第140話 ダイムラー伯爵領にて
ニンファの町からユーノス辺境伯様の馬車隊の後方に並び北を目指している。
王家にプロポーズの返事を届ける為に、この国〈シルフィード王国〉の王都〈クレスト〉を目指しているのだ。
我が家の馬車はサスペンション付きの馬車が2台で、俺とナッツにホークスさんと、護衛任務という名目でCランク冒険者になった村の女性冒険者チームであるシーナさん率いる村の華のメンバーが、里帰りと旅行を兼ねて同行している。
シーナさんとバーバラさんは、ダイムラー伯爵領都アガルトの街の案内をお願いしているし、
セラさんは何年も王都の辺境伯邸でエルグ様と働いていたので王都の案内も頼める。
サーラちゃんは、卵鳥を任せられる仲間も増えたことだし、一度は王都を見てから魔法を学ぶ為に学校へ入りたいか本人にもう一度聞いてみるつもりだ。
サーラちゃんに国のエリートコースに行ける道も提示してあげたいからね…
そして、ニンファを出て馬車を走らせること3日、ダイムラー伯爵領の領都アガルトに到着した。
毎年の様に王家が辺境伯家に行き来するので、町や村が一定間隔に存在していて流石に寝泊まりに関しては問題なかった。
野宿を見越して馬車にキャンピングカーの様な仕組みをキソップ親方の大工組と試行錯誤したのに、少し残念ではあるが、シーナさんに野宿をさせなくて良かったという気持ちもある。
ダイムラー伯爵領自体はそれほど大きくないが、中央からの街道の上に位置する街で、辺境伯領の他の町に繋がる道の分岐点でもあるので、かなり栄えていて、立派なレンガ積みの壁に守られた街だった。
街の兵士さん達の動きもキビキビしていて、流石は辺境伯軍を束ねる将軍様の街だな…と感じる街へと入っていくのだが、辺境伯様の馬車隊にくっついて旅をしているので、Bランク冒険者のカードを見せて入場料が無料になるヤツをまだ一度もしていないのだけが悔やまれる。
現在、ダイムラー伯爵は辺境伯軍を率いて戦争の真っ最中であるのだが、ではユーノス辺境伯様は戦争なのに戦地に行かないのかな?…と、思い聞いてみた事があるのだが、
「王都に攻め込まれそうならば出陣するが、私の一番の仕事は、戦争をしている北部や中央への食糧の供給だからな…」
とユーノス様は言っていた。
『なるほどである…』
そして、街を抜けた馬車の列はダイムラー伯爵家へと到着したのだが、やはり将軍のお屋敷というのか騎士団の建物や練習場の奥にある砦の様な建物だった。
主力部隊は戦地に行っているはずだが、若い騎士団見習いが木剣を振り技を磨いている。
「こんな環境ならば、シーナさんが剣を扱えるのも納得だよ…」
と呟くと、一緒に馬車に乗っていたシーナさんは、
「剣技は淑女の嗜みですよね?」
と真顔で聞いてくる。
えっ?俺が知らないだけで、淑女って全員ロングソードをブン回せるのかな?…と不安になり御者をしてくれているナッツに馬車の運転席側の小窓を開けて、
「剣を扱えるのは淑女の嗜みなの?」
と聞いてみると、ナッツは、
「私の里でもそんな感じでしたよ。」
と…これは、アンケートを取る相手を間違えたかも知れないが、もう、そういうモノだと納得することにした。
何故なら、見習い騎士の端にシーナさんの妹のエトランゼちゃんやローラちゃんも革の部分鎧を身に纏い、木剣を振っていたからだ…
あれがダイムラー伯爵様の教育方針だろう。
そして、屋敷に到着すると三人の奥さま達が出迎えてくれて、挨拶をしてお土産を渡し、屋敷の中でお茶会となったのだが三人から来る話題は、
「子供はいつ頃ですか?」
「結婚式はどうします?」
「疲れきった殿方も奮い起つ媚薬が…」
などと、直球勝負の話が続く…
ついでに、ユーノス辺境伯ご夫婦まで俺にグイグイ聞いてくる。
あと、シーナさん…「媚薬とは?」って食いつかない…
しかし、確かにシーナさんはもうすぐ25歳だし、この世界では急がないとヤバい年齢なのかも…ニンファの町に教会を建てて欲しいと要望があったから、王都の教会に神官様の派遣を依頼して、教会が完成したらにしようかな?
