第142話他人の痛みが解る人
昨日は謁見でゴリゴリと精神を削られ、ユーノス辺境伯様の王都の屋敷に泊めてもらい俺は死んだ様に眠った。
そして、スッキリと目覚めた本日は教会にナッツとホークスさんと一緒に来ている。
ニンファの町に教会を作るので、教会関係者さんを派遣して欲しいとのジーグ様の手紙と、大金貨のお布施を渡に来たのと、教会関係者さんに教会を建てるにあたり注意する点を聞きに来たのだが、俺は、過去に教会に行ったのは、祝福の儀の時の一度きりだったので、昨日の城に続きアホ面で、
「ほへぇ~」
っと見上げる大きな教会に入ると、長椅子が並ぶ礼拝堂の奥に三体の木像が並んでいた。
神様は三柱居るのか…この世界…と思いながら俺が、
「誰が誰か解らないな…」
と呟くと、神官長さんに会うための手続きを終わらせたホークスさんが、
「おや?何でもご存知のキース様が神の名前をご存知ないとは…少し意外ですね。」
と、言いながら戻ってきた。
俺は、神様の木像を眺めながら、
「生まれた家の書庫には宗教系の書物が無かったもので…読んだこと無いんです…」
と答えると、俺の生い立ちも知っているホークスさんは、
「これは、大変失礼な事を言ってしまいました…」
と恐縮していた。
俺は、
「いいの、いいの、気にしてないから…」
などと話していると教会の方が、
「神官長がお待ちですのでこちらへ…」
と言って個室に案内される。
部屋には優しそうなお爺ちゃんが座っており、
「皆様よく参られた…無作法で申し訳ないが年のせいで腰を痛めておりまして、立ったり座ったりが辛いので、座ったままで失礼を致します」
と言って頭を下げるので、俺が、
「神官長様、腰痛で有れば背中を丸めるのも苦痛なはず…無理はなさいません様に。」
と言うと、神官長様は、
「この痛みを理解しておられるとは…お若いのに…」
と俺を哀れんでくれる。
俺は、その痛みを前世で嫌というほど知っているのだ。
知っているからこそ、少しはマシになればと思い、腰痛に使えるサラシの巻き方を教えてあげると、神官長様は、教会の人を呼び布を持って来させて、
「誠に申し訳ないが、この者に今一度説明をしながら、実際に巻いて頂く事は出来ないであろうか…」
と頭を下げては苦悶の表情を見せる。
俺は、
「ほらほら、また…痛い時には無理しないの。
サラシぐらい巻いてあげますから…」
と言って、教会の人に説明しながら、痛みを我慢しながら立っている神官長様には壁に手をついてもらい、手早くサラシを巻き上げると少しはマシになった様子で、
「布を巻くだけでだいぶ楽になりました…」
と言ってくれたが、俺は、
「治った訳では無いので無理は禁物ですよ。
神官長様…ちなみにですが、どんな瞬間から痛みが出はじめましたか?」
と、神官長様に腰痛の原因をきくと、神官長様は、
「お恥ずかしながら、朝に思いっきりクシャミをした時にビシリと痛みが走りまして…」
と答えてくれた。
ギックリ腰なら癖になると厄介だが、圧迫骨折ならそれ以上にヤバいな…と思い俺は、
「神官長様、ただの腰痛ならば良いのですが、大きなクシャミの後に痛みが走ったのならば背中や腰の骨にダメージがある可能性が有りますので、ハイポーションを飲むことをお勧めします。」
と告げると、神官長様は、
「ハイポーションか…あれは自分の治癒力を強制的に高めるクスリじゃから、老体には堪えてしまい、回復はするが2日程疲労感で動けなくなるのだよ…」
と渋る。
ならば教会にいる治癒師の方にと提案すると、どうやら治癒師の回復魔法は外傷など、あからさまな怪我や解りやすい症状の部位に『治れ!』と魔力を集めるものらしく、レントゲンの様に患部が確認出来ない場合は、『ここら辺治れ!』と魔力が分散してあまり治らず、結局ポーションで仕上げとなるらしい。
『確かに、ダイムラー伯爵様との手合わせの後の治癒師さんも、最後はポーションを飲むように言っていたな…』
と思いながら俺は神官長様に、
「2日寝込むのなんて屁でもないです。
痛みが酷くなってしまったりしたら、数ヶ月…下手をしたらずっと痛いんですよ!
我々は今日は帰りますから、神官長様は2~3日お休みにしてハイポーションをすぐに飲んで下さい。
治せるクスリが有るのですから、先ずは飲んで様子をみて下さいね」
と言って、教会の人に、
「急に動こうとしない事と、起き上がる時は一旦横向きになって、足をベッドから下ろしつつ腕の力も使って起きる様に注意してあげて下さい」
と伝言をして教会を後にした。
結局何をしに来たのか解らないままユーノス辺境伯様のお屋敷に帰り、エルグ様やセラさんの力を借りて王都の土地を探してもらったりしながら3日過ごして、再び教会へと足を運ぶとシャキシャキと歩く神官長様が現れ、
「お待ちしておりました、知恵と治癒の女神メディカ様の使徒様…」
と知らない神様の手先認定されていた。
神官長様は、
「昔と違いハイポーションで数日間寝込むのを恐れておりましたが、使徒様に、2日寝込む事は屁でも無い…下手をしたらずっと痛いと言われて、確かにそうだと納得しました。
そして、丸2日寝込んだ間に神々からのお告げを聞いたのです。
あの青年に手を貸して、難民を助けてあげなさい、と…
もしかして、皆様は難民を受け入れておられる精霊の町の方々ですか?」
と言われた。
確かにニンファの町の関係者であるが…俺の方がそんな事を言ってもらえる神様に全く面識が無い…
ん?…いや、一人それっぽい人を知っているが…神官長様の言っていたメディカ様とやらは、あの三柱のどの神様だろうか?
自称管理人さん = メディカ様
なのだろうか?…と疑問は尽きないが、とりあえずはニンファの町に教会関係者の派遣と、教会を作るのに必要な事を聞くと、神官の派遣は問題なく聞き入れてもらえ、教会の建物は特に決まりはないが、内部には必ず三柱の神の像を置くことが決まりらしい。
まずは、筋肉ムッキムキの力と武術の神バルド様と、その奥様で知恵と治癒の女神メディカ様に、二人の娘さんのルヴァンシュ様は努力と発展の女神様らしい…
この神様ファミリーがこの世界の唯一の神様で、他の国でもこの三柱の神様を信仰しているみたいである。
大きさに関係なく、この三柱の像があれば教会としての条件は満たされると、
「腰の調子が良くなった!」
と喜びながら腰を回している神官長様に教えてもらった。
また痛めないでね…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます