第143話 遂に見つけたかも
無事に教会関係者のニンファへの派遣依頼を終える事ができた。
しかし、今回の神官長の腰痛の事もそうだが、この世界は魔法を使えない人間が多いからなのかポーション類が充実している。
魔物に引っ掻かれた傷は勿論、骨折や肉離れなど整形外科に行かなければならないモノでもハイポーション等を飲めば治るのだ…まぁ、高いけど…
だけど、保険を使わずに治療を受けたと思えば、しっかり治るしむしろお安いのかも知れない。
解熱ポーションや解毒ポーションなんかもあるので、風邪も案外すぐ治る…多分この世界の解毒ポーションは中和ではなくて体の毒素を体外に出す方式なのか、ウイルスっぽい病気にも使えるみたいだ。
解毒ポーションの唯一の欠点は即効性が無いので、生理現象のいずれかで体外へと出す迄に死に至る様な毒とは運と根性の勝負となってしまうのだが、それを差し引いても十分な効果だ。
ギックリ腰で数週間寝込み、2ヶ月程は本調子が戻らなかった前世の俺に届けてやりたい…
もしかしたらヘルニアや脊柱管狭窄も治ったかも知れないし、あんな手術をしなくても…
と悔やんだところで仕方ないので、あと王都でしなければならない事2つを片付けに行く事にした。
先ずは王都での拠点探しであるが、ここ数日の物件探しの間にユーノス辺境伯様から、
「王都でもユーノスパンを販売するのだろ?」
とキラキラした目で言われたので、
「はい…」
と答えてしまった。
まぁ、確かにユーノス辺境伯派閥の宣伝効果はダイムラー伯爵領の店の比ではないだろうが…
そんな事もあり、王都でもパン屋と雑貨屋が出来る場所を探しているのだが、王都は土地も広いが、それ以上に人が多くて手頃な物件が無い…
出来れば貴族も一般人も買いに来れる商店街に出店したいのだが良さそうな場所は勿論、一本裏の道も空きが無いのだ。
あちこち探しまわり辺境伯様の屋敷にクタクタになって戻り、辺境伯様達に相談すると、
「エルグ、近隣の町ならば今はどの町が良いかのぅ?」
と長男に聞いてくれた。
エルグ様は、この王都のお屋敷で辺境伯様の代理を何年も努めているので、周辺の事情にも詳しいようで、エルグ様は、
「王都に別宅が購入出来なかった貴族が沢山別宅を構える町が王都の西に有ります。
王都より馬車で二時間と、多少不便では有りますが、冬の社交のシーズンに便利なのと、夏も比較的涼しいので避暑に来る貴族も居る高台の町です。」
と、隣町をお勧めしてくれた。
確かにそこならば厩舎付きの物件も有るかも知れない…早く拠点を作って、王様にベッキーさんをヨロシクの気持ちを添えた地竜を一匹プレゼントすれば王都での仕事は全て終了する。
そして翌日、バーバラさんとサーラちゃんの魔法使い師弟コンビは王都の学校の見学に辺境伯様夫婦と、ジーグ様の奥様と一緒に向かわれた。
ちなみにだが、ジーグ様の奥様はジーグ様が娘さんのノルンちゃんにベタベタするのが悪影響だということで、
「ノルンは私が見てるから貴方は仕事を頑張って!」
と言って一緒に学校のある王都までついてきたそうだ。
辺境伯様達が孫の学校の先生方に挨拶がてら、ついでの見学らしい。
現在学校は夏季授業と言って、テストさえパスすれば実家に帰って冒険者として腕を磨いたり、学校に有る機材や実験室で魔道具の研究をしたり出来る期間だそうだ…
なので現在学校で真面目にお勉強しているのはテストにパス出来なかったお子様達…
サーラちゃんを見学させるには如何なものか?とも思うが…
まぁ、あちらは辺境伯様ご夫婦にお任せして、俺とナッツとホークスさんの別荘購入チームと、シーナさんとセラさんのついでに観光チームは一緒に隣町のセーニャという高原エリアにある町を目指した。
セーニャの町は少し風の強い場所で、夏は涼しいが冬はかなり寒いのが厄介な場所ではある。
しかし、大雪になることは稀らしく、たとえ大雪になっても社交に向かう貴族達の為に城から騎士団が派遣されて、道の雪を魔法や人力で退かしてくれるので王都迄の道だけは確保されるそうだ。
