第128話 春を待つ者達


2月の終わり、最後に行われる辺境伯領をあげてのパーティーの準備の為に戻ってきた辺境伯様やダイムラー伯爵様にも、


「目を離すと、すぐ厄介事に巻き込まれるな…」


と呆れられたが、新しくジャルダン村の住人になった五十名余りは村に溶け込み凍える事もなく冬を過ごしている。


解放奴隷の二十名の中には、元はシーバ子爵家の馬番の方もいて、


「動物とふれ合う仕事がしたい」


と言っていた三名はジャルダン商会傘下のティム牧場で競馬の飼育員として春から働く事が決まって、今は村一番の教え上手であるシュガー先生の元で牧場勤務に役立つ計算のお勉強中である。


それから、


「お金を稼いで一緒に奴隷になった家族を探して助けたい」


と、言っていた六名は、春からミックさんにお願いして行商人としてのスタートをきる為に先の三名と合わせて、こちらは名前の様に甘くないスパルタ指導コースでシュガー先生にお願いして、しっかりとお金の計算や仕入れと売値の管理など、商売に必要と思われる勉強をホークスさんも加わり短期間でみっちりやってもらっている。


冒険者になって稼ぎたい者や、畑を耕して暮らしたい者などは、どちらにしても力はいるので、そんな若者達には、報酬金の計算が出来る程度のお勉強と、闘技場でのレベル上げを冬の期間を目一杯使って、本人の希望をできるだけ叶えられる様にしたのだが…


問題は元ゲインズ男爵家30名である…


奴隷に落とされた騎士の妻と子供が半分と、あとは年期の入ったベテラン使用人とパック君のチームである。


子供達は村のお兄さんお姉さんに任せておけば、読み書き計算も大丈夫だろうし、奥様方は村のお店、石鹸や加工肉などな工房で働いてくれるみたいだし、庭師やメイドや執事などのメンバーはそのまま我が家の使用人として働いて貰うことになったので現在マイホームではA子達もいるのでメイド過多となっている。


執事のトムさんは普通に気遣い上手で有能なので有難いし、庭師さんは森の再生業務と村の樹木の相談役として働いて貰っている。


それと、トムさんの配下の二人は元は夫婦で売られていた奴隷だったらしく、ナッツやセラさんと同じ里の人で、ナッツと同世代の子供の両親だったそうで、ナッツが名乗ったら、


「本家の!!」


と驚いていたのだが、


『セラさんの時も思ったがナッツの実家はそれほどヤバいのだろうか?…』


と、少し気になってしまう。


あまりにも数の多いベテランメイドさんの一部と、騎士の奥さんの中には裁縫上手や料理上手もいるので、我が家の衣類の責任者のミリンダさんと新たに増えたメンバーの服の生産と、日々の食事の調理などで力を発揮してもらっている。


そして、俺はというと相変わらずジャルダン村とニンファの町を行ったり来たりしながら暮らしているのだが、現在はナナムルのユーノス辺境伯邸にて、今回の社交のシーズンの報告会に参加して皆様の戦果を聞いている。


南部周辺の他の派閥の貴族家や小規模な派閥が幾つか傘下に入るかもしれない事や、大きな商会の会長等が接触してきた事…

それと、中央の貴婦人方は髪の艶の秘密を知ろうと案の定ウチの派閥の使用人等に仕掛けてきたらしい。


お金をちらつかせたり、自分の手下の二枚目に歯の浮くようなセリフを言わせたりと…

あらかじめ予想していたのでこちらの派閥の使用人達も単独行動をさせずに数名で一組のチームにして、誘惑や圧力に対抗出来る体制を作っていたそうだ。


『本当に貴族の世界とは何とも恐ろしい世界だ…』


しかし、仕掛けて来た貴族家にはキッチリお礼をしたそうだが、何をしたかは俺はあえて聞かない事にした。


ユーノス辺境伯様は、


「なーに、蒸留酒や石鹸の販売の優先権を後ろの方になってもらっただけだ」


と言っていたが解ったものでは無い…

悪い笑みを浮かべる貴族達であるが今のところ死者は出ていないとは思うのでヨシとする。


そして俺からは、ニンファの町の住人が増えた事で畑が足りない件に、新たなジャルダン村に加わった住人の件を報告すると、ユーノス辺境伯様は畑の事について、


「中央の街道迄ならば好きに使え」


と言ってくれたが、それでは『俺が所有する』という別荘のルールから外れて魔物避けの壁が建てれない。


人海戦術で岩を運んでも良いがそんな作業をしている間に他の作業をしたい。


俺が、


「スキルの範囲内にするために可能であれば購入したいのですが…」


と言うと、ユーノス様は、


「必要な理由も解るからキース男爵にやるぞ」


と言ってくる。


俺は、


「土地を賜るような手柄もあげていませんので…」


というと、ユーノス様がやれやれと言った感じに、


「ジーグよ、お前からも説明したのか?

今回のキース男爵の功績を…

そこらの区画の1つや2つどころか辺境伯領の有り余る土地を一部切り取り領地として与えても良いぐらいだぞ…」


と言いながら、どうしたものかと考えていると、ダイムラー伯爵様がユーノス辺境伯様に耳打ちをする。


すると、


「何?!それは良いことを聞いた」


と、ユーノス様がパッと笑顔になりニヤリと俺に微笑んだ後、


「キース男爵よ。

その方、昨年の酒を更に熟成させているらしいな…自分用にコッソリと二種類を一樽ずつ…

それを、私に献上するというのはどうだ?

ニンファの町から中央へ行く街道までの土地を褒美として与えるぞ」


と条件を出してきた。


ぐぬぬぬ…良いところを突いてくる…

仕方ない!二十歳まで飲まないつもりだし、あと二年も寝かしたら300年以上の熟成になるので、そんなに熟成させた物は飲めるかどうかも怪しい…

普通の保管倉庫に入れておくのも勿体ないし…百年物程度なら旨いはず…そして、今は酒より畑が欲しい…


『よし、解った!

この世界で初めての百年物の蒸留酒を献上してやろうじゃないか!!』


と俺は覚悟を決めて、


「喜んでユーノス辺境伯様に献上致します」


と告げるとユーノス様は、


「ダイムラー将軍よ、楽しみだな!」


とニコニコしている。


ダイムラー伯爵も、


「パーティーにて我が家の者がジャルダン村で仕込んだ酒と飲み比べをいたしましょう」


と騒いでいる。


「それは国王陛下もお喜びになるはず!」


と周りも楽しそうだった。


会議の後でユーノス辺境伯様のところの文官さん達とニンファの町に戻り、酒を謹んで献上させて頂き晴れて別荘の敷地が倍以上になった…


『まぁ、酒二樽だけで、広大な土地を手に入れたのだから儲かったと思おう!』


と割り切り、俺はニンファの町に移築してある村役場からマスタールームに飛び新たに別荘になった土地の確認作業に入った。


日課の食糧の具現化で出しておいたカツ丼をヒッキーちゃんとベッキーさんがモッチャモッチャと楽しんでいる中で、


「二人ともユックリ食べてて良いからね」


と言って俺はメインモニターで敷地を確認する…

デカい…マップの縮尺をいじらないと全部が表示出来ない。


「こりゃー監視カメラとガーディアンを増やさないとダメかな…」


と、俺はマップを見ながら呟きたくなる事になっていた。

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