第132話 プロポーズの行方


もうすぐ八歳になる男の子からのプロポーズ…前世であれば、微笑ましいエピソード程度で終わる場合もあるがこの世界、特に上位の貴族家では普通にある事らしく、七歳から通う学校にて見つけた相手と婚約を交わす事などはザラにあるらしい。


しかも、一般人の子供の口約束とは違い王族の場合はプロポーズまでに色々な関門があったと思うので、バックに居る宰相さんや国王陛下夫妻も了解した上での本気のヤツだったのだろう…

俺は散々悩んだ翌日に寝不足気味でニンファの町に飛ぶとジーグ様が俺を見るなり、


「待ってたよ!急ですまないが、父上達が待っているから…」


と、一時間ほど馬車に揺られてナナムルの辺境伯様のお城へと移動した。


『ジャルダン村からニンファまでは一瞬なのに…』


などと思いながらも辺境伯様の元に到着すると、パーティーに参加した辺境伯派閥の貴族の皆さんも領地へ帰らずに俺を待ち構えており、何とも物々しい雰囲気で出迎えられた。


昨日から俺を待っていたらしく、俺が到着して席に座る前にしびれを切らせたユーノス辺境伯様が、


「おぉ、待っていたぞ、ジャルダン男爵。昨日の話は聞いておるか?」


と聞いてくる。


席に案内されて着席しながら、


「昨日…とは?」


と俺が聞くと辺境伯様は、


「ジーグ、話しておらんのか?!」


とジーグ様を叱っている…

それをみかねた隣の席のダイムラー伯爵様が、


「キースよ、昨日王子が町の守護をする精霊様に求婚されたのだ」


と教えてくれた。


俺は、『あぁ、その事か…』と納得しながらも、


「それならば、本人から聞きました。」


と答えると、

それを聞いたユーノス辺境伯様はジーグ様を叱るのも忘れて、ガタっと立ち上がり前のめりで、


「キース君…で?精霊様はなんと?!」


と…皆の前で俺を君づけで呼んだのも気にしていない様子で真剣な顔で聞いてくる。


俺は、圧に押されながらも、


「はい、本人も喜んでましたよ…」


というと、辺りがザワザワしだす。


そして、辺境伯様が、


「では精霊様がアルサード王子殿下に嫁ぐ事は可能なのか?」


と、聞くと、ザワザワした会場が静まりかえる。


そう、俺もそれを昨晩色々考えたあげく、自称管理人さんへと質問メールを出したのだ。


すると、


『監視機能の映像等で、先日のお風呂場のお尻治療も、本日のプロポーズも知っております。』


と書き出された自称管理人さんからの返信メールには、


『本人が良いのであれば何の問題もありません…それが可能になる機能ならば既にリストにありますよ』


と締め括られていた。


そう、ナビゲーターの実体化…(通称嫁機能)一万ヒッキーポイントの使いどころが来たのかもしれないのだ。


俺が、


「結論から言いますと、可能です。」


と、ユーノス様の質問に答えると、会場の辺境伯派閥の貴族達がドッと沸き立った。


あまりのお祭り騒ぎに呆気にとられていると、ダイムラー伯爵様が、


「でかしたぞ、これで我らの派閥が王家と手を組む理由が出来た!」


と俺の肩をバシバシ叩く…


『ちなみに超痛かった…』


それから辺境伯様達から色々と聞いたのだが、軍務卿派閥が王家と一定の派閥が近づく事を邪魔しているらしく、今回の婚約が上手く行けばこれで正々堂々と正面から誰の邪魔を恐れる事無く王子の婚約者の出身地方の貴族としてユーノス辺境伯派閥が名乗りをあげられる事と、一般人であれば王家へ嫁ぐ為にどこかの貴族の養女になるのが普通だが、既に多くの中央貴族が精霊ベッキーとして認識しており、壁や建物を作る能力等も住人達からも聞いているので今更軍務卿が、


「我が家の養女として…」


などと騒いでも、貴族よりも精霊を嫁にしたという方が王家としても自慢になるので下手に養女などにはならなくて良い…

つまり、テカテカおやじの影響を全く受けずに王家と仲良しになれて、次期王妃候補に尻尾を振りたい貴族が軒並み辺境伯派閥に流れる可能性が出てくるのだ。


上手く行けば、戦争がしたい派閥を排除してザムドール王国と終戦に持ち込めるかも知れないというオマケまでついてくる何とも良いことばかりなプロポーズだったようだ。


もしかして、これを見越した政治的意味の王家の打算があったかもしれないが、


『アルサード王子殿下のベッキーさんに対する思いは純粋な物であって欲しい…などと願うこの俺の気持ちは何だろうか…』


と、よく解らない感情を抱きつつ、俺は派閥の貴族の方々にベッキーさんを現世に召喚する為に特殊なポイントが沢山必要な事や、現世に現れたベッキーさんはもう精霊ではなくなる説明をすると、


「とりあえず、ここからは本人も交えて会議をしたい!」


と言われてゾロゾロとニンファの町へと移動する事になった。


まぁ、本人を交えての会議というか、貴族達としては次期女王候補への挨拶会場と化した町役場で、俺は改めてベッキーさんに、


「王子様からのプロポーズを受ける?」


と聞くと、投影クリスタルに映るベッキーさんは恥じらいながら、


「はい…」


と答えた。


それを聞いたニンファの町の住人達もプロポーズの行方が気になっていたらしく、町役場の周りからも住人達の歓声が上がっていた。


お祭り騒ぎの中でユーノス辺境伯様が、


「この夏、軍務卿一派が戦地に居る間に国王陛下へ謁見をするので準備をしておくように…」


と言われたが…


『えっ用意とは?…心の準備でしょうか?それとも一万ポイントでしょうか?…』


と聞きたかったのだが、


「ベッキー様万歳!」


と騒ぐニンファの町の住人と、それに混ざり浮かれ騒ぐ貴族達に、色々と聞くタイミングを逃してしまった俺とこの状況にどう反応して良いか解らないベッキーさんを映すクリスタルだけがニンファの町の中で周囲から浮いていたのだった。

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