第134話 疑問に思う春


4月末日…

俺は相変わらずな生活をしているが国の貴族達の一部は戦支度をして戦地に向かっている頃である。


5月の終わりまでに砦等へ配置を済ませ、翌月から戦が本格的に始まるらしい…

それを思えば父上達は各地の貴族達の軍が集まる前に先乗りして、砦の掃除でもしている間に敵に取り囲まれたのではないだろうか…などと思える。


5月の末近くには、念話スキル持ちからの一報で父上と兄上とナルガ子爵家の多くの者が戦死したと報告が入った事を考えれば異様な時期に戦死したことが解る。


『誰かの陰謀で敵に差し出された生け贄』


と、言った方が納得できそうだ。


そんな、色々な意味で危険な戦場に今年16歳になる腹違いの弟が出兵するのだ…複雑な気持ちでモヤモヤしている。


いくらナルガ家があのテカテカ軍務卿の派閥といえど、成人したての青年領主を先代と共に兵士団を殆ど失って数年なのに戦地に駆り出すなど普通ではない…


『出来る事ならば死んで欲しく無い…』


という気持ちが大きいが、やはり昔の事もあり実家の事だからと少し冷めている自分もいるのも確かである。


ナッツからの話や去り際の手紙…俺の置かれていた環境など、確かに命を狙われていたのかもしれないが家族として接した時間がやはり少な過ぎるのだ。


色々モヤモヤしているので、ユーノス辺境伯様と今年の夏に王都まで行った時に家でも購入して別荘指定すれば秋に戦争が一旦終了して戻ってきた弟に会いに行けるかも知れない。


もう、ナルガ家を奪う恐れのない他家の男爵だから命を狙われる必要も無い筈だ…

あぁ、でもベッキーさんの婚約の事で危険な行為は禁止されるからな…などとグルグル同じような事を考えながらマスタールームからの極めて安全な狩りを続けている。


俺はユーノス辺境伯様から身を守る為にもレベル上げはするように言われたが生身で狩りに行くのは禁止されている。


ホークスさんの報告で、ガーディアンズが倒しても俺に経験値が入るのを知っているからだが、安全にレベルが上げれると知ったダイムラー伯爵様からは、


「ズルいスキルだ!」


と散々羨ましがられダイムラー伯爵様は、


「今回の戦が終わる頃には、さぞかし強くなっておるのだろう?!…これは、手合わせするのが楽しみだ!!」


と言っていたのをユーノス辺境伯様に、


「また興奮してキース男爵に怪我をさせるから当面の間は、手合わせも禁止だ!」


と注意されていたぐらいだ。


確かにレベル的には同じぐらいかも知れないが、実戦経験の差やソードマンのスキルに、相手はまだマジックエッジなどの魔法も使うのだからダイムラー将軍にはどうやっても勝てる気がしない…止めてくれた辺境伯様に感謝だ。


そんなこんなで午前中の狩りも終わり、シーナさん達と一緒にロッソさんの作ってくれた昼食を食べたら村を一巡りし、その後書類仕事を軽く済ませてから、再びマスタールームでニンファやティム牧場などの遠隔地の報告を受ける。


本当ならばジャルダン村の報告もマスタールームで受けれるが、これは村の子供たちに少しでも働いている俺の姿を見せたいからだ。


しかし、客観的に見たらずっと寝ていて昼飯だけ食べて村を散歩してからまた眠る…

なんて自堕落な生活なんだろう…凄いスキルだけど…


『管理人さん何とかなりませんか?』


と、何処にもやり場のない思いを胸に俺はサイラスの町からの報告をナッツから小型ガーディアンのカメラ越しにマスタールームで受けている。


モニターの向こうのナッツは、


「キース様、なんでも冒険者ギルドが高ランク冒険者を集めてクエストするらしいのですが…」


と報告してくれた。


ナッツの話では、地竜が一匹古の森の比較的浅い場所で目撃されたらしい。


ドラゴンの血筋の地竜さんは、飛ばないし、ブレスも弱い…というか吐けない個体もいるドラゴン家の下の方の種族で、たまに古の森の奥から現れるが大概はサイラス近くに来る迄に幾多の縄張りを横切り、多種多様な敵と戦いボロボロになりながら町に近づいた所を冒険者達が束で襲いかかり、声以外の全てを有効活用するという数年に一度あるかないかのオイシイ獲物らしいのだ。


しかし今回はその地竜さんがほぼ無傷でピンピンしているので参加者が全く集まらないらしくて、どうやら愛しの彼女が困っているみたいなのだが…


『知らんがな…』


と思う反面、何となく…何となくでは有るが、


『最近の俺の間引き行為が、地竜さんを無傷で町の近くまで行かせた?…』


と俺の頭を過るってしまった…


『いやいや、そんなはずはない!

だって、色んな種類をまんべんなく少しずつだから…』


と自分に言い聞かせるが、やはり少し引っ掛かる。


ナッツも、


「地竜がいて通常の狩りも出来ないらしくて困ってるらしいんですよ…」


と、多分ではあるが他の冒険者ではなくてギルド職員の彼女が困っているから何とかしろと言っている。


たしかに冒険者が狩りに行けなくなって他の町に移動してしまっては、冒険者の口コミでサイラスの町の草競馬を広める手段が無くなってしまう。


なので俺はイチロー達にヒッキーちゃん経由で相談した結果


「是非殺りたい!」


との意見がイチロー達から返ってきたので、ナッツには、


「解ったよ、ギルマスにも相談してきて…俺たちで一度アタックかけるから、詳しい情報と…あと、ダメだった時の為に備えて貰って。」


と指示を出すと、ナッツは、


「ではすぐに相談してきます!」


と、言って走って行ってしまった…


『馬で行けばいいのに…』


と俺が思いながらも、黒光り装備で馬の様に早く走りエリーちゃんの元へとダッシュする相棒の背中をモニターで眺めていると、ヒッキーちゃんが、


「流石はシュガーちゃんのお姉さんだ…天然を装っていますが、なかなかの策士…ナッツさんは尻に敷かれますね。」


と言っている。


ベッキーさんが、


「是非とも殿方に上手にお願いをする方法を教えて頂きたいですわ…」


と、モニターの向こうのナッツの必死さを見て未だ見ぬナッツの愛しのエリーちゃんの能力に憧れている。


しかし王子様も既にベッキーさんにメロメロなので、下手にお願いすると良からぬ噂が立つかもしれない。


俺は、


「ベッキーさんは、王子様にお願いするんじゃ無くて、なんでも自分で解決出来る王子殿下の強いパートナーを目指しなさい…」


と言っておいた。


王子様までナッツ化してしまったら、


「王子を誑かす魔女め!」


みたいな流れも考えられる…怖い、怖い…

魔物より中央の人間関係の方が恐ろしいよ…あれ?

引きこもり過ぎて人間恐怖症も発症したのかな…俺…

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