第135話 地竜を倒す悪巧み
ナッツの聞いて来た情報では、ターゲットの地竜は頭から尻尾の先まで30メートル程の個体で、一般的な地竜は背中の鱗は恐ろしく固く、武器をなかなか通さないのでツルハシ等で鱗を剥がしてからでないとダメージを与える事も困難らしい。
『この世界にドラゴンキラーみたいなドラゴン系の魔物専用武器でも無い限り、接近戦は遠慮したいな…』
と、打開策の見えない報告に嫌気がさす。
普段であれば縄張り争いで怪我をしていて、開いている傷口を狙えば良いらしいが、今回は無傷の綺麗な個体で生きている地竜にとりついてツルハシで鱗を剥がすなど無理な話である。
比較的鱗の柔らかいとされる腹も空も飛ばない地竜は見せる事すらまずなく鉄壁の防御力であり、唯一の欠点は足が遅いぐらいである。
地竜の狩りは巣穴等を作る他の魔物の巣穴を破壊して中の住人を食べているので、誰かの巣を襲っている間に自分の巣や縄張りを放棄して少し走れば逃げきれるとの判断からかグリフォンの時の様に大移動と共にスタンピードを起こすことは稀らしく、
現在は、古の森の中程の窪地を地竜が巣にしていて、そこを拠点に辺りの魔物を食糧にしているらしいのだ。
しかし逃げきれると解っていてもワザワザ面倒臭いヤツに近付く魔物はおらず、巣を持たない魔物は他所へ移動し、巣で子育てをしている魔物も殆ど巣穴から出て来なくなったり、また巣を放棄して他のエリアに移動したりと古の森の狩り場の生態系は滅茶苦茶になっている…そんな訳で地竜の居るエリアは勿論滅茶苦茶になっているが、周囲の他のエリアにも逃げ出した魔物が溜まり、いつもは居ない強い魔物が居たり、強さは変わらないが数が多過ぎて取り囲まれりと、サイラスの町から狩りに向かえる範囲の古の森全体が仕事にならない状態なのだそうだ。
「冒険者ギルドが困ってるのは理解したけど…無傷の地竜なんてどうやって倒すんだよ…」
とボヤきながら俺は、現在マスタールームで地竜の住み処へと敷地を伸ばす作業をしている。
折角貯めたポイントを使う羽目になってしまうが、俺には少し考えている事があるのだ…
そのためにこの無傷の地竜を出来るだけ無傷のままで倒したい。
問題は虎バサミも使えないほど立派な足の持ち主であり、バリスタも効くか怪しい鱗の持ち主なので、いつもの俺の作戦では倒せないのは確定している。
俺が、
「サイラスの町から近い狩り場でドンパチする訳にもいかないし…さてどうするかな?」
と、モニターとにらめっこしているとベッキーさんが、
「マスター、1つアイデアがあるのですが…」
と、言って地竜を倒す方法を提案してくれた。
淡々と話すベッキーさんの作戦を聞くと、思わず俺は心の中で、
『ベッキー…恐ろしい子!』
と白目で呟いてしまった。
なかなかにイヤらしい作戦を聞いたヒッキーちゃんまで悪い顔になり、
「旦那ぁ、それでしたら良い場所がありやすぜぃ…」
と言ってモニターにとある場所を映しだす。
それからはもう、悪代官と越後屋の密談の様に地竜が嫌がる方法を試行錯誤するのだが、
『昔、悪代官になって正義の味方を屋敷で返り討ちにするゲームがあったな…』
などと俺はどうでもいい事を思い出しなから作戦の下準備を開始した。
出来るだけヒッキーポイントを使わないように、範囲回収や配達機能をフルに使い準備を整えて、ナッツにも作戦を伝えて、
「失敗すると、もしかしたら街に向かう可能性もあるので、もしも街に近付いた場合はナッツも出撃してよ」
と俺が言うとナッツは、
「キース様、一応準備はしますがその作戦ならば大丈夫でしょう…
しかし、恐ろしい事を考えましたね…」
と、ドン引きしていた。
その後、当日は作戦エリアに近付かないように冒険者ギルドにナッツの方から連絡してもらい、俺達はマスタールームで地竜討伐作戦の当日までに繰り返し手順の確認と練習をした。
そして作戦開始の朝がやって来た。
マスタールームのモニター前に座り、監視カメラの映像やマップで周囲を確認すると、古の森の作戦エリアの近くに冒険者達の反応がある…
「もう、冒険者ギルドには危ないから近付くなって言ってあるのに!」
と、俺は出鼻をくじかれて少しイライラしながら、ヒッキーちゃんに頼んで投影クリスタルで注意に行ってもらう。
モニター越しに現場を確認していると突如現場に現れたヒッキーちゃんが、
「ここは危ないですよ。」
と注意喚起すると冒険者達は、
「もしや、ギルドの情報にあった精霊様でしょうか?」
と、ヒッキーちゃんに問いかける。
ヒッキーちゃんは「精霊様」と呼ばれて、まんざらでもない雰囲気で、
「あなた達は?」
とだけ聞いて肯定も否定もせずに話を進める。
冒険者達はヒッキーちゃんに深々と頭を下げて、
「我々は冒険者ギルドより作戦の進行を確認し、もしもの場合はギルドへと報告に走る任務を受けております。」
との報告を受けるとヒッキーちゃんは、
「これより先は、我が主とその配下の者達が地竜と戦う戦地になります。
ここから確認するのは構いませんがこれ以上は近寄らない様に願います」
と言う。
そしてヒッキーちゃんは、
「向こうにも居ますわね」
と言って投影クリスタルを別の場所に飛ばす。
なぜか冒険者達は消えたヒッキーちゃんを確認した後で、何かに祈りを捧げてから持ち場に着いた。
ヒッキーちゃんは別の偵察部隊にも注意喚起し、また、「精霊様」と言われてノリノリのヒッキーちゃんはやる気スイッチがオンになった様で、
「マスター、ベッキーちゃん!サクッと殺っちゃうよ!!」
と俺たちにも気合いを入れ、そして作戦は開始された。
俺はモニターに映る窪地の真ん中で天敵もなくグッスリ眠っている地竜に向けて麻痺ガスの罠を設置し、
イチロー達を窪地へと配達すると、あらかじめ打ち合わせた通りにイチロー達は窪地の底へと駆け出して行った。
頼んだよ皆…と、イチロー達の姿をモニター越しに追いかけながら祈る俺だった。
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