いている。
俺は、
「せめて、酸性かアルカリ性かだけでも解らないか?」
と、食い下がるとヒッキーちゃんは、
『もう、しょうがないなぁマス太君はぁ~』
と、未来の世界の猫型の青いヤツ風の声を出して、
『アントシアニン~!』
と叫び、村で収穫が始まったブルーベリーを保管倉庫から配達してくれた。
俺は、すぐにこのブルーベリーの使い道を理解したが、ここはヒッキーちゃんに乗ってやろうと決めて、
「ヒキえもん、ブルーベリーなんか出してどうするんだい?」
と返すと、ヒッキーちゃんは、
「ぐぅふふぅ~。
擂り潰して汁を使うんだよぅ~」
と楽しそうにドラってくる。
「汁をどうすれば?」
と俺が泣きつく様に聞くと、
『アルカリ性だと青っぽく、酸性だと赤っぽく色が変わって…
って、マスターこれ続けないとダメですか?』
と、途中で飽きてしまったヒッキーちゃんのセリフに、
俺は、
『乗ってやったのに!』と少し苛立つが、隣のナッツが一人で脳内と実際に会話している俺を凄く可哀想な人を見る目で見守っていたので、
「コホン」
と咳払いをしてナッツに色々と説明した後で、セーニャの別荘のキッチンから実験に使えそうな食器等を持って来て二人で科学実験を始めた。
すると、ブルーベリーの汁はどちらも同じ位の赤っポイ色へと変化して酸性で有ることを示す。
小川の水も掘った水溜まりも同じ様な色合いから、熱いお湯が山水と混ざっている確率は薄くなってしまったが、沸かし直せば問題ないし、何より『毒性なし』との判定ならば有害な成分は入っていないのと、強い酸性では無くてお肌に優しい弱酸性で有ることが解っただけでも上等である。
我が家の別荘には、『弱酸性の安全な冷泉が涌き出ている』と判断したのだが、これで、沸かした温泉以外に、この水で何ができるだろうと悩みながら、ナッツに、
「王子殿下って泊まったりするのかな?」
と素朴な質問してみると、ナッツは、
「1つ屋根の下で過ごしても、王子殿下とベッキーさんならば大丈夫でしょうね…色々と…」
と答えた…
『まっ、まさか!
ナッツはサイラスの町に赴任中にエリーちゃんとは、大丈夫じゃ無い事になってるの!!』
と一瞬頭を過るが、俺は何故かそれを聞く事は出来なかった。
なぜなら、その流れでシーナさんとの事を聞かれると…その…恥ずかしい!
とても、いっぺん死んだ事のあるオッサンの二回目の青年期と、社会人ぐらいの女性のお付き合いにしては…純情過ぎるぐらいアレで、
何かにつけて『パパ活』みたいなフレーズが俺の頭にチラつくのは確かだし…
ただ、この日以来俺は、心の中だけでは相棒を『ナッツ先輩』と呼ぶことにした…
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