第130話 密室での出来事


新たな鉄の採掘場所も手に入ったのだが俺は大事な物を手放したのかも知れない…


それは何故かというと、とりあえず尻の傷を洗って汚れを落としてからハイポーションを飲もうとしたのだが、外の井戸で下半身まる裸になるのはマズいし、自室でごそごそして家具などに血を付着させるわけにもいかないと考えた俺は、本日の担当のB子に小さい方の風呂の用意をしてもらい、血の着いたズボンを脱ぎすて、下半身だけ裸になり風呂場で傷を洗おうとしていたら、そこになんとシーナさんが心配して風呂場まで手当てに来てくれたのだ。


俺は、桶で前を隠し身を捩りながら慌てて、


「ハイポーションで治りますし自分でやりますから!」


と言ったのだがシーナさんは、


「ナッツさんから聞きました。

その…自分では見えない位置なので小石や土が洗えたか確認を…」


と、真っ赤な顔であるが、彼女は何故か使命に燃えた眼差しで俺の傷口と顔を交互にチラ見している。


『いや、俺の方がハズいのよね?この状況…』


と、思いながらも俺は、


「シーナさん大丈夫ですよ、唾つけとけば治る程度の傷ですから」


と、何とかシーナさんをお風呂場から退室していただこうと焦るが、ついに決心したのかシーナさんは俺を真っ直ぐ見て、


「足元まで血が滴っていて唾で治るわけありません。

早くハイポーションを飲まないとダメです!

さぁ、愛する方の傷を癒すお手伝いをするのも武家の娘の嗜みです」


と、少し怒られてしまった。


俺は観念して、


「では…」


と言って桶で隠したまま背中を向けてお尻を少し突き出して、そして…目を瞑った…


すると、シーナさんは、


「あの…桶をお借りします」


と言って、現在の俺唯一の下半身装備を取り上げて俺の傷付いたお尻の頬っぺたを洗い始める。


『グハッ!一人用の風呂場だから桶も一つしか無いのを忘れていた…』


と、ハートにクリティカルダメージを食らいつつも、


『あぁ、暖かいお湯がかかり優しくシーナさんの手が俺の傷ついた尻を…

落ち着け、落ち着くんだ!俺…

そして俺の俺!!怪我してるぞ…痛いんだゾ。

そんな場合じゃないんだゾ!!』


と、己を落ち着ける為に目を瞑り、傷の痛みに意識を全集中させて俺の俺が落ち着くのを待っていると、シーナさんの、


「思ったより深いですわね…」


との声が聞こえ、続いて、


「シーナお嬢様、ポーションが効くまで傷口が繋がる様に手で圧迫してください」


と、バーバラさんの声が聞こえる…


『なっ、何故バーバラさんが?』


と気になるが、何故か目を開けて確認したくない自分がいる。


声の配置から、俺の真後ろで傷口周辺をシーナさんが両手で圧迫してくれている…と思う。


そして、ユックリと足音が近づく…

もう、今更な気もして怖くて目が開けれない俺に、次の瞬間、


「さぁキース男爵様、一気にどうぞ」


と、すぐ側でバーバラさんの声がして、思わず目を開けると、目の前にハイポーションを持ったバーバラさんが!…

前門のバーバラ、肛も…いや後門のシーナ状態なのをしっかり確認した俺は、言われるがままにハイポーションを飲み干す。


すると尻の傷は癒えていくが、名前のよく分からないダメージが俺のメンタルをゴリゴリと削っていく…


俺はしばらくこの地獄を耐えているとシーナさんが、


「よし、傷がふさがりました」


というと、


「どれどれ?」


と言ってバーバラさんが俺のお尻の傷が有った辺りをフヨフヨッと触り、


「上出来でございます。

これならばベント坊っちゃまの様に傷が残る事はないでしょう」


と言っている。


いや、俺の心には消えない傷が残りそうなイベントでしたよ…

ただ、刺さったトゲが尻の頬っぺたで良かった。


これが俺のブルにジャストミートしていたらと思うと、違った意味の後門のシーナさんと出会う羽目になっていたであろう。


バーバラさんの登場も考えようでは、ある意味感謝するべきかも知れない…

なぜならば情報量がキャパシティーを超えて、俺も、俺の俺も一周回って落ち着けたからだ。


そんなイベントも無事に?…終了して、俺は現在マイホームの居間にてナッツに抗議の視線を飛ばしながらシーナさんとお茶をしている。


「お手を煩わせてしまいました」


と、俺がシーナさんとバーバラさんに頭を下げると、バーバラさんが、


「こちらこそ」


とだけ言ってシーナさんを見るので俺もシーナさんを見てみると、シーナさんは、思い出しているのか、真っ赤な顔で下を向いているし、その光景を見てナッツの奴は肩を小刻みに揺らして笑いをこらえ…いや、あれは笑っている。


『ちくしょう…ナッツめぇ!こうなる事を解っていたな…』


と、俺がナッツに怒りの視線を飛ばすと、


「知りませんよぉ~」


みたいな顔で目を背けるナッツ…

そんな感じで定期的にナッツを見つめる作業をしながらシーナさん達と話していると、シーナさんの一つ上のお兄さんのベントさんは、幼い頃に剣の稽古も兼ねてジャッカロープを草原で狩っているときに、背後からキツイ一撃を食らいお尻に角が刺さってしまったそうだ。


痛みで暴れながら慌ててハイポーションを飲んだので少し傷が残ってしまったらしい…

ベントさんはそれ以来、あの角の生えたウサギを「草原の魔王」と呼んでいるのだそうだ。


それ程トラウマだったのだろう…

俺は罠ネズミより風呂場がトラウマになりそうだったけどね…


『誰かさんがシーナさんを助っ人に呼んだせいで…

お陰様で、お尻の傷口だけは綺麗にふさがりましたよ!少しハートに傷が残りましたけどねっ!!ありがとうナッツ君!!!』


と、心の中でヤケクソの礼を述べてから、もう、範囲超拡大をして罠ネズミを回収したら、今日はもう寝ようと決めた。


少し血を流し過ぎたのか体がしんどい…

そして、心もしんどいので今夜は多分…少し涙も流すかも知れない…

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