まぁ、後でシーナさんと相談だが、その前に俺には大事な商談がある!
シーナさんが実家に手紙を出す時に一緒にお願いしてもらっていた別荘予定地をアガルトの商業ギルドマスターさんの案内で見に行くのだ。
ダイムラー邸にやって来た商業ギルドマスターは、スラッとした紳士で、秘書に指示を出して何枚もの資料をテーブルに並べ、
「この度は土地をお探しとの事で、用途の指定がありませんでしたので少し数が多くなりましたが、どれも貴族の方にも喜んでいただけるであろう物件でございます。」
と、自信がありそうに語る。
並べられた資料には、
『旧○○商会』や『旧○○準男爵邸』などと、立派な建物が書いてある。
なぜかダイムラー家の奥様方も参戦して、
「この建物は大通りに面してません。」
「こちらは、石鹸などの販売が出来る店舗付きでしてよ。」
「あら、こちらはキッチンも完備しているのであの甘味を販売する事も…」
などと、色々な意見を出しているしユーノス辺境伯様達まで、
「ダイムラー家だけズルいぞ、ナナムルにも店を出せ!」
と言い出す始末だった。
辺境伯様は、サイラスの町で行われた草競馬にも誘って貰えず、報告のみ聞かされて大変拗ねておられたし、最近やたらと「ズルいぞ!ナナムルでも…」みたいなフレーズを耳にする…
『お子ちゃまか…』
と思わなくも無いが、お世話になっているので我慢する。
そして物件は、お財布管理を任せているホークスさんの意見も聞いて、ダイムラー家に近い大通りから一本中に入った店舗付きの商会だった建物を内見に行く事にした。
社員寮と厩舎もついた物件で、少し古いが家具なども完備しているので、別荘指定して村から大工さんやメイドさんを派遣すれば、修理と掃除が行き届き、数ヶ月で何かしらの店舗として営業が出来そうではある。
俺達も満足な物件だが、一番満足していたのはダイムラー家の奥様方で、
「家から近いから直ぐに買い物に来れますね。」
と喜んでいた。
元の店舗が二階建ての大きめの店舗だったので、カフェと雑貨屋を作っても良いかも知れない…
などと考えながらこの物件に決めてその日の内に手続きをした。
そして、ダイムラー家で1泊した翌日、この日は1日シーナさん達にユックリと実家を楽しんでもらう為に俺とナッツとホークスさんだけで、昨日購入した物件に行くと、
『別荘指定可能です。』
とのアナウンスが頭に流れる。
俺が『指定します』と頭の中で答えると、機械的な音声から、いつものベッキーさんの声に変わり、
『マスター、新しい別荘の指定を確認しました。
マスタールームへの移動が可能です』
と、報告してくれる。
俺は、ベッキーさんに、
「転移に丁度良い大きさの小部屋って有るかな?」
と聞くと、
『従業員の個室が、丁度の広さです』
との返事があり、俺は6つ程並んだ小部屋の一番奥を転移部屋と決めて、一旦ジャルダン村に帰り助っ人を呼ぶ事にした。
と言っても、キソップ親方と弟子の三人の大工達と、旧ゲインズ男爵家のベテランメイドの一人であるオーリーさんの五人である。
キソップ親方達には店舗などの改修工事と、オーリーさんには掃除と皆の食事の用意をお願いした。
五人には、
「明日から三週間程度村との連絡等が取れなくなるので、今日の内に必要な物を用意して下さい。
もしもの時用にお金も渡しておきます。」
と言って、
木材や寝具などを村から配達機能で飛ばしてもらい、
皆が掃除などの作業に取りかかる中でマスタールームへと意識を飛ばし、アガルトの防犯用に小型ガーディアンを2セット、計6体を交換した。
防犯カメラと侵入者撃退装置がひとつになっているのでガーディアンゴーレムを配置しなくても小型のガーディアンチームだけで大丈夫だろう…
敷地内しか活動出来ないシステムだし、小型なら邪魔にもならないはずだ。
さぁ、どんな店にするか皆で相談だな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます