第144話 別荘を買っちゃった


買っちゃった…

もう、ついでだからと例の曰く付きの別荘と魚の住まない怪しい小川一帯の土地もまとめて購入してやった。


しかし、商業ギルドの職員さんは自分がオススメしておいて、


「本当に良いんですか?」


と念を押す始末だったのだ。


一帯の区間全部まとめて、広さとしては他の庭付き別荘が3つほど建ちそうな広さの土地は、1/3ほどの価格で購入出来たのでウチとしては実質一軒分の値段で初期状態の村程の土地が手に入った計算になる。


『なんだか儲けた気がするよ…やったね!』


と喜ぶ俺は現在、別荘指定をしてからとりあえずこの別荘勤務の上級ガーディアンゴーレムのハチロー君をポイントで交換して、ジャルダン村でガルさん親子にヘルタイガーの骨の魔鋼の装備を作ってもらい装備が出来上がりしだいこのセーニャに配属となる。


それまでは臨時配属の喋れるオネェ系ゴーレムのシローちゃんと、セーニャの別荘担当の六台の小型ガーディアンゴーレムが警備にあたってくれることになる。


セーニャの別荘からジャルダン村へ転移して、旧ゲインズ男爵家の執事をしていたトムさんに、セーニャの町に別荘を購入した事を告げると、


「旦那様…まさか?!」


と驚くので、


「あぁ、旧ゲインズ男爵の別邸ではないよ」


と先に伝えた俺に、トムさんはホッとした様子で、


「あの娼館のような建物でなくて良かったです」


とポソっと漏らしていた。


『管理していた方も恥ずかしかったんだね、あの建物は…』


と思いつつも俺が、


「魚の居ない川の物件を購入したよ」


と追加で報告すると、トムさんは慌てて、


「だ、旦那様!大丈夫なのですか?」


と心配してくれた。


だいぶ前からあの土地は呪われているとの噂があったらしいのだが、俺が、


「まだ色々調べてからだけど、多分あそこは呪われているのでは無くて、良いモノが隠されているんだよ」


と告げると、トムさんは少し考えた後に何かを決心した眼差しで、


「その別邸の管理を私共にお任せいただけないでしょうか?

セーニャや王都などでの情報収集も私の配下に行かせる事ができます。

それにジャルダン村のお屋敷はA子さん達が完璧に掃除をされておりますので、一緒に流れ着いたベテランメイド達の腕が鈍ってしまいそうなので是非…」


と言ってくれたので、

先ずはトムさんとナッツ達の里出身の夫婦に庭師さんと、三名のベテランメイドさんにもセーニャの別荘に赴任して貰うことにした。


俺が、


「ゲインズ男爵の息子のパック君はどうするの?」


と聞くと、トムさんは、


「パック様のお世話は村に残るベテランのメイド達もおりますし、同年代の元騎士団の子ども達と共にジャルダン村にて元気に育っていただき…

大変厚かましいお願いでは有りますが、もしも、パック様に魔法適性が有りましたら、王都の学校へ行かせては頂けませんでしょうか?

学費は我々がお支払出来る様にパック様が七歳になるまでに…」


と、恐縮しながら話しているので、俺は全てを聞く前に、


「パック君もウチの村の大事な子供ですから、学校に行く場合は学費は任せて下さい。

もしも、俺の様に魔法適性が無くても、村でしっかり勉強してもらい、パック君がなりたいモノを目指す手伝いはさせてもらいますよ」


と伝えるとトムさんは、


「ありがとうございます…奥様との約束が果たせそうです…」


と言って泣いていた。


旦那はあんな感じだったが、奥様は良い人だったのだろうとしみじみ思いながら、トムさんの肩をポンポンっと叩き、トムさんを一人にしてあげる為にそっと部屋をあとにした。


しばらくして、やる気十分なトムさん達セーニャ滞在組がマイホームに集まり、敷地内転移での引っ越しが始まった。


別荘では彼らに先ずは現在一軒だけある建物に寝泊まりしてもらい、草引きなどから始めて貰うことにした。


敷地内が綺麗になってから大工チームと本格的な改修に入る予定でいるのだが、その前にパン職人と、パンのメニューを決めなければならないので、とっとと地竜を陛下にプレゼントして、お店作りに全力を注ぎたい…

などと、次なる予定を立てている俺の横では、セーニャの別荘の掃除をメイドさんがテキパキと開始し、庭師さんは水を得た魚の様に庭に無造作に生えている夏草と格闘をはじめている。


俺は、ヒッキーちゃんとベッキーさんと連携しながら、トムさん達の指示で、村で使っていた皆さんの寝具や荷物を敷地内回収と配達機能を使いセーニャの別荘へと運び込んでいる。


ありがたい事にセーニャの別荘は、どこぞの大貴族が建てた物件だけあり、下手をすれば数十年使われて居ない筈だが、良い材料を腕の良い職人が使っているらしく、雨漏りや破損すら見当たらなかったので、住むだけならば手直し無しでも大丈夫な状態であった。


俺達が、セーニャの家でゴソゴソしていると、呪われた川の屋敷を売った事を気にしてか、商業ギルドの職員さんが上司のギルドマスターを連れて様子を見に来たのだ。


職員さんは、


「もう、こんなに草刈りを…」


と驚いているので、


「助っ人に来てもらいましたからね」


と答えた俺に、ギルドマスターの紹介をしてくれたので、俺もトムさんを紹介すると、ギルドマスターとトムさんは顔見知りだったらしく何やら話が弾んでいるようであった。


ギルドマスター達が盛り上がっているのを横目に、俺にこの別荘を薦めた商業ギルドの職員さんはコソコソっと俺に近寄り、


「売った私が言うのもアレですが、もしも、出ても勘弁してくださいね…」


と言ってきた…多分、霊的な話である。


俺は、


「まだ解らないけど、凄いのが出る可能性が有りますね…」


と返す…勿論温泉の話なのだが、しかしそれを聞いた職員さんは、


「ヒィィィ、脅かさないで下さいよ…」


と涙目である。


そして、


「御免なさい、いつもは風が吹き抜けるセーニャですが、風が無い時にこの物件から異臭がしたり、冬場にこの家だけ霧がかかった様になる事が有るんです…

いつも決まって年に何度かの風が全く無い日に異変が…言い出すタイミングを逃してしまい、ギルドマスターに相談したところ、(一刻も早く伝えにいくぞ!)と言われご報告に参った次第です」


と頭を下げる職員さんに、俺は益々温泉の存在を確信し嬉しさのあまり、ニコリと職員さんに微笑みかけると、職員さんは何を勘違いしたのか、


「命ばかりは…」


と、ペコペコ謝る職員さんだった。

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