第131話 喜ぶべき事とは思うが


人生とは何が良い方に作用するか解らない…

風呂場での一件以来、俺はシーナさんと凄く仲良くなった。


いや、勿論前からラブラブで仲は良かったが、前よりももっと自然に一緒にいられる様になり、今ではシーナさんの近くが一番落ち着くまである。


あと、ついでにバーバラさんの親戚のおばちゃん化が凄い…もう、バーバラさんとは最近では、


『あれ?俺、この人にオムツ替えて貰った事があるかも…』


ぐらいの距離感である。


『まぁ、もっと他の事でユックリと仲良くなりたかったけどね…』


などと考えながら、ジャルダン村の西側に新たに壁で囲んでいた、植樹用の苗を育てたり魔物の保護に使う予定にしていたエリアを増えた50名の食糧の為に畑にする作業に入っている。


現在、ナナムルでは国王陛下をお招きしたパーティーでバタバタしている頃だが、俺は例の軍務卿と昨年色々あったので、表向きは、


『あのテカテカおやじに気を遣い遠慮している』


という事にしてもらい、ユーノス辺境伯様が上手いことアチラの対応してくれているらしい…

ラースト軍務卿様の奥方様には、俺からの贈り物のとして石鹸とキャラメルを用意して、


「ジャルダン男爵からです」


と言ってプレゼントを渡すらしく、軍務卿としては俺がビビって、


「精霊は無理ですが、これでひとつヨロシクどうぞ…」


みたいに贈り物を用意したと思うし、あわよくば、今話題の石鹸やキャラメルで軍務卿の奥方を魅了出来れば…

との下心満点のプレゼント作戦をユーノス辺境伯一家総出で仕掛けている頃だろうと、遠い空の下で繰り広げられているであろう貴族達の化かし合いに思いを馳せ、


「俺には無理な世界だな…」


と、呟きながら村人と共に、昨年植えて芽が出たドングリを土ごと掘り起こし壁の外の禿げ上がった森へと植え替えている。


上手く育てば薄毛治療をするのも手遅れではないか?と思えるこの禿げ散らかした森の木々も復活し、その木々にドングリが実る頃には池の向こう側の山に沢山いた獲物となる魔物達がこの森にも帰って来てくれるだろう。


あと、村ではガルさん親子が俺が尻から血と瞳から涙を流しながら見つけた新しい採掘場で取れた鉄を加工してみてくれている。


まぁ、大丈夫とは思うが、ドングリの植林も一段落ついたので工房を訪ねるとガルさん達がミンサーを量産していた。


ガルさんは、


「おう!旦那ぁ~、何の問題もないぜ。

良い鉄だ!尻を怪我しただけの値打ちが有るってもんだ!!」


と、誰から何を聞いたかは知らないが、もうあの一件は全員知っていると考えていいと感じた俺は、

チラリと周囲の人物に目をやると、一緒に行動していたナッツもだが、セラさんまで目をそらしたので複数犯の仕業なのが疑われる。


小さなタメ息を吐きながら視線を落とした床に、鋳型からこぼれたのかパチンコ玉ぐらいの鉄の歪な鉄の玉が幾つか転がっていた。


俺は、何気無くソレを拾いあげ手の中で転がしながらある事を閃いた。


現実逃避の賜物であるその閃きとは、この鉄の礫って、小型ガーディアンが撃ち出せないかな?という好奇心にも似たモノである。


視察も終わった後で俺は、イチローを闘技場へと呼び出して、小型ガーディアンの射撃実験をしたいと告げてイチローに通訳をお願いすると集まってくれた三体の小型ガーディアン達は、


「了解」


と言ってくれたらしく、イチローが通訳する前に、装填されている小石を木の板を立て掛けた的へと打ち出し、続いてウニの食事の様に鉄の礫を足で体の中心に寄せて取り込み、再び的へと打ち出すと、石礫では木の的に凹みを作る程度の空気砲だったが、見事に鉄の玉が木にめり込んでいた。


『これならば虫魔物の駆除や小型の鳥魔物の撃退だけで無くて、小型の魔物ならば討伐できる程の火力が有るかもしれない』


と考えた俺は、村の鍛治工房に急ぎパチンコ玉の量産をガルさん親子にお願いした。


ニルさんは、


「マッスルトラウトの鱗や、魔物の牙を練り込んだ魔鋼の玉も作ってみるよ」


とノリノリになってくれて、ジャルダン村とニンファの町とティム牧場の警備をしている小型ゴーレム達が一気に頼れる狙撃手として生まれ変わったのだった。


そんな事をしながら数日過ごし、予定では陛下達御一行が中央へと戻った日の夜にマスタールームに意識を飛ばすと、ベッキーさんはニコニコして何故かヒッキーちゃんはプンスカと怒っている。


『喧嘩でもしたのか?』


と、心配しながら話を聞くと、なんとベッキーさんが熱烈なプロポーズを受けたそうだ…しかも、お相手を聞いて更にビックリ!王子殿下だというではないか!!

何でも昨年ベッキーさんに出会い一目惚れしたそうで、一年間ベッキーさんだけを思い続けて練習したプロポーズの言葉をニンファの町にわざわざ立ち寄り伝えてくれたらしいのだ。


ベッキーさんも、


「あれほど熱く殿方に求められるなんて…」


と、まんざらでも無い反応である。


小型ガーディアンの記録したプロポーズ現場をモニターで見せてもらうと、あれほど幼く感じた王子殿下が何ともご立派に育ち、落ち着いた少年になっていた。


愛のなせる業か、成長という名の魔法か…


「これが、男子三日会わざればってヤツだな…」


と、呟きながら俺は、モニターに映る少年の一世一代のプロポーズの録画を眺めていた。


ヒッキーちゃんは、


「なんですか!?ドイツもコイツもっ!!」


と、いじけてしまっているのだが、多分、ドイツかコイツの中には俺も含まれていると思うので、何も言わずにマスタールームのキッチンに移動してヤケ食い用の食事を用意してから、ヒッキーちゃんを優しくキッチンにエスコートして、


「好きに食べな…」


と促すと、ヒッキーちゃんはキッチンにドカリと座り無言で食べ始めたのだが、俺がキッチンから出た途端に、


「ベッキーちゃんに、おめでとうって言いたいのにぃ!アタシのバァカァぁぁぁぁ…」


と、ヒッキーちゃんの泣き声が聞こえた…どうやら乙女心とは複雑なようだ。


ベッキーさんに、


「もしもだけど、ベッキーさんは王子様と結婚出来るとしたらプロポーズを受ける?」


と俺が聞くと、ベッキーさんは少し寂しそうな笑顔で、


「生きている世界が違いますが、出来るならばアルサード殿下の成長を見守りたいですね…」


と彼女は答えた…


『スゲーな王子様…白馬に乗らなくても、年齢なんか関係なく女性をメロメロにさせてるよ…』


と感心すると同時に、はてさてどうしたら良いのかな…

と俺は知恵を絞って考えてみるのであった。

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