第129話 相棒とのお出かけ
新しいニンファの町の土地に俺は少し期待していたのだが、残念な事にサーチの結果余り鉱物資源の無い普通の土地だった。
馬車工房用に鉄が欲しいのに…まぁ、メインは畑に使えれば良いのではあるが…
年末の追加工事でヒッキーポイントを使いきり、冬の間に貯まった滞在ポイントも大部分はニンファの町の倉庫類になり、本当はガーディアンゴーレムを追加で交換しようかとも思ったが、ポイントの関係上仕方なく小型ガーディアンゴーレムと監視カメラを追加で交換してニンファの町の監視体制を強化した。
敷地も広くなったし、建物が多く物陰や見通しの悪いところが多いが監視の目さえ増やせば、ガーディアンゴーレムを配置しなくても、しっかり者のベッキーさんが罠地獄で大概の不審者は対処してくれるはずである。
そしてギリギリ残したポイントでジャルダン村で範囲超拡大を一個交換して敷地を5ヘクタール増やして、鉄が取れる土地を手に入れたいのだが、
『どうしたものか…』
露天掘りで鉄鉱石が手に入る場所は裏山ごと削り取ってしまっていて、資材保管倉庫には鉄がまだ有るにはあるがガルさん達が使う分でとてもニンファの町で馬車工房にまわす分は無い。
裏山は鉱脈が地表近く迄来ていた場所らしくサーチをしても鉄の取れた辺りの地下には鉱脈は無かった。
このままではジャルダン村の鉄も追加がないとピンチなのだ。
ポイントがあれば裏山周辺を手当たり次第に敷地にしてからサーチをすれば、裏山に来ていた鉄鉱脈の何処かにぶつかる可能性もあるが、ポイントは範囲超拡大を一回分だけしか今はない。
実際に探索をして鉄がある確率が高い方向を確認した後に、そちらに敷地を伸ばす事にしてナッツと二人で久しぶりの冒険に出かける事にした。
探索ならガーディアン達を行かせれば良いと思うだろうが、ガーディアン達は敷地外には出られないシステムであるし、ジャルダン村の住人達がいくら前より強くなったとはいえ、まだ山頂にはうっすら雪が残る季節…村人皆で山狩りするには寒過ぎるし、滑落などの危険もある。
それに、単純に大人数での遭難も怖い…
なので今回は、黒光りシリーズを身に纏った俺とナッツだけで裏の岩山だった石の平地から、鉄分の多い場所を好むアイアンアントの巣を探して探索を開始する事にした。
元裏山の場所から四方を見渡す俺が、
「ナッツ、どっちに向かう?」
と聞くとナッツが、
「一旦池の向こう側のベアードさん達が隠れ住んでいた山を目指しませんか?」
と提案してくれたので、二人で北東方向へと進路をとる。
すると、鉄の鉱脈やアイアンアントは見つからなかったが驚く事が判明した。
黒光りシリーズのお陰で移動が早いのである。
確かに速さに補正がかかるのは知っていたが、長距離移動にもこんなに差が出るとは…
若干頭の隅にイメージとして、カサカサという音と黒い物体が過るのが珠に傷だが、帰ったら余ってる黒光り合金でバーンの馬具を作ったら最強の早くて強い馬になるかも…などと考えながらも出来るだけカサカサのヤツをイメージしないように移動した。
そして、例の洞窟に着いたがアイアンアントは勿論のこと岩場すら無く、代わりと言ってはなんだが跳ね鹿や森狼に穴堀り猪という懐かしい魔物に沢山出会った。
ナッツが、
「やはりこっちには沢山いますね。」
と、獲物の多さを知っていた様な口振りだった。
確かにこの辺りは、乱獲もスタンピードも関係無かった地域だったので獲物が残っているのも納得であるが、今回は安定したお肉用の狩場を探しているのではないので俺は、
「ナッツ、寒いけど一旦山頂から見下ろして岩場を探さないか?」
と提案するとナッツも、
「走り回るよりは効率が良いかも知れませんね。
積もっている雪もそんなにありませんし、太陽が出ていて暖かいので大丈夫でしょうから、このままこの山の山頂を目指しましょう」
と言ってくれたので、二人で山頂に向かった。
前世では、小さい頃から登山などやりたいとも思わなかったし車椅子生活になってからは勿論、山どころかユルいスロープさえ苦手だったが、今二度の人生の中で初めて、
「登山楽しい!」
と思っている。
装備の問題か、はたまたレベルの問題なのか…余裕のある状態で、景色を眺めながら山を登り遠くを臨んでも人工物の見えない大自然…絶景である。
雪が残るエリアまで昇ると魔物の足跡が沢山残り、獲物の多さを物語っている。