『なんと、除雪までしてくれる町…最高じゃないか!』
と道中セラさんからの情報を聞きながら到着したセーニャの町は、東西に街道が通り南には農村が広がり、北には高い山がそびえ立ち、その麓の辺りには庶民の家よりは少し立派な家が点在している。
町を囲う壁は少し頼りないが、王都からも近く、騎士団が定期的に危険な魔物を討伐してくれるし、冒険者もかなりの人数居るために、あの壁を壊して入って来る近隣の魔物などは既にお肉や素材にされているらしい。
王都よりも物価が安いので、好んで住む上級冒険者パーティーの家もあり町としての防衛力も高く、彼らは他の町へクエストに向かうので俺達が作る予定のパン屋の宣伝力にも申し分の無い立地である。
俺達は、早速町の商業ギルドに向かいこの町の物件を案内してもらいに行く…
この町の別荘地は、男爵さんなどの比較的下の貴族の別荘が多くて、財政難や、手柄を立てようと戦争で無茶をして亡くなったりと様々な理由で空き物件が豊富らしく、少し豪華な庭付き一戸建ては、冒険者パーティーの拠点等にも購入されるのだが、それも、やはり冒険者…死んだり、解散したりすると、空き物件に戻ってしまう。
商業ギルドの職員さんは、
「セーニャの町は空き家が特産品ですね。」
と言って笑っている程だ。
確かに見栄っ張りな貴族ならば、土地を買い新築を建てて、財政難で売っていてもおかしくはないし、別荘がこの町に増える一方だな…と思いながら、俺は職員さんに、
「オススメは有りますか?」
と聞くと、
「そうですねぇ…」
と言って3つの候補をあげてくれた。
まず1つ目は、
北の山から涌き出る山水が敷地の中に流れる川付きの物件…釣りも出来るらしく、これにはナッツが食いついた。
そして2つ目は、
豪華な建物のある物件だが、前の持ち主がウチの村にも居る方々の元ご主人様、ゲインズ男爵の別荘らしい…
建物は立派だが、お取り潰しで事故物件扱いで買い手が居ないのだそうで、これには、値段が安いのでホークスさんが興味を示した。
最後は、
こちらも敷地内に湧き水の小川の流れる物件だが、この川には魚が全く居ないのだそうだ。
大きな川にすぐに合流するのでそちらまで歩けば魚は釣れるらしい。
冬場でも凍らない小川なので洗濯などはわざわざ共同の井戸場に行かなくても良いのがメリットらしいが、気持ち悪がられてなかなか買い手が現れないのだそうだ。
しかし、元々はどこぞの大貴族の秘密の妾の邸宅だったとかで、敷地は広いし周辺に物件も無いので見晴らしも日当たりも良いらしいが、
『気持ち悪い川を恐れて近くに家を建てないだけじゃないの…』
とも思うが、この物件を職員さんは猛プッシュしてくる。
たぶん理由は厄介払いだろうが…
『てか、オススメの三つの内、二つが曰く付きなのだが?』
と、腑に落ちない点はあるが、とりあえず三軒の内覧に向かう。
確かに1つ目の物件は、川の近くで涼しそうではあったがご近所も多くて圧迫感があった。
2つ目は…少しはセンスを疑う外観に、推していたホークスさんまで、
「これは…無しですね…」
と呟いているほどで、ゴテゴテが過ぎてアダルティーな宿屋の様な外観なのだ。
そして、3つ目なのだが、ナッツも含めホークスさんとセラさんも気味悪がっていたが、シーナさんは、
「眺めが最高ですね。」
と気に入った様子だった。
しかし俺は、既にこの物件にすると決めていたのだ!
俺は、敷地内の草をかき分けて、魚の住まない小川に向かい水に手を入れて確信した。
『冷たいが、雪解けの小川の冷たさではない!』
と…井戸のような地下水が湧き出した場所ならば少し暖かいのも解るが、注目すべきは魚が住めない小川という点だ。
俺は、遂に見つけてしまったのかも知れない…温泉ってヤツを…
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