そして、ようやく登り切った山頂からはやっと人工物であるジャルダン村と、その先にうっすらサイラスの町が見えた。
「ここまで来ると見晴らしがいいな…」
と俺が景色を眺めながら呟いていると、俺の隣でナッツは、
「キース様、感動しているところ申し訳ありません。
山を舐めておりました…
足を止めるとジワジワ寒くなり初めましたので早く岩場を見つけましょう!」
と、自分の体を抱きしめ足踏みをしながら訴えている。
二人で手分けして岩場を探すと、この山と次の山の間に渓谷があり岩場と赤土の山肌が見える部分があった。
『赤土は鉄分が豊富なんだよな…たしか…』
と思い出した俺はナッツに、
「あの辺りに行ってみよう」
というと相棒は、
「どこでもお供しますので早く山を降りましょう。」
と鼻水を垂らしながら答える…
エリーちゃんには見せれない状態のナッツの為に、急いで獣道を通り目的地を目指すと渓谷の側でアイアンアントの巣の入り口をみつけた。
「ナッツ!やった、アイアンアントだよ」
と喜ぶ俺はすっかり忘れていたのだ。
アイアンアントが主食の厄介なヤツの存在を…
俺は見事にヤツの巣穴の端を踏み抜きバランスを崩して落ちていく。
そう、鉄トゲのハリネズミ…罠ネズミの巣穴へと落ちて串刺しの運命を待つだけの死に体の俺だったが、それを間一髪でナッツが伸ばした手を掴み何とか命は助かった。
…のだが、手を掴み、穴の壁に踏ん張った足…そして、全てが関係して突き出した無防備な尻にしっかりと冬眠中の罠ネズミの針がプスリと刺さってしまったのだ。
俺の名誉の為に言っておくと、『お尻の頬っぺた』である!
断じてホールインワンなどはしていない!!
地表に戻り俺が痛む尻を確認している隙に、ナッツは針を避けて穴に入り、罠ネズミを冬眠から永眠へと深い眠りにシフトチェンジさせていた。
俺は
「しくじったよ…血が出てる…」
と凹みながら、ビンが割れるのを恐れてポーションを持って来なかった事を悔やんでいた。
罠ネズミの穴から生還したナッツは、尻に手をあてては手のひらを確認する俺に、
「お尻でも拭いてるんですか?」
と言ってくる。
俺は半泣きのまま、
「ナッツもツッコむこと有るんだね…」
と返事をするとナッツは、
「その感じならば村まで帰れますね」
と冷静な判断をしてくる。
俺は、
「痛いよぉ、血がまだ出てるのに?」
と抗議するがナッツが、
「寒いですし、ポーションもありませんし、早く帰って敷地に指定して罠ネズミを回収して頂きたいので…」
と淡々と述べる…
「ナッツよ酷いじゃないか…相棒が尻から血を流しているんだよ」
と俺が拗ねるとナッツは、
「サイラスの冒険者ギルドマスターも言ってましたよ。
長い座り仕事で尻から血を吹き出してもポーション飲まなくても傷軟膏で大丈夫だって…」
と真顔で言ってくるので、
『それは痔の話では?…』
と、思うのだが、まぁ無いよりはマシなので、
「じゃぁナッツ傷軟膏貸してよ」
というとナッツは、
「持ってませんよ」
と答える…
『持ってるからの発言では無いのかよ…』
と、心の中でツッコミつつ尻を押さえながら二人で村に向かう。
途中で、なかなか止まらない血に怖くなり、
「ナッツぅ、血が止まらないよぉ…このまま死んだりしないかな?治るとしても綺麗に治るかな?」
と、弱気な発言をするとナッツは、
「尻から血を吹いて死んだとなれば村に石碑を建てて後世にこの教訓を残して差し上げますが、これぐらいであれば大概のキズは唾つけとけば治りますよ…魔物も大概そうしてるでしょ…」
と呆れている。
しかし、
『ちょっ…酷くない?…それに治るかどうかより、綺麗に治るかどうかが問題なのだよナッツ君…』
と思いながら俺は、
「自分じゃ舐めれないからナッツが舐めてくれる?」
と、冗談をいうとナッツは更に呆れながら、
「キース様…そういうのはシーナ様にお願いしてあげて下さい。
さっ、早く帰って舐めて治して貰いますよ」
と言ってくる。
俺は、
「村まで帰ったら普通にポーション飲むよ!
傷口洗ってからポーション飲んで傷痕も残らないようにするんだから」
と、昔の様にしょうもない会話で気を紛らわせてくれる相棒の優しさを感じつつ不名誉な傷を負って村へと無事に帰還したのだった。
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